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<9>

「それでは、ごゆっくりお楽しみ下さい」


給仕はにこやかに頭を下げると、去っていった。


「今度は何だか偉いのが出てきたな」


給仕が奥に消えてから、彼がぽつりと呟く。

円らな瞳は、まるで何かを見透かす風に湯気立つ赤い液体を見詰めていた。


「美味しそうね」


正直、一滴も口にしたくなかったが、そう応える。


流れてくる曲は、いつの間にかピアノからジャズに変わっていた。

色々な楽器がめいめい勝手に騒いでるみたいな曲だ。


「熱い内に飲もう」


彼が白いカップに口付ける。


白い地肌の色にほんのわずかに朱を含ませた、柔らかな唇。

これは化粧品では決して作れない、天然のものだ。


この唇を眺めていると、高値のルージュを引いたあたしの唇が酷く安っぽい作り物に思えてくる。


でも、あたしはルージュのうっすら移った彼の唇も好きだ。

口付ける前は、いつもこの唇の形にぴったり合わせる様にルージュの色を移したいと強く思う。


でも、いざ唇を重ねると、どんどんずれて、彼の頬や、うなじや、胸板の辺りにまで滲んだ緋色の跡を付けてしまう。


この人の体は、どこに口を付けても陶器の様に滑らかで、しかも触れると一瞬ひんやりしている様で、温もりが静かに湧き出てくる。


そして、奥深くに隠された部分に進むほど、温もりは熱に変わるのだ。

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