第36話 貴方なら出来る・・・
俺とリリス…もといリリは、ヴァルハラ帝都の市街地にある、市場通りを巡っていた。
肉を焼く美味しそうな匂い、水飴を使って作られた動物型のお菓子、コーンを焼いてソースを塗ったもの、ソバを焼いたもの、どれも城や貴族のサロンではお目にかかれない庶民のソウルフードばかりだ、しかも安い。
装飾品も、色ガラスで出来たネックレスや、動物の羽を使った髪飾りなど、どれも貴族の令嬢が身に着けるような素材では無いが、装飾や形にこだわっておりどれも素晴らしい。
リリは先ほどの車酔いもすっかり良くなり、初めて見る出店や屋台に目を輝かせていた。
「欲しいものがあったら遠慮するなよ、このくらい俺が奢ってやるよ」
「まぁ!ありがとうござ…ありがとう、アース!では―――あ、あれ、私あれが食べてみたい!」
リリが指差したのはリンゴを水飴でコーティングした、蜜リンゴだ。
「すみません、蜜リンゴ2つね」
俺は銅貨一枚を渡し、小銅貨8枚を受け取った…そして蜜リンゴが刺さった串をリリに手渡す
「そ、その―――、フォークとかナイフとかは…」
「そんなもん要らないよ、ホレこうやって食べるんだ。シャリッ…ムシャムシャ」
俺は串に刺さった蜜リンゴにそのまま齧りついて見せた
「まぁ!アースの口の周り水飴でベタベタ!」
「これはそうやって食うから上手いんだ!さぁリリも食ってみろよ」
「は、はい・・・では!シャリッ…ムシャムシャ・・・・!!?あ、甘くてすこし酸っぱくてお、美味しい…」
リリは顔中が水飴でベタベタになるのを忘れ夢中で蜜リンゴを頬張る…俺もリリの横を歩きながら蜜リンゴを完食した。
それから、焼いた鶏肉の串や、牛乳と卵と砂糖を混ぜた飲み物、綿状にした飴など、今まで食べたことのない食べ物をお腹いっぱい堪能していく
そして、とある出店で足を止めた。
「ん?どうした?」
「あ、あの人形…動物の…」
どうやらリリの目当ては輪投げの景品で並んでいる、熊に似せた「縫いクルーミ」という人形だ
「どれ、ためしてみるか・・・主人、1回だ」
「小銅貨2枚だよ」
俺は財布から小銅貨2枚を取りだし、髭面の主人に渡しロープで出来た輪っかを受け取る
「この線からその輪っかを投げて、あの9本の棒のどこでも良いから3つ縦。横、斜め3つに輪っかをひっかける事が出来たら好きな賞品をくれてやる
」
「なるほど・・・真ん中に最初に引っ掛けれればかなり有利になるな・・・」
「おっ兄ちゃん、なかなかするどいねぇ」
だが言うは易しだ・・・俺の一投目は真ん中ではなく右下の棒へとひっかかる
「ちっ・・・もう一度真ん中だ」
第二投目・・・も、真ん中を外し左端の下に・・・もう真ん中の下に入れるしかない
何度も狙いをつけ第三投目・・・
「兄ちゃん惜しかったなぁ――棒から落ちちまったら失格だ」
「くそっ店主もう一度だ!」
―――――それからもう一度チャレンジしたが、結果、成功はしなかった・・・
「あ、あの・・アース私にやらせてくれない?」
「あぁいいぞ、店主もう一度だ」
店主に小銅貨二枚を渡し、リリが輪を手に線の前に立つ・・・
一投目・・・綺麗に放物線を描き真ん中の棒に輪がかかる
二投目・・・左上に輪がかかり、右下に輪がかかれば成功だ
そして三投目・・・
「あぁ―――お嬢ちゃん残念、輪が落ちちまったなぁ――」
「あ、あの・・店主さん、これ二人で協力して投げてはダメですか?」
リリが思ってもみなかった提案をしてきて店主も目を丸くしている
「そ、そりゃ別に構わんが・・・どういう事だ?」
「ありがとうございます、アースお願い」
俺はリリに言われるがまま、店主に小銅貨2枚を渡しリリが三つの輪を受け取る
「はい、これはアースが最後に投げてね」
そう笑顔で輪を一つ俺に手渡すと、リリは真剣な表情で線の前に立ち輪を構え投げる
それは最初と同じ軌道で真ん中の棒に吸い込まれるように引っかかると、次の二投目も同じく左上の棒にかかる
「さぁ最後はアースお願い」
リリに手を引かれ入れ替わるように線の前に立つと・・・
「アース貴方なら出来るわ、必ず・・・・」
そう言い、背中に手を添えるリリ
「あぁ任せろ」
力強く頷き、線の前に立ち狙いをつける・・・
(さっきの感覚だ・・・前に一度成功させてるんだ、もう一度同じことをするだけ・・ん?前に一度経験してるから、出来る事?それが今の俺?)
『貴方なら出来るわ、必ず』
先程のリリの言葉がやけに脳裏にこびりつく・・・・
俺はフゥ――と深く深呼吸し、無心で輪を投げた。
「おぉぉ兄ちゃんやったな!おめでとう!!」
輪は左上から右下へ斜めのラインで棒に引っかかっていた
「や、やった・・・やったぞ!リリス!」
「えぇやったわね、アーサー!」
「「あっ」」
店主の前で抱き合う俺達・・・すっかり偽名を忘れ本名で呼び合ってしまい店主は驚いた顔を見せる
「あ、あの店主これには・・・」
リリスが何とか誤魔化そうとするが・・・
「いやぁ熱いもの見せられて、おっちゃん久しぶりに感動しちゃったぜ、よし特別にこの首飾りもオマケしてやるぜ!」
そう言うと、俺にネックレスを手渡してきた・・・
「ん?どうしましたか?アーサー?」
嬉しそうにお目当ての熊の人形を受け取ったリリスが胸に人形を抱え俺の傍に駆け寄って来る
「そのネックレスが何か?」
震えながらネックレスを握る俺のことを見て、心配そうな表情を見せるリリス
「いや・・・・」
そう俺が見間違うはずがない・・・古びたコインが付いたネックレス
言い知れぬ不安感に、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
このネックレスは、1周目のあの時、そう、燃え盛る玉座の間で人生のやり直しを願った、あのネックレスだ・・・




