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――ボーン。
急に頭の上から、音が降ってきた。
見上げると、あたしたちの席のちょうど上に、大きな壁時計が取り付けられていた。
――ボーン。
「Ⅰ」だの「Ⅹ」だの金色の針を並べたみたいな文字盤の下で、抱き合った男と女の人形がクルクル回っている。
――ボーン。
狭い玻璃戸の向こうで、閉じ込められた金メッキの二人はひたすら踊り続ける。
――ボーン。
すぐ近くで鳴っているはずなのに、どうしてこんなに遠く感じるのだろう。
時計の音は鳴り止むというより、辺りの空気に流れ込む風に消えた。
あたしは言いかけたまま言葉の出所を失った唇を閉じ、沈黙に目を伏せた。
「四時を過ぎたな。あいつらは今頃カンカンだろう」
低い呟き声が、静寂を破った。
「謝らなきゃいけないな」
あたしがカップから顔を上げると、彼はいつの間にか許容量一杯になった灰皿の上に最後の煙草を乗せて、苦い顔で笑っていた。
「俺は、君が思ってる様な男じゃない」
そこで彼の笑顔が急に歪んで、形良くまとめた髪を自ら崩す体で頭を横に振る。
「全然、違うんだ」
一瞬、唇を強く噛み締めると、彼は搾り出す様に続けた。
「金持ちな紳士のフリして、仲間と罠にはめようとしたんだ」
(了)