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「それじゃ、莉莉、しっかりやるんだぞ」
ボスはそう言うと、返事を待たずに電話を切った。
いつもそうなのだ。
「結局、あたしは駒の一つに過ぎない」
お仕着せの淡い桃色のレースのパラソルを持ち直して、あたしは一人ごちた。
声に出してから、周囲に誰もいなくて良かったと思った。
わたくしは今、お金持ちの奥様なんだから。
おろしたての黒い繻子の旗袍の背筋を伸ばし、セットしたばかりの髪を撫で付け、ドロップ型の真珠のイヤリングを両耳に確かめる。
そうすると、一瞬だけ自分が本当に高貴な女になった様に思える。
実際、ボスの方針で、この「仕事」の時に身に着ける物だけは、本物の高級品なのだ。