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<6>

「あはは」


思わず目を上げると、彼がひたいに手を当てて笑っていた。


「またやられたよ」


細く長い指で秀でた額を叩く。

張り詰めた絹に似た、滑らかな額。


「君とこういう店に入ると、僕はいつもボーイの奴に睨まれるんだ」


口調はおどけていたが、目はまた叱られた子供の様に伏せていた。


「君みたいな女性がどうしてこんな男と、と思われるんだろう」


彼はまるで詫びる風に呟いた。


背丈はヒールを履いたあたしと同じくらいだし、華奢な体つきも白いシャツの上から見ると男にしては貧弱だとか、あるいはいかにも柔弱で女みたいな顔だとか、彼の姿形だって、ケチを付けようと思えば出来なくはないかもしれない。


しかし、この横顔を目にして、美しいと感じない人間が果たしているだろうか。


「それは思い過ごしよ」


あたしも知らず知らず膝に組んだ手に目を落とす。

右手の薬指でダイヤモンドがきらりと刺す様に輝いた。


この人の目には、あたしが本当に高貴な女に映ってるんだ。

金持ちの若妻を装って男を騙し、美人局の片棒を担ぐ、ゲスな女が。


黒い繻子しゅすの襟が首を締め付けてくる。

こんな上等な生地や値打ち物の宝石なんて、お前に着ける資格はない。

身に着けた物からもそう言われている気がする。


ひょっとすると、さっきの給仕が睨んだのは、彼じゃなくてあたしの方だったのかもしれない。

ここの給仕なら一応はまともに働いて稼ぎを得ている。


あたしときたら、それにすら及ばない。

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