第28話 転生悪女は「絶望」を振り返る
●グネビーside
絶望とは何だろうか…文字通り「望み」を「絶たれる」という意味か。
「絶対に望まない」という意味にも聞こえる……。
果たして私にとっての「絶望」はどっちの意味だったのだろうか…
あの時。
あの時も――
そう、あの時も。
最初に絶望を味わったのは、教師として5年目を迎えたある日の職員室で…
「不義先生の所の生徒が1名不登校が続いてる様ですが?いったいどういう事ですかな?」
校長による名指しの詰問に思わず言葉が出てこず、冷や汗が止まらない
「まさかとは思いますが…「イジメ」とかではありませんよね?先生?」
「い…いえ…決してその様な…」
「は――い!あのぉ~私ぃ生徒達が噂してたの聞いた事が有りますぅ――なんかぁ~2年の先輩に酷いイジメを受けてる人を見たって、私もすれ違いざまに小耳にはさんだんでぇ――噂していた生徒の顔を見た訳じゃないんですがぁあれってぇ――もしかしてぇ」
メスガキがぁ余計な事をぉぉぉ!
「噂話では信憑性に欠けますが…どうなのですか?不義先生」
「い、いえ…休んでいる茂部君とは関係ないかと…」
「まぁ、担任である不義先生の言葉を信じる事にしますが――このまま放置という訳にも行きません、わかりますね?」
「は、はい、勿論です」
―――「クソクソックソッ!!」
放課後、私はさっそくモブブタの家に訪問する事を決めた、終業のホームルームで、クラスメートにモブブタに向けたメッセージの寄せ書きを書いて貰うという小細工も仕込んだ
そんな中、クラスの目立たない地味子が教室から出ようとする私を呼び留め、二人きりで話をする事に
「私、モブ…茂部君が来なくなって、クラスで次の新しいイジラレ役みたいになって―――」
つまり、この地味子はモブブタに早く戻って来て貰わないと、次のイジメのターゲットが自分になるから私に早くなんとかして欲しい…って言いたいらしい
(はぁ――マジで、これだからガキは…)
人畜無害そうな見た目の地味子が。会話の途中で見せる眼鏡の奥の狂気じみた眼…このクラスの連中はマジで全員腐ってると感じた…
しかし、これが社会の縮図という奴だ、弱い者は強い者に喰われる…この地味子やモブブタの様にコミュ力に乏しい連中は社会の弱者でしかない、だからより弱者を犠牲に強者に差し出す。
「トカゲのしっぽ切り――」ある意味、この世の理に適った弱者の為の生きる術なのだ。
「大丈夫よ、茂部君と先生はちゃんと向き合って話をしてみるから…貴方が心配してたって言うのもちゃんと伝えるわ」
「それはやめて下さい!あんなモブブタに好意を持っているなんて、変な噂されたら私の人生破滅です!絶対にやめて下さい!!」
「え、あ…そ、そう…(やべ――地味子、最後の方、マジで誰か殺しそうな眼をしてたぁ―――」
・・・・・・・・・・・・・・
電車に乗り継ぎ、気が乗らないモブブタの自宅訪問に向かう途上
【明後日まで嫁が実家に帰省してるからさ、今晩、俺の家でどう?】
【了解】とハート付きのウサギのスタンプを送る
(はぁ――マジで、イケメンとセックスしてストレス発散しなきゃだわ)
―――しかし、モブブタの自宅訪問は、私にとっての絶望への序章に過ぎなかった
「隣のクラスのイケメンの教師…その人と貴方不倫してますよね?」
「で?俺にまだ何か言いたい事あります?あ――ぁ、なんか俺、教育委員会って所に電話したくなっちゃうなぁ――」
気弱なモブブタだったはずの、醜い男の子があの地味子と同じ狂気の宿った瞳で私を見下ろす...
恐怖…いや、これが「絶望」ってやつなの?…私は股の間が湿っている事にも構わず、モブブタの家から全力で逃げ出した
【マズイ、アンタとの不倫がモブブタにバレた】
路地の隅で池綿にメッセージを送る……彼ならきっと何か対処法を…
【はぁ?ふざけるなよ、俺の家族に迷惑かからないようにお前が処理しろ、つかもう二度と連絡してくるな】
「―――ふっ…ア、アハハ…」
それから、数日で私の周りの環境は地獄と化した…そう「絶望」が蓋を開けた
教育委員会からの立ち入り調査
学校側と教育委員会に匿名で送られたS君に対するイジメの音声データを元に、次々と私と私のクラスの闇が白日の下へと晒される。
停学、退学、事態収拾の為に容赦なく切り捨てられ阿鼻叫喚の生徒達…当然ながら保護者からは罵声の嵐、ハイエナの様なメディア共からの執拗なインタビューと報道
その燃え上がる炎上という名の火種に更にガソリンが撒かれる。
―――池綿との不倫を決定づける音声データがネットの海に投下されたのだ。
ネット民の特定班によって直ぐに私と池綿の身元は割れ、顔、名前、住所…
すべてが晒され、自宅周辺には不審な人たちが連日徘徊し、郵便受けには卑猥な内容や罵詈雑言の投書、携帯は鳴りやまない…私は怖くて自宅から出る事もできなくなった
そして――――懲戒解雇、不倫に対する慰謝料請求、親からの絶縁
「絶望」という言葉以外に思いつかない…それは不倫相手の池綿も同じだろう。
妻との離婚、離婚の慰謝料、懲戒解雇・・・そして、逮捕、あの男は「ガキに興味ない」とか私に言っていたくせに、裏でクラスの女子生徒数名と関係を持っていたらしい、まぁ私を無下に切り捨てようとした顔だけのゴミだ、私以上の地獄を味わえば良いさ
それから15年以上過ぎ―――私はとある歓楽街の、小さな雑居ビルの中にある小汚い部屋の片隅で、スケスケのワンピースを着て漫画の本を読んでいた…
『花より皇子』何年も前に少しだけ話題になった少女漫画だ、何年も前の本で色んな人が読んでるから変色してるし飲み物で汚れたのか、染みが至る所にある…だが、この部屋には他に娯楽と呼べる物が無いので仕方なくこの漫画を読んでいる…もう何百回も…
内容は至って王道の、逆玉の輿恋愛漫画だ、主人公の男爵家の三女グネビー=ロルヴァが、貴族学園の入学初日に校庭にある桜の木の枝で降りられなくなっている子猫を見つけ助けようとするシーンから始まる
お決まりの展開で、枝から落ちた所を金髪のイケメン皇子に助けられ、そこから身分格差の恋愛が始まる…と、言った流れだ。
この漫画が人気なったのは作画が優秀なのと、グネビーと帝国皇子アーサーとの恋路を邪魔してくるキャラがどれも美男美女揃いな所だ。
アーサーの従弟にして親友の熱血美男子ランスロット、生徒会長にして公爵家の跡取り知的美男子ルシウス、他にも沢山の美男子キャラに加え、美女も多い、悪役令嬢でアーサーの婚約者リリス、アーサーの秘書でもある政務官ヒルダ、他にも他国の女王や王女、神龍公国の公女など主役であるグネビーを抑え人気投票一位になったキャラもいる位だ。
「まぁ、最後はお決まりのハッピーエンドなんだろうけどね」
実は私は最後を知らない…というのも最終巻である18巻が、ここに置いて無いからだ。
どうしても知りたい訳でもない、それに貴重なお金をこんな物に使ってる場合でもない…そう私は…
「リーコちゃん―――60分マット不要で、ご新規さんご指名入りましたぁ―――」
「はーい!」
私は本を棚にしまい、化粧道具を手に待合室を出て自分用の個室へと向かう…
そう、私は泡嬢へと身をやつしていたのだ。勿論、望んだわけでは無い慰謝料の支払いで借りた借金の返済の為だ…40歳を超えたオバサンの需要は殆どない。
加工したパネル写真に騙された客が、こうしてたまに指名するだけ、リピート客はついた事無い
そして、私は今日も、新規の客が待つカーテンの奥で、跪いて土下座したままその時を待つ…
次なる「絶望」のカーテンが開くのを




