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第3話 菖蒲2

■□■□■


 果たして、花屋は意外にゲームセンターの近くにあった。

「“Aurélia”……何語かな? 読めない」

「英語じゃなさそうだけどな」

「あ、お客さん? いらっしゃいませ」

 店の奥から出てきたのは、若い男性だった。髪は黒くて少々長く、後ろで軽く束ねている。付けている花屋のエプロンや耳のピアスが良く似合う、イケメンというか美人だ。中性的な人で、一瞬女性かと思ってしまった。

「どうぞ、お入りください」

 そう言って、男性は俺たちを店の中へと促す。

 店内は、花屋だけあって花の香りが広がっていた。明るい印象の店内で、ここにいるのが心地よい。

「何をお求めですか? 家に飾る花? それともプレゼント?」

「えっと……今日、俺の彼女の誕生日なんです。それでプレゼントを贈りたくて」

 少し照れながら、文斗がそう告げた。男性はそれを聞くと、微笑んで答えた。

「彼女は、どんな人? どんな花を贈ってあげたい?」

「えっと……そうですね」

 聞かれた文斗は、顔を真っ赤にしながら答えた。

「きえちゃんは……俺の大切な人です。普段は大人しいんですが、俺が落ち込んでるときはいっつも助けてくれる。どんな花を贈りたいかって言われると……感謝も込めて、何か贈りたいとは思うけども……」

「いいねー、青春真っ盛りだ」

 そう言って男性は笑う。冷やかして笑っているわけではない。本当に、文斗の事を祝福しているような、優しい笑顔だった。この人の笑顔は綺麗だ。

「それじゃあ……菖蒲アヤメなんてどうかな」

「菖蒲……誕生日に贈るには落ち着きすぎじゃ?」

「そんなことないよ。ほら、こんな風に……白と紫の花を合わせると綺麗だし」

 菖蒲の入っていたところから、紫の花と白の花を取り出して組み合わせた。確かに綺麗だ。希恵のイメージにも合う。

「それに、菖蒲の花言葉もぴったりだしね」

「菖蒲の花言葉?」

「『情熱』と『恋人』。それと、『あなたを大切にします』って意味もある」

 文斗が、更に顔を赤くした。花を渡すときの想像でもしたのだろうか。

「菖蒲にします。絶対菖蒲が良い」

「はは、かしこまりました」

 男性はカウンターに菖蒲を何本か持っていき、ラッピングを始めた。慣れた手つきで、花を包んでいく。

「そちらのお兄さんは? 何か買っていかないの?」

 俺に言っているようだけども、生憎俺は付き添いだというだけの存在であって、俺個人が何か欲しいわけでもない。花を贈るような相手もいない。

「いや、俺は付き添いで来ただけなので」

「そっか。でも、気が向いたらまた寄ってね」

 はい、と言って彼がラッピングの終わった菖蒲を差し出してきた。文斗がそれを受け取り、お代を支払う。表情は緩んでいる。よっぽど渡すのが楽しみなのだろう。

「……あ」

 ふと、店員の男性が何かを思い出したかのように声をあげ、俺たちの方を見た。

「それは、これから渡しに行くの?」

 店員さんが、文斗にそう聞いた。文斗は静かに頷く。元からそういう計画だったらしいので、当然の反応だ。

「じゃあ、君はこれから暇?」

 そう言って、俺を指さす。確かに文斗の事ばかりで、これからの自分の行動を計画していなかった。いや、計画する暇もなくここに連れてこられたのだが。

「あ、はい。何も無いですよ」

「じゃあ、彼を借りてもいいかな?」

「大丈夫ですよー。寧ろ借りていって欲しいぐらい。居ても邪魔だったんで」

 おいおいおい、ちょっと待て。ここまで連れてきたのはお前だろう? とは言えなかったものの、その気持ちを込めて俺は文斗を睨んだ。本人には全く気付かれなかったので、意味は無かったが。

「じゃあ借りるね。頑張ってきてね」

「はい、ありがとうございます。頑張ってきます」

 照れながらも文斗はお礼を言い、花束を持って店を出た。これから上機嫌で彼女の家に向かうことだろう。なんだか想像できる。浮かれ過ぎて車に轢かれなきゃ良いが。いや、一回轢かれて目覚ませば良い。

「さて、何で引き留めたかっていうとね、実は頼みごとがあるんだ」


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