第34話 悪役令嬢は受け入れない
――――それから、1週間俺はヒルダらに警護され学園への登下校をした
ヒルダや警護の兵士は授業中も教室の隅で常に俺の身辺を警戒してるため、他のクラスメートもいつになく緊張して授業を受けていた。
そして、一番の変化が―――
(今日も、俺から少し離れた席に座ったか…)
右斜め下の席に独り座るランスロット、俺が視線を向けてもこちらを振り返る様子はない。
これは、ほぼ決定的と見て間違いないだろう。ランスロットの不自然なまでの俺との距離の取り方、急に朝方早くに学園に登校しだした事
周囲もそれとなく俺とランスロットの距離感には気付いているようだが、皇太子と公爵家の次男の不穏な関係に余計な首を突っ込んで大怪我したい奴は居ない…唯一
「アーサー様?最近、アガシオン殿とあまりお話になっておられないようですが?喧嘩でもなさったのですか?」
「いや、そんな事はない。俺達ももう19歳だ、再来年には卒業を迎えるというのに、いつまでも学生の仲良しごっこって訳でもあるまい?」
「―――普通の貴族の子息であれば、その通りだとは思いますが…アーサー様とアガシオン殿は私がアーサー様とお会いする前からの知己、そんな簡単に割り切れる関係ではないと思っていたのですが?」
(その簡単に割り切れる関係でないはずの奴が、一番最悪のタイミングで俺を足蹴にして裏切ったんだがな…)
リリスと対面に座り、サロンで昼食を採りながらの会話でそう切り出された
チラッとサロンの入口の方へ視線を向けると、ヒルダが険しい表情でこちらを監視しているのが見えた
「にしても‥‥」
ヒルダだけじゃない、他の生徒らも俺とリリスが同じ席に座っているのが奇異に見えるらしく、その会話の内容に耳を澄ましている
俺がジロっと周囲を睨みつけると、慌てて視線を外す生徒ら…
(まぁ仕方ないよな…婚約破棄されたリリス、全校生徒に向けその婚約破棄は自分の過ちだったと自白した皇太子、被害者と加害者が同じ席で普通に食事して会話をしてる――普通だったら有り得ないよな)
リリスはそんな事気にしてないのか俺の表情を見て首を傾げる
「あ、いや、あんな事があった俺達がこうして同じ席で食事をしてる事が、皆からしたら異様に見えるらしい」
「あぁ」
リリスはようやく、先ほどまでの俺の行動に納得した様だ、その上で
「宜しいのでは?」
「よろしい?何が宜しいのだ?」
「みんながどう思っていようが、所詮は外野です私とアーサー様は両家が決めた許嫁であって、アーサー様はそれをご自身の意思で破棄された、両家もそれを了承し「両家が決めた婚約」は正式に破棄された。」
「その通りだ、両家が国の為にと結んだ婚約を俺が自分の都合で勝手に破棄したのだ、それのどこが宜しいのだ?」
リリスは、ほうれん草のソースが掛かったパスタをフォークで丁寧に巻き取り、長い銀髪を耳にかけ口元へと運び片手で口元を隠しながら咀嚼する…そして口の中が空になってから水を一口含み、悪戯っぽく微笑むと
「でも、私は婚約破棄に対し何も申してませんよね?」
「え?」
俺はスプーンですくったピラフを口に運ぼうとしてその手が止まる
「ヴァルハラ皇家とミョルニル侯爵家、そしてアーサー様は婚約破棄をお認めになった・・・でも―――」
「この私、リリス=ミョルニルは婚約破棄を、まだ認めてはおりません」
「ちょっと待て、俺達の婚約は両家の決めたものだぞ?その両家が公式に婚約を破棄したんだ、これ以上に何がある?」
するとリリスは左手の薬指の指輪を俺に見せるように顔の横に広げ、微笑む
「ほら、この婚約の証は「私」と、「アーサー様」の二人で結んだものですよね?この指輪を外す事が出来るのは当人同士の意思のみ」
「だ、だがな…それだと」
「御父様や陛下の意思に背く?そう仰りたいのですか?」
「あ、あぁ」
「だから申したのです「宜しいではないですか」と、アーサー様は私にも見せてくれるのですよね?この国の進むべき「選択」を」
そう告げ微笑むリリスの表情は以前の様な冷徹な侯爵令嬢のそれとは違い、女性としての温かさを感じた、そして深紅に光るその瞳は以前にも増して強い意思と決意が感じられた
「リリス…お前、まさか―――」
「アーサー様、婚約破棄は「受け入れない」それが私の「選択」です」
リリスが見せるこの強い意思の宿った深紅の瞳―――
覚えてるぞ、1周目でナニーワとヴァルハラの丁度中間地点、セキ・ガハーラの大草原の決戦前夜に両陣営で顔を合わせた時、アドルの傍らに寄り添う様に立つリリスが見せた。
―――あの眼だ。




