表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

第十四話 それぞれの反応

 これも今まで一人生き続けた罰なのだろうか。とうとう引き際が来たということか。

 そこまで考え、ミリアーナは覚悟を決めた。


「……分かったわ。あなたと結婚する」


 他人とは必要以上に関わらなければいい。少しは情が湧くだろうが、長く生きればきっと忘れる。大丈夫だと、ミリアーナは何度も自分に言い聞かせた。


「必要なら一緒に生活もしましょう。でも、それだけよ。あくまで対外的には夫婦になる。ただ、それだけよ」


 俯きながら渋々その言葉を口にする。気まずすぎてレアンドロの顔など見られない。


「ありがとう。それだけで十分だ」


 手を取られ軽く甲にキスをされる。見上げてくるレアンドロの表情は嬉しそうで、年相応に可愛らしかった。






     ✱✱✱






 そのまま手を引かれ、パーティ会場を横切る。手を繋ぐミリアーナ達の様子が見えたのだろう。他の貴族たちは驚いたような表情をしていた。


(まあ、驚くでしょうね…… 私が一番驚いているわ)


 そんな皮肉なことを考えながら進むと、皇帝の控室に到着した。一通りあいさつ回りを終えた皇帝アルフォードが、そこで休んでいるはずだ。レアンドロがノックするとすぐに扉が開く。中に入ると、二人を見て驚いた表情のアルフォードに出迎えられた。


「皇帝陛下。話し合いが終わりましたので、ご挨拶に来ました」


 彼の横には引退したエドワードとその妻、更には皇妃となったローゼも控えている。さすがに興味を引く内容だったからか、皇室の者が勢ぞろいだ。後はアルベルトもいれば……と考えていると、後ろから走り込んできた。


「話し合い終わったみたいだね。どうなったの?」


 彼は明らかに面白がっている様子だった。ミリアーナが頭を抱えていると、構わずレアンドロは話し始める。




「許可がもらえました。結婚します」




 その発表に、皇帝アルフォードは泡を吹いて倒れた。その妻ローゼは驚きつつも慌てて彼を支える。アルベルトは嬉しそうに笑い、エドワードは豪快に笑った。


「いやー、生きている間に面白い物が見られそうだ。聖女殿、今回はどうしてこんなことに?」


 一通り笑ったエドワードが愉快そうに聞いてくる。


「奇しくも…… 押し負けまして」


 悔しそうに目を逸らしながら言うと、更にエドワードは笑った。その妻は笑いすぎて後ろを向いている。昔からこの夫婦は笑い上戸なのだ。顔を赤くして睨んでいると、ようやく起きてきた皇帝アルフォードが言葉を発した。


「そ、それは分かったが…… まあ、その、神殿とのやり取りまでは、こちらは援助できないぞ?」


「構いません。公爵家で済ませますので」


 さわやかな笑顔でレアンドロが返すと、アルフォードは微妙な顔をする。ローゼも困ったように笑っていた。


「あ~…… そうか、公爵家にはベアトリス殿がいるんだったな」


「血の雨だけは降らせぬよう、言付けを頼みます」


「何を言う! ここからが見所なのだろう⁉」


 諦めたように言う二人に、エドワードだけは楽しそうだ。


「父上…… 隠居してから人生楽しそうで何よりです。ですが! こんな事態に巻き込まれている息子の身にもなって下さい」


 恨めしそうにアルフォードは父であるエドワードを睨む。


「お前はいつまで経っても余裕と言うものがない。もっと人生楽しめ」


「父上! あなたと言う人は……!」


 一通り二人が言い合いをしている間に、笑い終わってケロリとしているエドワードの妻とローゼが、レアンドロ達に書類を差し出した。さすが女性陣の方が落ち着いている。感心してミリアーナは説明を聞いた。貴族の結婚の書類だが、それには大神殿の許可がいる。そこが二人の山場になるであろう。


「父上は僕の方が宥めておくから。安心して手続きを進めて良いよ」


 脇からこっそりとアルベルトが助言する。ミリアーナがちらりと見ると、楽しそうにウインクしてみせた。それからしばらくしてパーティはお開きとなった。

 レアンドロは騎士達との打ち上げがあるようで去って行ったが、結婚に関しての書類は大事に抱えている。残されたミリアーナは、護衛達の好奇の視線にさらされながらも、いつもの澄ました顔でパーティ会場を後にした。大神殿についてからも、特にシスターや大神官達には何も言わない。


「神殿との交渉はこちらでする。ミリアーナは何も言わなくていい」


 去り際にレアンドロからそう言われたのだ。その言葉を守り、ミリアーナはいつものように大神殿の水槽の中に入ると、静かに眠りについた。






     ✱✱✱






 その日の深夜。騎士達との飲み会が終わると、まっすぐにレアンドロは公爵家へと帰宅した。真っ暗な公爵家はすでに皆が眠りについていると思われたが、一か所だけ明かりが点いている。そこはタリアーニ公爵家の執務室。

 夜遅くまで作業をしているのは、一人の女性だった。細く長い金髪に、知的な紫色の瞳。目を細める様子は、そのまま眠りについて消えてしまいそうな、儚げな美貌。

 彼女はベアトリス・タリアーニ。レアンドロの実母であり、アルベルトの乳母だった人物だ。レアンドロが戦争の前線に立つということで、乳母は引退してもらい公爵家の切り盛りを任せていた。さすがに才女と名高い彼女は、公爵家どころか領地経営。果ては新しく建てた商業を成功させ、巨万の富を得るほどの働きぶりを見せていた。

 ドアがノックされ、落ち着いた声で彼女は許可を出す。入ってきたのは、騎士服を着たままのレアンドロだった。


「お帰りなさい、レアンドロ。寝ずに待っていたのだけれど、遅かったわね」


 まっすぐに彼を見つめて、ベアトリスは言う。


「申し訳ありません。騎士団の飲み会が遅くなりまして」


「大方、例の後輩が呑み潰れて介抱していたんでしょう?」


「さすが、お見通しで」


 苦笑いすると、ベアトリスはふっと息を吐いた。顔が広い彼女には、騎士団の事情などお見通しなのだろう。


「……で、例の件はどうなったの?」


 本題に入られ、レアンドロは姿勢を正す。


 「聖女様との結婚が決まりました。お祝いして下さい、お母様」

【ミリアーナ・ベル・クレッセント】


国を守る不老不死の聖女。

蜂蜜色の髪に空色のインナーカラー、桃色と空色のオッドアイを持つ美少女。



【レアンドロ・タリアーニ】


時の悪魔と契約した公爵。

金髪に翡翠色の瞳。



【アルベルト・クレッセド】


新・皇帝の一人息子であり、レアンドロの乳兄弟。

黒髪に青い目の少年。



【アルフォード・クレッセド】


新・皇帝陛下。

アルベルトの父。



【エドワード・クレッセド】


皇帝陛下を退き引退した。

アルベルトの祖父であり、アルフォードの父。 



【ベアトリス・タリアーニ】


レアンドロの母で、元伯爵令嬢。

金髪に紫目の才女。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ