閑話「エルフと魔王と契約書」
時は、アイゼア兄様と魔王サマが、従者テストと称して魔法の模擬戦をし、魔王サマの魔法がケンダル先生に止められた頃まで遡る。
「…してミオ殿下、二、三お尋ねしたいことがあるんだが?」
「…はい、ケンダル先生…」
「…おそらく四日前ほどから、何やら王族ではない魔力を、王宮から検知されたのじゃが、…この御仁と出会ったのはいつ頃かの?」
「…えっと四日前ぐらいに出会って、新しく従者として雇いました…。」
ケンダル先生が思わずというような感じで、雇った…?と漏らす。
「…この御仁と出会った経緯は?」
「えーと、…その、本を開いたら、指輪があって、それをはめたら、物凄い風と黒い羽がブワァって舞って…その後、空中にこの方が浮かんでました。」
ケンダル先生は深いため息をこぼした。
「…この御仁の名は―――」
「くどいぞ、貴様ら。余の名はローガン・レクス。全魔族、全魔物を統べる余こそが、魔王だ。」
ケンダル先生が「なんということだ…」と呟いて頭を抑える。
うぅぅぅ、違う担当の先生に怒られるのって、自分の担当教師の時の倍以上緊張するよね!
「それより、そこのエルフよ、貴様は余を封印した、あの忌まわしき魔法使いの師であるか。」
「…いかにも、勇者一行の魔法使い、ドロシーは我輩の教え子の中で、最も魔法に秀でた者ですぞ。」
「フン、だろうな。でなければ、余があのような有象無象の者たちに、封印されるなどありえん。」
反省…反省…したいんだけど……
片や、プラチナブロンドの腰までの長髪で紫と金のオッドアイにモノクルをかけてる二十代見た目の物腰柔らかエルフと
片や、艶のある、背中真ん中らへんまでの黒髪長髪に、アメジストをはめ込んだ瞳で冷淡美人顔の約190cmの魔王サマが並んでると…
絵になる!!とても絵になる!!
あ〜宮廷絵師〜お小遣い三ヶ月で描いて〜お願いします〜!!
身長的にケンダル先生がちょっと低いから、少し見上げてる感じなのめっちゃ良い!!
…いけない!真面目に、真面目に…真面目系先輩教師(ケンダル先生)×天然新任教師(魔王サマ)見たいぃいいい!!
堅物系敏腕商会長(魔王サマ)×大人の色気ダダ漏れ美人秘書♂(ケンダル先生)も見たいいいいいい!!!!
描くしか…僕が描くしかない…!!
「…殿下、ミオ殿下!」
「ふぇい!!なんでしょう!ケンダル先生!!」
「まったく、…どこまで話を聞いてましたかの?」
腰を前に屈めて、ケンダル先生の髪の毛が僕の頭に落ちてくる。
いわゆる『髪カーテン』というやつだ。
…えぇ〜!!種族を越えた愛ゆえに、最愛の魔王をその手にかけなくてはならなくなった、妖精の姫♂じゃん!!大丈夫?羽根落としてきた???
「…その時のそやつは、何をしても動かぬ。」
…えっ!魔王サマが髪カーテンなんてしちゃったら、拉致監禁してる、愛しの妖精姫♂の寝顔を優しく見守る魔王じゃん!!
薄い本が厚くなるし、ご飯もいっぱい食べれちゃう!!
「ゴホン。…前にも言いましたが、我輩のことはなるべく攻めで出してくだされ。」
一気に現実に引き戻される。
そうだ!なんでか分からないけど、ケンダル先生は僕がBL本描いてるのを知ってるんだった!!
「…ぜ…善処します。」
目を右に泳がせながら、返事をする。
「…まぁ良いでしょう。して、話はどこまで聞いていたかな?」
魔王サマが“いいのか?”って呟いた。いいってことにして!
「はい!先生のお弟子さんである、魔法使いドロシーが魔王サマを封印。そして、この契約の指輪と契約の規定を決めたんですよね!」
「ほほぅ、よく聞いておる。」
ニコニコのケンダル先生とちゃんと、聞いていたのかとでも言いたげな顔で、目を見開く魔王サマ。
これでも王族の末席に座す者ですよ!
「……封印を解いたのが、ミオ殿下なのが不幸中の幸いと言えるのぉ、
良い意味でミオ殿下は、政には無関心と見える。
他の王子達ならこの御仁の力を、行き過ぎた正義に使ってしまうであろうからな。」
ケンダル先生がちいさくため息をつきながら、おっしゃる。
…僕もちょっと、そう思ってた。
リアン兄上はこの国をもっと豊かに。
ライリー兄上は領土拡大を。
アイゼア兄様やワイアット兄様も、力を持てばそうなってしまうかもしれない。
まぁ、僕だってこの国を想う気持ちはあれど、基本的には私利私欲に生きてるのだ!主にBL的な意味で!!
「だからこそ、その契約書の能力をキチンと使いこなしてもらいたい。」
「契約書の能力?」
僕は指輪を見る。
「さよう。基本操作は、指輪に大きなアメジストがありますじゃろ?そこを捻る。そうしたら魔王が使える魔力量を調整出来る。」
「そんな、音声調整みたいなノリでいいんですか?」
「ほほ!あの娘は、契約の術式を組み込むのは、上手かったですがのぉ!設定は“ずさん”で、よく我輩が改良したものだわい!それから指輪を魔王に向けてくだされ。」
「…?はい。」
「そして、何かを命じてくだされ。」
「…命じる…?何を…?…ハッ!
『魔王サマ!ケンダル先生を押し倒して』!!」
「なぜ余がそのような事を―――?!」
明らかに、自分の意思ではないような動きでケンダル先生の元へ向かう魔王サマ。
この命令には、魔王サマもケンダル先生も予測してなかったようで、二人とも驚いた顔をしてた。
表情も相まってラッキースケベ(?)みがあって、とてもグッド!
「エマっ!エリっ!エナっ!!」
「「「心得ております。」」」
それから僕たちは、魔王サマに「いい加減にしろっ!貴様らっ!!」と怒られるまで撮影会をしたのだった。




