第1話 落日夢 帝都陥落
俺は燃え盛る天井のレリーフを見上げていた・・・落日燃ゆる
玉座から降り、段差の上に腰を下ろし全てを諦めた様な虚ろな目をしている、ゆるくパーマ掛かった長い金髪の美男子
サファイアの様な青い瞳、すらりと伸びた鼻筋、象牙の様な白い肌、均整の取れた体格
その全てを更に彩る豪華な装飾が施された衣装、肩からは黄金の獅子が刺繍された深紅のマント、黄金の握り手と先には深紅の宝石をあしらった豪華な宝剣・・・
そう彼は間違いなくこの国の皇帝・・・アーサー=ヴァルハラ
まだ、二十代前半であろう美しき皇帝は、燃え盛る玉座の間に独り腰を下ろし、今まさに滅亡の時を迎えようとしていた
聖歴3566年・・・・1500年以上栄えた超大国ヴァルハラ帝国
シリウス大陸に存在する5つの国家・・・その中心に有り最古にして最大の国力を誇っていた、このヴァルハラ帝国も、第42代皇帝 アーサー=ヴァルハラの代で破滅を迎える事となった
帝都ヴァルハラでは、帝国の国民の殆どが皇帝アーサーの退位を求め、皇帝に弓引く反乱軍の主力、ミョルニル侯爵に至っては帝国全軍の約9割を指揮下に置くに至り、帝都の中心にそびえる、白亜の城と呼ばれた楽園城(ヴァルハラ城)を取り囲み、城から逃げ出した者達を捕らえ片っ端から惨殺していった
「アーサーを捕らえろ!!」「手足は斬り飛ばしても決して殺すな!!」「自分がしてきた事を後悔させろ!!」
「暴虐皇帝を決して許すな!!」
帝国軍に混じり民衆も蜂起して、文字通りヴァルハラ城の周囲にはアリが這い出る隙間も無くなっていた
「!?火の手だぁ!火の手が上がったぞぉぉ!!」「あれは玉座の間のあたりだ!」「アーサーに自害等させるなぁぁ!!」「民衆の目の前で嬲り殺しこそヤツに相応しい!!」「連れ出せぇぇ!!」
城の外はアーサー憎し、アーサー憎しと怨嗟の雄叫びが燃え盛る炎の音に混じり聞こえてきた
「アハッアハハハハ・・・・俺は何を間違えたのかな?」
「無謀にも神龍公国に戦争を仕掛けた事か?」
「ルト王国との偽りの同盟を見抜けなかった事か?」
「帝国史書官として、最後まで俺の行いに耳の痛い忠告をしていた、ヒルダ=ニーベルンゲンを追放した事か?」
「魔族が化けていた宰相、ザッハ=ドヴェルの諌言に惑わされ父上を死に追いやってしまった事か?」
燃え盛る帝国の象徴である黄金の獅子のレリーフが真っ赤な炎を巻き上げるの見つめながら、今までの出来事を思い返しては「違う」「そこじゃない」と首を振って別の選択肢を思い返す
「あぁ・・・リリス=ミョルニル侯爵令嬢と婚約破棄したあの時か?」
「確か、リリスの事を庇って俺の前に立ちはだかったあの男・・・確かアドルとか言っていたか・・・」
「まさか、ただの給仕係の従者が聖王のスティグマ(聖刻)を持っているとはな、あの時から全てが狂い出したんだな・・・それに・・・」
「裏切り者のグネビー=ロルヴァとランスロット=アガシオン・・・俺が全てを捧げ愛した女が、まさか裏で俺の従弟にして幼馴染の親友だと思って居た男とデキていたとはな・・・」
アーサーは腰の宝剣を抜き目の前に掲げた・・・しかし、その刀身は根本でへし折れ、剣として終わっている
「フフフフ、我がヴァルハラ帝国に伝わる宝剣エルハザードも、ついに最後まで俺を主と認める事無く自ら刀身を砕いて散ったか・・・」
アーサーは砕けた刀身を再び黄金の鞘に納めると、腰のベルトから外し目の前で燃え盛る炎の中へと放り投げた
どっと仰向けになり、炎の巻き上がる天井をを見つめ
「なぁんだ・・・最初から全部間違っていたんじゃねぇか・・・「暴虐皇帝」「無能皇子」どれも今の俺にはピッタリだな・・・」
自嘲気味に笑いながら瞳に溢れる涙を拭う・・・カランカランと額につけた皇帝の証であるクラウンが無情にも玉座の前の段差を転げ落ちた
「もう、それも不要だ・・・あ~もしもあの時に戻れたらなぁ~」
炎が舞い上げる煤で黄金の綺麗な髪も白亜の様な白い肌も黒く汚れて汚くなっていく
「あぁそういえば・・・・」
アーサーは、ふと思い出したかの様に胸元に手を入れ、くすんだ金貨が飾られたネックレスを掴んで目の前に掲げた
「あれは、グネビーと逸れて街の裏通りを歩いていた時だったか?」
それは今から2年前・・・リリスに婚約破棄を告げた後、横から割り込んで俺に対し文句を言って来たアドルとの決闘を控えた前夜
俺は、愛しのグネビーとランスロット達取り巻き数人を伴って景気づけに街へ遊びに繰り出した
他の連中が店を探して回っている時、ふと店の裏口が気になり外へ出た後、帰り道が解らなくなり宛ても無く彷徨っていると、一人のみすぼらしい老婆が俺の付けていた指輪と交換したいと差し出したのが、このネックレスだ・・・
何十万ゼニーもする価値の指輪と、薄汚れたコインの付いたネックレス・・・後々考えれば釣り合うはずもない、翌朝決闘が始まる前に俺は不当な取引を持ちかけた老婆を不敬罪で処罰する為、部下や城兵を使いあの小汚い老婆を街中探したが、既に街を出ていたのか結局見つからなかった
しかし、あの夜はこのネックレスが何よりも高価な宝物に見え、全てを捨ててでも手に入れたいという欲にかられてしまったのだ・・・
「それにあの老婆の言葉・・・・」
『ヒィヒッヒッ、お前さんは良い取引したぞい、そのネックレスに願えば一度だけ、やり直したいと思う人生の岐路に戻れるのじゃ・・・カッカッカァ~使い処を見誤るなよ?ヒャヒャヒャ~』
今まで忘れていた、あの怪しげな老婆の言葉が鮮明に蘇る
「一度だけやり直せる・・・か、それが本当なら、戻るべきは・・・・」
ガラガラガラガラ
天井の梁が崩れ、支えていた瓦礫が、仰向けに倒れ込んだアーサーの上に降り注ぐ
「あの時に・・・」
自分の身体が潰れる感覚と痛み・・・それも一瞬にして闇へと消えて行った・・・




