第3話 暴虐皇子は謝罪する
「アーサー様、頭をお上げ下さい」
婚約破棄を告げたリリスに向け、謝罪し下げた俺の頭越しに冷たい口調でリリスがそう言って来た
ゆっくりと顔を上げリリスの顔に視線を向けると、無表情ながらもその赤い瞳は身震いする程冷たかった
「リリス・・・俺の事を許して・・」
「勘違いなさらないで下さい、謝罪は受け取りますが許すかどうかは別です」
「!?」
淡々とそう口にするリリスの言葉に横にいるアドルは安心した様に胸をなでおろしていた
「では、どうすれば許してもらえるだろうか?」
「・・・・私はこの帝国において、最大の影響力と領土を誇るミョルニル侯爵の一人娘、幼い頃よりこの国の未来の為、貴方を支える為にあらゆる教育を受けて来ました、そう国母として相応しい所作と教養を身に付ける為・・・」
「あ、あぁ・・・それは、わかってる・・」
俺はリリスからの圧に負け、思わずそう口から漏れた
「分かってる?一体何を分かっていると仰っておられるのですか?わたくしは、何度もアーサー様に次期皇帝として相応しい行いをと、申し上げて来ました」
『アーサー様、先ほどの講義の回答一体どういうおつもりですか?税制に関する知識は、国を治める者として当然知っておくべき知識です、これからわたくしと・・・あっ!アーサー様!!』
『先ほどの剣術の授業ですが、相手の上段からの振り下ろしに下段からの振り上げは悪手です、あの場合はいったん横に体をスエーして・・・って!聞いておられますか!』
そう、リリスは学園内で不真面目な態度で講義や実技を受けていると、いつも小言を言ってきていた・・・あの時はなんてウザイ女だと毛嫌いしていたが、あの焼け落ちる城の中で、彼女が苦言を呈してくれた事が俺の将来の為にも必要な事を教えてくれていたのだと思い知らされた
「あぁリリスが俺の為に・・・この帝国の未来の為に俺を叱ってくれていた事に今さらだが気がついた・・・その事も、今一緒に謝りたい・・・本当に申し訳なかった!」
そして再び頭を下げる
「はぁ・・・何あれ幻滅なんですけどぉ~やっぱ保険かけておこうかな・・」「本当に、アーサー様はどうしてしまわれたのだ?」
背後で腕を組んで、俺の背を冷めた目で睨みつけブツブツと何か言っているグネビーと、唖然とするランスロット
(あぁあの二人は、この時点ではまだ深い仲にはなっていなかったのか・・・だが今は・・・)
「はぁ・・・もう結構です、アーサー様これ以上他の貴族の子息女の前で無様をさらし・・・・」
「アーサー=ヴァルハラ!俺とリリス様を賭けて決闘しろ!!」
リリスに謝罪しこの場を何とか穏便にすまそうとしていたその時、アドルが俺に向け手袋を投げ付けて来た
「は?あ、貴方は一体何を!?」
思いもよらない展開に口を押さえ驚きを隠せないリリスと、俺をギラギラした目で睨み付け口元をわずかに緩ませたアドルが勝ち誇った様に上体を反らせる
「貴方は、リリス様の献身を受けるに値しない・・・だから・・俺が勝った暁にはリリス様に謝罪・・・は、もうしているか・・ならば・・・リリス様との婚約を解消しろ!!」
ザワザワとするパーティー会場・・・平民が皇太子と婚約者である侯爵令嬢との会話に割って入る事自体が異様な状況なのだが、コイツの聖刻の力なのか異様なこの場の雰囲気なのかその事に突っ込む人は誰も居ない、だからこそ俺は目の前のこの青髪の青年、アドルに追い込まれた
(誰もコイツの言ってる不敬行為を咎めないのか?・・・当人の俺がその事を口にしたら余計に場を煽る事になるし・・・この場は・・)
俺は足元へと落ちた奴の手袋へと視線を向けた・・・この手袋を手に取れば決闘を受けた事になる
しかし・・・・
俺はくるっと踵を返すと
「俺は決闘は受けない・・・リリス=ミョルニルへの正式な謝罪はまた後日させて頂く・・・この場は失礼させて頂く」
歩き去る俺の背中を、唖然としながら恨みの籠った眼で睨みつけるアドル
驚き赤い瞳を見開き立ち尽くすリリス
「役立たずの上、臆病者とは・・・」とブツブツ俺の事を蔑んだ目で見送るグネビー
「お、お待ちくださいアーサー様!!」慌てて俺の後を追いかけてくるランスロット
そして、社交会の場にいた他の貴族の子弟達は口々に俺にむかって「恥知らず」だの「臆病者」だの口にしていた・・・
アドルはその後、城からの衛兵によって拘束されそうになったが、持ち前の破格の腕力で全員をなぎ倒しどこかへと逃げ去ったと聞いた
その日の夜、窓から見える月空を見上げながら今後の事を思案していた・・・
(あの化け物との決闘は回避できたが、一度口にした婚約破棄を無かった事には出来ないだろうな・・・ここは皇帝陛下にミョルニル侯爵との仲介をお願いするしか無いか)
(それとあのクソ悪女グネビーと、裏切り者のランスロットだな・・・グネビーとは学園で距離を置けば良いとして・・・問題はランスロットだ、今の時点でアイツを俺から遠ざける理由が無い、この先でグネビーと関係を持つことになればアイツを俺から遠ざけるネタも出来るかもしれないが、それすら恋愛は自由なのでグネビーと別離する俺からすれば奴を責める理由にはなり得ない、取り合えずこれから先はランスロットに重要な事は相談しない様にしなきゃな・・)
コンコン・・・
「誰だ?」
部屋のドアをノックされたので、ドアの方へ向かってそう尋ねると
「寮長で御座います・・・アーサー皇子、いましがた早馬で陛下からの伝令が参りましたので書簡をお渡しします」
ガチャとドアを開け、初老の男が差し出した書簡を受け取ると
「夜分にご苦労」
「え?あ、いえ・・・では失礼致します」
初老の寮長は俺の顔を訝しむ様に見つめながら何度も頭を下げ部屋の前から立ち去って行った
ロール(魔法洋紙)の様に丸められた、皇帝陛下からの書簡・・・中央に結ばれた紐には皇帝の蝋印で結び目が止められていた
俺は蝋印の周りの紐を切り、書簡を広げ内容を確認した
「・・・・・・・後手に回ったか、俺が陛下に相談する前にミョルニル侯爵の方から陛下に苦情が入ってしまったか、明日の学園の休日にあわせて俺に城へ説明に来る様に・・・か」
こうして、明日、俺は父親である皇帝陛下に今日あった事を説明に上がる事となった




