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ヒステリシスの青

作者: 海原雄山

 (前回までのあらすじ)

 特に悲観的な性格でもなく、どちらかと言えば楽観的な性格である。福岡都市高速を時速100kmで走っていると私のうしろにピタリとはりつく車がいる。


 自動車というのは、たかだか100kg未満の重さの物を、遠くへ運ぶ為だけにその10倍以上の質量を運ぶものである。


 だからこそ、私は思うのだ。それは正しいのか、と…。


 パトカーは私の車の窓を開けるように指示したが、あいにく、右フロントの窓が壊れており、私はドアを開ける事にした。


 「窓がこわれてるんですよ」


 笑いながら言う。その顔に、喜びの文字など、本来は、ない。


 この笑顔が嘘である事は、きっと私の底の意思も、きっと警察官のいつかの考えでも、見抜かれているだろうことだ。悪い事なんてしてませんよ、と自らアピールする様なそのゆらけた笑顔。まったく意味の無い笑顔だとは言わない。嘘でありながら、それは互いが必要とした嘘だ。


 警察官は、わたしに速度20kmオーバーの違反であることを告げた。


 とっさに私は、私のハラを指して言ったのだ。「わたしが、産気づいているんです。」


 では、と警察官は車の先導を行おうというのである。わたしのハラは、たしかに、出ていた。


 それが人としてうまれいづるか否かで、人の扱いは、ずいぶんと変わる。動物を虐待したり、遺棄したりする事は、犯罪であるのだと、わたしはどこかで読んでいた。しかし私はそれが嘘にまみれた偽善であると、知っている。動物を棄てる事が、罪ならば。動物を育てる事は、罪でないのか。そんな考えはときたま誰しもの頭に浮かぶ事実だろう。


 人が動物を飼う、そしてそれをペットと呼んだり、家畜と呼んだりするのである。私はオクラを育てているが、またそれも同じ事なのか。人のわずかな気持ちで、そのペットとやら、家畜とやら、オクラとやらは、簡単に死に至る。これは、罪とか、罪じゃないとか、そういうものではない。


 力だ。単純に、人の持つ力が、すべての生き物を超えたからだ。生き物たちの命が、もしくは生き物たちの生きざまが、人の手によって、意識無意識かかわらず、制御されうるのである。その制御しているという実感に、罪を感じているのである。それが力だ。力を行使する事に、罪を感じているのだ。


 それを時に力の濫用という。しかし何が許される範囲であって、何が許されぬ範囲にあるのか、それは時と人が常に変えてきたし、それを伺うなら、自らが実験台になってでも裁かれる以外に、確かめる方法など、ない。


 人が制御できないものがあったとすれば、人は罪の反対の気持などは、とうてい感じていない。これを人は運と呼んだ。大きな津波。火災。噴火。人の力で制御するには、あまりにも大きな脅威が、ちまたにはあふれておった。


 では自然という、驚異的な力は、人の飼い主ではないのか。そこには、憐みの目があったのではないか。人はその神とも言うべき、自分たちを制御しうるものたちをも想像した。


 制御する事は罪か?制御される事は、本当に嫌だと思える事なのか?


 結局病院に着いたが、私は別に妊娠などしてはいなかった。まあ、そんなものである。ものすごく近い立場にいる警察官と言う力に対して、私は恨みをもった。このやろうと。そう、私が敵うかもしれない、届くかもしれない力の主に対しては、反抗しようとする。抗おうとする。意味がありそう(・・・・)だから。


 力の近いものに制御されると、それを嫌だと感じるのだ。


 力の遠いものを制御すると、それに憐みを感じるのだ。


 そこには、はなはだ大きな断絶があるのだ。


 人は、神レベルの理解不可能な力に対して、畏怖するしかなく、それにはむかおうと爪を立てる事はない。


 飼われたものは、人レベルの理解不可能な力に対して、畏怖するしかない。その力を見せる事が、彼らの畏怖なのだ。


 だから、むやみにその力を行使する事は、罪なのだと、人は思う。

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