第15話 暴虐皇子は毒を以て毒を制す
「ア、アーサー様!?」「殿下!?」「なっなんでこんな所に皇太子殿下が!?」
俺は、今まさにここに来たという演技で3人に視線を向ける
「俺は、こんな所で一体何をしてるのか?と聞いたんだが?」
声のトーンを落とし、睨みつけるとカリンとミレーユは顔を強張らせリリスは力なく振り上げた手を下に降ろし怒りに満ちた表情は徐々に冷静さを取り戻す
「で、殿下、この状況お分かりいただけますよね!?」
「そ、そうです、私達これまでリリス様の事を必死でお支えして来たのにこの仕打ち!見てくださいこの頬の痣!」
カリンはそういうとリリスに殴られ赤くなった頬を俺にアピールする様に指差す
「酷いとお思いになりませんか!?」「そ、そうです殿下の仰った様にきっとグネビー男爵嬢にも同様の仕打ちをなさっていたに違いありません!!」
必死に訴える2人から奥で冷静さを取り戻したリリスに向け言葉をかける
「二人はこう言っているが、リリスお前の方からは何かいう事は無いのか?」
リリスの冷めた表情を見つめ、俺も努めて冷静にそう尋ねる(リリスの奴、あんなに強く拳を握って・・・)
みると血の気が無くなり真っ白になるほど強く握られてリリスの両手の拳が視界に映る
「今の殿下に私から何を言っても、真実は歪曲されてしまうのでは無いですか?」
その赤い瞳は輝きを失い、何もかもを諦めた者の様な印象を受けた
「その様な心配は無用だ、俺はリリスお前に対し公衆の面前で自分の言動が間違いだった事を謝罪した・・・それはここで震えてる二人の耳にも届いてるはずだ、仮に届いて無かったのであれば何度でも言おう」
「リリス=ミョルニルには、なんの非も無い、悪いのは全て俺、アーサー=ヴァルハラ個人だ、つまり俺がリリスに対し言って来た虚偽の数々は全て事実無根、俺の世迷言だ」
俺の言葉に驚く3人・・・リリスはその赤い瞳を大きく見開きポカーンと口を開けている
だが、カリンとミレーユは違った
「で、でも!私がリリス様に殴られたのは事実!そうよねミレーユ!」
「えぇ私もこの場でハッキリと見て居ました!」
「なるほどな・・・確かにカリン=バーネットがリリスによって殴られたのは事実なのだろう」
カリンとミレーユにニヤリと口角を上げ、リリスは悔しそうに俺から顔を背け俯いた
「だが、お前らがミョルニル侯爵を侮辱する様な事を先にリリスに言っていた事もまた事実だ」
「「「!?」」」
「そ、そんな事、私達は言っておりません!」「そ、そうです!存じません!」
「なっ!?」
先ほど自分達の言った言動を知らない、言ってないと白を切るカリンとミレーユ、そしてその言動に絶句するリリス
「でも、俺は確かにそこの壁の裏で聞いていたぞ?『下級男爵女に婚約者を寝取られた、微妙に哀れで情けない侯爵令嬢』だっけ?」
「!?し、知らない!私達はそんな事言って無い!!」「そ、そうです、殿下のお聞き間違いです!」
はぁ―――やっぱり素直に引き下がらない…か、仕方ないな…
「そうか、俺の聞き間違いか―――そっかそっか、まぁ人間誰でも間違いってのあるしな」
「ア、アハハそ、そうですよぉ~」
「でもなぁそうなると俺の聴覚障害を疑うよな…陛下にも心配かけそうだし…あっそうだ!ここの備品倉庫の記録魔法石を確認してみよう!」
「は?」「え?」
俺の言葉に固まり、顔を引きつらせるカリンとミレーユ
「あれ?知らなかったのか?我が帝国貴学園は全てが超一級品、なにもかもが高価な物…だからか知らないけど最近になって学園の備品が窃盗され街の商人ギルドへ持ち込まれるという事件が多数発生しているから監視と防犯の意味も兼ねて、ここだけでなく学園の至るところに記録魔法石を仕込んでるんだ、見つけにくいけどな」
俺はちらっと視線を備品倉庫の屋根の隙間へと向ける
「!?」
何やらキラーンと光る物が屋根に挟まっているのを見つけた二人の顔から生気が失せた。
「俺の聴覚がどれほどおかしくなってるか、今後の治療に向けこの記録魔法石を専用医と陛下、あぁ後はミョルニル侯爵に立ち会ってもらいヴァルハラ城の再生魔方陣で内容を確認してみる事にしよう!」
「っ!?お、お待ちください!」「そ、それだけは!」
急に俺に向かって両手を地面について懇願し始めるカリンとミレーユ
「ん?何だ?お前たちが俺の聴覚がおかしいと言い出したんじゃないか?それとも何か?お前たちは俺が適切な治療を受ける機会を阻害する気か?・・・つまり、それはヴァルハラ皇家に敵対すると見なすぞ?」
「ヒィィィ!!」「お、お許しを!リリス様、殿下に!殿下にこれは我々の冗談だったと口添え下さい!!」
コイツらは恥も外聞もなく、リリスの足元に縋り「助けて下さいぃぃ!」と泣きついた
「と、コイツらは言っているが?リリス」
俺が口を緩めながら、嫌味っぽくリリスに視線を向けると、リリスは自分の足元で涙と鼻水にまみれ懇願してくる2人に冷めた眼を向けていた
「はぁ・・・お前等のした事を見逃してやらない訳では無い」
「!?ほ、本当ですか!?」「あ、ありがとうございます殿下!!」
「あぁただし、俺が今からいう事をお前等2名が実行出来たらな」
二人はリリスの足元から俺の前へと跪き両手を握って何度もうなずく
「はい!なんなりと!!」「夜のお相手でも何でもします!」
「(夜の相手は願い下げだってーの!そうか・・・だったらよく聞けよ・・・っと」
俺は備品倉庫の屋根に手を伸ばしジャンプして握り拳位の水晶玉の様な記録魔法石を掴み二人に見せる
「まず、お前等2名はこれから1ヶ月以内にリリス=ミョルニルの名誉を回復するんだ、手段は問わない友人伝手で広めるもよし、噂話で広めるもよし、金に物を言わせて風潮して回るサクラを雇うもよし」
「とにかく、1ヶ月の間に完全にリリスの名誉を回復してみせろ、それとリリスの名誉を回復する過程で、俺の事はどのように悪く言ってくれても構わない、婚約破棄となったのだからいずれかが責めを負うべきで、それは間違いなく俺だ・・・良いか?」
「は、はい!!」「必ず!!」
「あぁ分かっていると思うが、もし今から1ヶ月でリリスへの悪評が残っている様だったら・・・」
俺が記録魔法石を交互に揺らす様に、二人に見せつける
「も、もちろんです!」「だ、大丈夫です、私らそういうの得意なので!」
(まぁ・・・そうだな、コイツら二人は悪評を広めさせたら右に出る者は居ないだろう・・・噂には噂、まさに毒を以て毒を制す、とかヒルダが前に言っていたな)
「あぁあとついでにだ、俺とグネビーは別れたという噂も流しておいてくれ・・・まぁこれは周知の事実になるがな」
「アーサー様!?ロルヴァ男爵嬢と別れたのですか!?」
「あぁ、これもまさにリリスお前の忠告通りだったよ・・・まぁ後の祭りってやつだがな・・・」
俺は魔法石をポンポンと器用に片手でジャグリングしながら、その場を去った
なにやら背後でリリスの声が聞こえた気がしたが、今は一つ壁を乗り越えた感覚で気分が良い・・・だが、
(結局昼は食べ損ねたか・・・・)
空腹でお腹がギュウギュウと鳴るので落ち着く様にさすりながら、校舎に戻っていると・・・
「あっ?!アーサー様ぁ―――!」
今一番会いたくないヤツに出会ってしまった
「ちっ・・・・グネビーか・・・」




