表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

<3>

「今日は顔色が悪いね、マリア」


あたしの偽の名前を呼ぶ彼の優しげな目が曇る。

二つの澄んだ黒い目の中には、怯えた顔つきの女が立っていた。


「そうかしら?」


何て酷い顔だ。

口の端をきゅっと上げると、彼の瞳に居座る女は、今度は引きつった笑顔になった。


「今日は、部屋に行く前に……」


彼はそう言い掛けると、目を逸らした。


――今の君は、見るに堪えない。


そんな心の声が聞こえる気がして、あたしは背筋が寒くなる。


だが、次の瞬間、通りを見据える彼の目がパッと輝いた。


「あの店で、お茶でも飲んで行こうか」


二区画先には、新しいカフェがある。

この前二人で映画を観た帰りに寄ったが、上海に数多あまたあるカフェの中でも最高の部類だと思う。


ただし、彼が払ってくれるとはいえ、紅茶一杯の額は、普段のあたしの一食分よりも高い。


「それがいいわ」


今度は自然に見える様にと念じながら、笑顔を作って頷いた。

腕を組み直すついでに、それとなく彼のシャツの袖口から覗く腕時計を確かめる。


二時半を回った所だ。

ボスの指示は五時。

あの部屋に連れ込むまで、あと二時間半は恋人でいられる。


強まる午後の日差しを浴びて、彼の腕時計の文字盤に嵌め込まれた丸い玻璃ガラスが冷たく光った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ