第11話 暴虐皇子と宰相ザッハ
陛下からの勅命を返上してまで俺の意見を尊重する様に具申した宰相ザッハの方へ、驚きつつ視線を向ける
(違う?!だ・・・と!?)
ザッハと目が合った時に感じたのは1周目の時と奴の眼の印象の違いだ・・・
〇ザッハ=ドヴェル 今の時点での年齢は61歳 歴代皇帝に使える宰相や財務大臣など政務に関わる要職を数多く輩出したドヴェル伯爵家の現当主、白髪の痩せ型でその顔には陛下と同じ様に深いしわが刻まれている
痩せてはいるが、姿勢は良く体格の良い陛下と並んでも存在感を放つ風格を兼ね備える・・・俺が物心ついた時から陛下の腹心であり、陛下の右腕として陰ながらその覇業を支えている・・・のだが
俺が学園に通い出した頃から、宰相の俺に向ける態度が冷たくなり、極めつけに俺の交際費を当初の10分の1にまで減らしやがった・・・おかげで学生になりたての頃は金の無心に苦慮した物だ
そして陛下が毒によって崩御し俺が後を継ぎ42代皇帝に即位・・・ザッハは引き続きヴァルハラ帝国を支えてくれていた
そう思っていた・・・だが、奴は俺の人生が転落していく中ついに正体を現す
魔族・・・シリウス大陸南部に位置するダインスレイブ魔導国、魔族によって支配されるその国は、国土の殆どが火山岩で埋め尽くされ年中火山の噴火による高温と厚い火山雲に覆われて日の光が十分に届かず薄暗い為、植物の生育が悪く人が住める様な場所では無い
まさに「魔界」と呼ぶに相応しい世界・・・
しかも、火山により地中深くに埋蔵された魔素が噴出しそこに住む人々は常に魔素を取り込んで生活している
そのため、肌は青紫に変色し魔素を放出する為の器官「角」が生えている・・・それが「魔族」と言うわけだ
魔族は生まれる前から遺伝子レベルで魔素を体内に取り込み、人間であれば致死量ともいえる魔素を体内で分解・・・魔力の根源とする事で、おおよそ人間が扱えるレベルの魔法を遥かに超える出力で行使する事ができる
その為、魔族は食べ物が豊富な土地を求め聖歴が始まる遥か以前より魔族と人間族との争いは絶える事無く続いている
そんな魔族を束ねる魔導王アスカロンに命じられ、帝国宰相ザッハに化けて俺や陛下に近づいていたのが今目の前にいるこの男だ
・・・・と、思っていたが
「ザッハ・・・その、すまない」
「何をおっしゃるのですか、殿下ザッハは非常に頼もしく思っております、あの殿下が自ら過ちを認めリリス侯爵令嬢の名誉回復にご尽力されると仰ったその覚悟、本当にご立派です」
「あ、あぁ・・・頑張るさ」
(どういうことだ?ザッハはこの時点ではまだ魔族と入れ替わって無いのか?)
しかし、確かめるための方法が今は手元にない・・・精霊石があればやつの幻術を打ち破れるのだが・・・
「ではアーサーよ、お前の手腕に期待する・・・だが猶予は今から1ヶ月だそれまでにミョルニル侯爵令嬢の名誉を挽回してみせよ・・出来ない場合は・・・ザッハが指示した通りに行動してもらう、良いな?」
「はっ!」
「では以上だ・・・下がれ」
それだけ言うと、マーリン陛下は今度こそ玉座の間の脇にある自室へ続く扉の奥へ消えていった
陛下が退席するまで頭を下げ見送った宰相ザッハも、一瞬だけ俺の方へ微笑み軽く会釈してから、正面のドアを開け出て行った
「ふぅーーー、後はどうやってリリスの名誉を回復するか・・だな」
こうして、暴虐皇子アーサーのやり直し物語は1周目と違う展開へと進む事になったのだった
●アドルside
俺の本当の名は茂部 武太転生者だ、もとは地球の日本という島国で30代の日雇い労働で食いつなぐ、ごくつぶしニートとして夫を早くに亡くした母親のすねをかじる生活を送っていた・・・
「ちっ・・・今日の仕事きつかったのに6000円かよ、これじゃ風俗にも行けねぇ・・」
茶封筒から千円札を6枚取り出し扇子の様に扇いでみる・・・空しい
高校ではこの太った体形に不細工な見た目と名前をもじられ「茂部武太」と呼ばれ虐めを受ける、何度も担任に申し入れするが、俺の見た目は女性である担任にも嫌われていた、ある時、若いイケメンの教師と廊下で話してるのを偶然立ち聞きした
「たっく、うちのクラスのブタがさぁ~虐められる虐められるってしつこくて・・・んで私の所に来るたびに私のスカートと股の所チラチラ見てきてさぁ~マジキモイってぇ~の!」
「あぁあのポッチャリ君ねぇ~俺のクラスの女子からもキモがられてるよ・・・てか、今日終わったらさぁ久しぶりに・・」
俺は、そのまま学校を飛び出した・・・世の中不公平だイケメンであれば既婚者でも女を好きな様に抱け、俺みたいなキモブタ不細工は女を見ただけで犯罪者呼ばわり
その日を境に学校へ行くのをやめた・・・あの時俺をキモブタ呼ばわりした女教師が何度も家を訪ねて来たみたいだが・・
『武太君の事、クラスの皆が待ってます、みんな揃って卒業しようって・・・これ皆の寄せ書き、武太君に渡してください』
50歳過ぎの母親が恐る恐る、俺の部屋のドアをノックし
「タケちゃん・・・先生が来てるよ・・・少しだけでも顔を出してくれないかな?」
バタッン!!
俺はたまりに溜まった怒りで、ドアの前にいるであろう母親ごとドアを開け放つと、勢いで倒れた母親が持っていた寄せ書きを拾い、玄関で待つあの女担任の元へと向かった
「武太君・・・そ、その先生もクラスの皆も全員君の事を待ってるから学校に・・・」
そこまで口にした時に女教師の目の前で寄せ書きをビリビリに破り捨てた
「待ってる?毎日殴ってストレス発散する相手が居なくてつまらないからか?俺が居ないと代わりに虐められる奴が居るからか?」
俺の言葉に驚く母親・・・虐められていた事を母親には伝えて無い、まぁ心配かけたくなかったと言うよりダサい、情けないという思考だったから
「それは担任である私が必ず何とかするから・・・だから」
「あぁ学年主任とか教頭、校長から何か言われましたか?でも俺知ってるんですよね、担任とか言いながら陰で俺の事「キモブタ」と呼んで馬鹿にしてた事」
俺の言葉に驚き、背後で驚いてこっちを見てる母親へ視線を向ける・・・(あぁやっぱこの女は自分の体裁しか頭に無いクズ女だ・・だったら)
「それと、隣のクラスのイケメンの教師・・・その人と貴方不倫してますよね?」
!?
その言葉に驚愕する女教師、瞳孔が開きガタガタと震えだした
「で?俺にまだ何か言いたい事あります?・・・あぁ俺なんか教育委員会って所に電話したくなっちゃうなぁ~」
「ヒッ!」
女教師はつまずいて転びそうになりながら、玄関から逃げる様に飛び出して行った・・・部屋の前で驚き放心状態の母親に目もくれず自分の部屋へと戻るとバタンと強めに扉を閉めた
(この世界はクズばかりだ・・・こんな世界・・・)




