<12>
「主人は、あなたやお友達みたいな人とは違うの」
これだけは嘘じゃない。
「とても恐ろしい人よ。言葉では説明できないくらい」
言いながら、家にハジキを置いてきたことを一瞬だけ後悔した。
「わたくしが死んだって、あの人はすぐにまた別の女を後釜に据えるんだわ」
彼は、黙って煙を吐き出している。
今までのカモたちは全員、あたしの言葉を信じて疑わなかった。
いや、カモたちにしたって、本当はあたしの身の上などどうでもいいから、
こんな女の行く末なんて知ったこっちゃないから、とりあえず聞き流していただけかもしれない。
「昔のわたくしみたいな、軽率でバカな女をね」
――酷いご主人だね。
――信じられない男だな。
猫撫で声で囁きながら、どいつもこいつもあたしの首から下を眺め回していた。
――この女は、脱がしたらどんな体なんだ?
――床に入ったら、今日はああしてこうしていたぶってやろう。
そんな心の声が聞こえてくるみたいで、あたしはその度に吐き気がした。
そんな奴らから金を巻き上げたって、別に胸なんか痛まなかった。
スケベ心で引っかかった馬鹿の自業自得。そう思っていた。
どうせ、あたしの取り分なんて巻き上げる金の半分だし。
それだって、前回までは三割だったのを老大に交渉してやっと上げてもらったんだ。
今回のカモは若い男ですし、毎回体を張って三割の報酬じゃ割に合いません、と。
「そうなんだ」
彼は、今度は何だか哀しそうな笑いを浮かべていた。