第33話 戦乙女(ヴァルキリー)と呼ばれた、美人史書官
服を着替え寮を出ると、ヒルダと護衛の兵士三名が俺に向かって頭を下げる
「殿下の護衛を仰せつかりました、学園まで同行させて頂きます」
「あぁ、よろしく頼む」
先頭と左右に護衛兵、背後にはヒルダ…中央の俺の四方を固めるように歩く俺達の姿はかなり異様だ。
道行く他の生徒らは何事かとジロジロとこちらを見る。
護衛兵らは真面目だ、視界に入った生徒だろうが学校の職員だろうが威嚇するような視線を向け警戒を怠らない。
それなのに、俺ときたら全く緊張しない。
さっき自分で笑ってしまったが、1周目で裏切りに裏切りを重ねられ、偽りの信頼を踏みにじられて惨めに、誰にも知られる事なく瓦礫に潰されて死んだ。
あの結末より酷い死に方は無いだろう。と、ある意味で死を克服したような感覚だ
1周目で、もう少し人生という物を経験する事が出来ていたのであれば、違う感覚で今を生きてられたのかもしれないが、今は聖歴3561年、1周目で俺が死んだ聖歴3566年の僅か5年前でしかない
あの時はグネビーがいれば、他に何もいらないと思っていた
(あぁ、そう言えば帝都に反乱軍が押し寄せる少し前にプロポーズしてたっけな、結局返事をはぐらかされて、次の日にはアッサリ俺を捨てて逃げ出してたからな―――)
思い出したくもない記憶だが、こればかりは今の俺が死ぬまで忘れる事は出来ないだろうな
そんな事を考えながら登校していると、俺達の前方にリリスとフェンシング部の仲間二人の後ろ姿が見えてきた。
(マズイな…リリスの奴、昨日約束した事ヒルダの前で口にしたりしないよな…)
『でしたら、是非、私も―――――』
はぁ――――
思わずついた溜息に、リリスらが気付き振り返る
「やぁ、リリスにフロイライン達、おはよう」
無難に軽い挨拶で様子を見る
「アーサー様、おはようございます」「「おはようございます」」
リリスは相変わらず凛とした立ち振る舞いだが、その表情はいきぶんか軟化したような気がした
(でも、やはりリリスの新取り巻きの二人の視線は敵意丸出しだな…)
そんな俺の背後に控えるヒルダが、スッと俺の前に出てリリスと取り巻き2人に向かって頭を下げる
「これは、ミューズ子爵嬢とハーメルン子爵嬢ではございませんか」
「!?ヒ、ヒルダ様!?まさか朝の登校中に、学園の伝説、戦乙女にお会い出来るとは、感動です!も、もしよろしければ、このフルーレケースにサインを頂けませんか!」
「あっ!ずるい――私も、是非、お願いします、ヒルダ様!」
「なぁ、リリス…ヴァルキリーって何だ?」
「!?アーサー様はご存じなかったのですか!?ヒルダ様は、我がフェンシング部に在籍していた間、終始無敗を誇った剣姫です。この帝国貴族学園の伝説ですよ!?」
「い、いやいや…無敗っていうならリリスもそうじゃないのか?」
小声でリリスと会話してると
「殿下、ヒルダ様は女子フェンシング部だけではなく、男女含め全武技で無敗だったんですよ?」
護衛兵の一人がリリスとの会話を聞いていたのか、説明してくれた
「つ、つまり、男子フェンシング部だけでなく、帝国軍剣術、チェスト(馬上槍試合)、アーチェリー部全てか?」
「はい、その上、学業の分野でも負け知らず、特に戦略課の授業では、あのルシウス先輩も教師の先生ですら、ヒルダ様の相手にならなかったとか。だからヒルダ様は先の卒業生の中でダントツの人気を誇っておられたんですよ」
「ほぉ―――」
確かにいつも的確なアドバイスをしてくれるとは思っていたが…ヒルダがそんな凄い才女だとは知らなかった。
ヒルダのサインに感動し大事そうにフルーレケースを抱え、歓喜し涙する生徒二人
「お待たせ致しましたアーサー様、それでは参りましょうか」
ヒルダが急にキリっとした表情になると、先ほどまで談笑していた護衛兵もシュッと姿勢を正す
軽くリリスに手を振り俺たちは学園校舎へと歩き出した
(アーサー様ってば、婚約破棄する前よりも今の方がリリス様との距離が近かったわね…昨日やっぱり何かあったのかしら…ちっ、まずいわ、これは早急に御父様に手を回してもらわねば…)




