第19話 悪役令嬢の理想
〇リリスside
『その上で、この学園内に流布しているリリス嬢が陰湿な嫌がらせに加担、あるいは首謀していると言う内容について、このアーサーの名において全て虚偽である!と、ここに明言する』
『最後にこれだけ伝える・・・今回の件でリリス=ミョルニルに対し不当なる扱い、及び言動を俺は絶対に許さない!言いたいことは俺に言え!』
『以上だ!』
女子フェンシング部の部活中に聞こえてきた、アーサー皇子の声による生放送・・・
部活に参加していた他の部員も顧問の先生も手を止め、音声出力魔導装置へと視線を向け呆然とその放送に耳を傾けている
実際に私も手にした練習用のフルーレを落としてしまった
放送が終わった瞬間、関を切ったかのように大勢の女性部員達から質問攻めにあった。
戸惑いながらも、質問をはぐらかしたが頭の中はパニックだ
(何で全校生徒に自分の失態を・・・そもそもあの2人に噂を揉み消す様に脅していたはずじゃ・・・)
急に人が変わったかの様なアーサー皇子の行動に戸惑いと疑念が強まる
(何を企んでいるの?・・・こんな真似して自分の評判が落ちる事をわかって無いの?)
(やはり後先考えない、愚者だったの?・・・それとも・・・)
私が、アーサー皇子と初めて出会ったのは、今から12年前、父であるアスカロ=ミョルニル侯爵に付いて初めてヴァルハラ皇宮へと登城したのが7歳の時
それ以前より、アーサー皇子の妃となる事が定められ、物心つく頃から国母となるべく教養、所作、ダンス、芸術、武芸に至る色々な事を学んで来た
年頃の女の子が興味を持つ様な人形遊びや花々を愛でる事等全く知らず・・・そう私は・・・私の全てが帝国の為、アーサー様の為に有った
ミョルニル侯爵領で開かれる、交流会で出会う他の子女達との会話にも参加出来ず孤立していると、いつの間にか「氷の令嬢」とか呼ばれ同年代の貴族令嬢からも一線置かれてしまう様になった
そんな中、ヴァルハラ皇宮で開かれた園遊会・・・そこで初めて私とアーサー皇子の婚約がマーリン陛下とお父様より帝国貴族全員に披露される事になっていた
私は、皇宮内の空中庭園で少し待つようにお父様から言われ、庭園のベンチに座り、光の降り注ぐ美しい花を見つめ待っていると
「おい銀髪!貴様は誰だ!」
その声に驚き視線を向けると、金髪碧眼の男の子が練習用の木剣を手に此方を睨みつけていた
「私はリリス=ミョルニルと申します・・・貴方は?」
「お前がリリスか。俺はアーサー、アーサー=ヴァルハラ!この帝国の皇子である!」
私はすぐにベンチを立ち、アーサー様の元へ駆け寄ると膝をつき頭を下げた
「知らぬ事とは言え、大変失礼いたしました」
私は自分より少し身長の低いこの皇子に深々と頭を下げる
「お前、剣は使えるか?」
「え?」
「剣術は出来るかと聞いている!一度で理解しろ、この愚か者!!」
「はっ・・・剣術・・・と言いますかフェンシングであれば少し・・・」
私は幼少期より習っているフェンシングについて殿下にそう答えた
「で、あるか・・・では俺の練習に付き合え、ランスロットの奴に一向に勝てぬ!今日こそ奴に一太刀食らわせてやる!」
「し、しかし私はこの通りドレスですし・・・練習用の剣も・・・」
「ふん、そんな物気にするな、剣なら・・・よいしょ・・・」
パキッ
殿下は庭園に咲いた桜の枝を折り、私に向け差し出した
「これで良いか?スカートは・・・何とかしろ」
「は、はい・・・畏まりました・・・」
私は桜の枝を受け取り、スカートをまくり上げ腰の所で結ぶと、おおよそ貴族令嬢とは思えない不格好に恥ずかしくて顔が赤くなる・・・だが殿下はそんな事お構いなしに剣を構えると
「では・・・行くぞ!!」
手にした木剣を振りかぶって、私に向かって突っ込んで来た・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「殿下・・・もうそろそろ・・・」
「う、うるさい!!もう一度だ!」
殿下はお世辞にも剣術が上手いとは言えない・・・いや基本すら出来ていない、ただ闇雲に剣を振り回すだけしかも相手の攻撃をかわそうとか受け流そうとかそういう事を一切考えてない・・・
(このままでは・・・)
「殿下・・・御節介とは思いますが、リリスから一言、まず剣の握りですが・・・・」
思えばこの時からだった・・・殿下に自分の理想となる皇帝としての像を投影していたのは・・・だから私は殿下に・・・
!?
「おぇぇ!うっ・・・」
「!?いかがされたのですか!?リリス様、お加減が?!」「誰かぁぁ!先生を!」
私は急に吐き気がして、口元を押さえその場にうずくまる・・・解ってしまったのだ・・・
(私は・・・自分が理想の国母として育てられたから、アーサー様も私の理想の皇帝であるべきだと・・・私の理想をアーサー様に押し付けて・・・だとしたら、この婚約破棄はやはり・・・私の・・・)
その場から動けなくなり、医療室から駆け付けた医療担当の先生達に担がれ練習場を後にしたところで気を失ってしまった・・・




