第23話 暴虐皇子は自らの行動を悔いる
〇ヴァルハラ帝都 市街地
俺はフード付きのコートを纏い、供を連れずに市街地を散策していた
―――まぁ、お忍びってやつだ
自分の選んだ選択だったとはいえ、あの生徒会の連中を丸め込んで行った全校生徒向けの放送で、俺の学校での評判は地に落ちた
生徒達は貴族の子息のため、面と向かって俺に嫌がらせや悪口を言う者は居ないが、陰では散々だ
『あの皇子が皇帝になったらこの帝国は終わりだな』
『あそこまで、馬鹿な皇子だったとは…』
『リリア様が可哀そう』
「はぁ――――」
俺は用水路のある公園のベンチに腰を下ろし、水面に向かって溜息をつく
「俺が散々言われるのはわかるが、なんであの最悪女の評判が悪くならない?」
そう、学園内で悪く言われるのは俺ばかりで、一向にグネビーに対しての悪い噂が聞こえてこないのだ
「あの最悪女、裏で何かしているのか?それとも、また誰か垂らし込んだのか?」
ベンチに手をつきフードの端から視線を空に向け流れる雲を見つめ思案する
「いかんいかん、今日は気分転換に街にきたのにこんな事では余計に気が滅入るな」
1周目であればこんな事を考える事は無かった…何もかもが自分の思い通りになると、欲しいものは全て手に入ると本気でそう信じていた
しかし悟った、この世界は個人の意思によって成り立っている訳では無い。
多くの人々の多くの選択による積み重ねによって回っているのだと…2周目の今ならそう素直に思える
そんな事を考えてると、1周目の自分が滑稽に思えて思わず笑みがこぼれる
コロコロ…
物思いにふける俺の足元へ土で汚れたボールが転がって来た
「そこのフードのおじさん!こっちに蹴ってーーーーー!」
声のする方を見ると、小さな男の子が手を振って叫んでいた
「ほう…蹴り玉か、懐かしいな…」
蹴り玉とはこの国でポピュラーな子供たちに人気の球技だ、専門で競技を生業とする職業も有るほどだ
俺はベンチを立ち上がると、右足を後ろに上げ勢いよくボールを蹴り上げた
ボォ―――ン
蹴り上げたボールは空高く舞い上がり、少年の頭上を遥かに超え他の子どもたちの輪の中へと落ちて行った
「わぁ―――おじさん凄い!!ねぇよかったら僕たちに蹴り玉教えてよ!」
「ふっ俺のテクニックを学びたいだと?良かろう」
俺はコートを脱ぎ、子供たちの輪の中に加わった…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「はぁはぁ…お前らは化物か、あれだけ動いて…疲れを知らぬのか?」
張り切って子供らに城で一流の選手に教えて貰った蹴り玉の技を教えていたら、いつの間にか日が傾き夕焼け色に空が染まっていた
「えぇーーーおじさん…じゃないや、おにいちゃんもっと遊ぼうよ!ねぇねぇ!」
「そうだよ!もっと蹴り玉の技おしえてよ!」
俺は疲れ果て、芝生の上に仰向けに倒れ込んでいたが子供らはまだまだ元気な様で、もっと遊ぼうとせがんでくる
「俺の負けだ、もう勘弁してくれ」
肩で息をしている俺に向かって「ちぇーーーつまんないのーーー」と無慈悲な言葉を残し、子供らは再びボールを追いかけ遊び始めた
「やれやれ、これはさすがに身体がなまっているな…この程度で動けなくなるとはな…だが」
「余計な事を忘れて、こうやって身体を動かすのもたまには悪くないな」
上体を起こし、子供らが遊ぶ姿を見つめながら苦笑が漏れる
「はい、おにいさん」
そんな俺の顔の前に、木で出来たコップが差し出された。
コップの先に視線を向けると、小さな少女が笑顔で頷いてコップを差し出していた
「あ、あぁ、ありがとう」
無意識に少女に礼を口にし、みすぼらしい木のコップを受け取ると、中に満たされた水を口にはこぶ
ゴクゴク…
喉が渇いていた事もあり、中に入っている水を一気に飲み干すと少女が「お代わりは?」と尋ねてきたので
「あぁ頼む」
と空になったコップを差し出す
少女はニコリと笑うと、動物の内臓で作られたであろう革製の水袋からコップの中へ水を注いだ
「ありがとう」
再び少女にお礼を言うと、少女は再びニコリと笑い俺の隣に膝を抱えて座る
「お前は皆と一緒に遊ばないのか?」
半分ほど飲んだコップを膝の上に降ろし、隣の少女にそう声をかけた
「うん、私ね病気で体が弱いから皆と同じ様に遊べないから、だからこうして皆の飲む水を用意してるの」
確かに少女は他の子どもにくらべ小柄で、少しやつれて見える
「それは生まれつきか?」
そう尋ねると女の子は悲しそうに首を横に振った
「私のお父さん私が小さい時に戦争に行って死んじゃって、お母さんが頑張って働いてるけど私の病気を治す薬は高くて…」
「しかし、戦争で亡くなったとなれば国から…ヴァルハラ帝国軍から戦没見舞金が貰えるだろ?それで薬を買えなかったのか?」
そう、戦死者の遺族には、その戦死者の家族構成により戦没者見舞金として金銭が支払われる事になっている。
しかも家長としての父親と言う事であれば、一家の大黒柱、見舞金の支払いは上限いっいで支払われる決まりである。
しかし少女は小さく首を横に振る
「騎士団の人や兵士長の人に分配して、お母さんが受け取ったのは金貨2枚だったって…」
「ば、馬鹿な!?最低でも金貨10枚、上限いっぱいだとしたら金貨50枚は支払う事になっているはずだぞ!」
「うん…でも、そういう決まりだって…」
少女は抱えていた膝に顔を埋め震える声でそう答える
(なんて事だ…我が帝国の軍はここまで腐っているのか?)
『あんな暴虐皇帝に従ってられるか!!』『俺達はミョルニル侯爵について、皇帝の暴挙を打倒するぞ!!』
(あの兵たちの中には、自分達の事を棚に上げて俺の事を暴挙だとか、無慈悲だとか言っていた連中が居たって事か…クソッ!)
俺は少女が入れてくれた水の入ったコップを見つめ
(それにこの水…濁ってるしゴミも浮いている、帝国内の治水に毎年膨大な予算を割いているにも関わらず、首都の市街地でもこの有様…絶対に何かおかしい)
「!?お、おにいさん?」
少女の頭に手を添えると、少女は驚き俺の顔を見上げる
「心配するな、きっと何とかなるこの国の皇子が、そんな不正を見逃すはずがないからな」
しかし、皇子と聞いて再び少女の顔は曇る
「無理だよ、皆言ってるよ」
「アーサー皇子は、無能な馬鹿皇子…だって、あの皇子が次の皇帝になったらこの国は終わりだって…」
「なっ!?」
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「じゃねぇーーーーおにいちゃん、またねぇーーーー!」「また俺達に蹴り玉教えてくれよ!じゃなぁーーー!」「ばいばい!」
「あぁ…」
日も傾き、市街地の照明用の魔道石に明かりが灯った所で、ようやくお開きになった
俺は少女や子供らに手を振り見送る
「あの様な小さな子供にまで…俺は今まで一体何をしていたんだ…」
そして独り夜の闇にのまれる公園で佇むのだった




