閑話「とある侍女たちの忠誠」
今回はとある魔術師目線のお話
お初にお目にかかる。
我輩、しがない宮廷魔術団の魔術師。
わけあって、五人の王子の従者に、仕えている王子の印象を聞きまわっておる。
一から四番目の王子たちは、皆ウワサと違わない性格のようで、ちと面白みに欠ける。
さて、最後は五番目の王子か…自室に籠りっきりだと聞くが…どんな子かのぉ
おっと、丁度よく侍女が出てきたな。
「もし、そこの侍女殿。貴殿は五番目の王子の侍女殿とお見受けする。少しいいかの?」
この娘は確か…エマといったかな?
「どちら様でしょうか?王子に謁見の予定はなかったはずですが。」
警戒されておるの、まぁ無理もないか。フード被って顔が見えづらい我輩、めちゃくちゃに怪しいからのぉ。
「我輩は、宮廷魔術団の者である。王子ではなく、従者たち皆に、調査のようなものをしておる。なに、時間は取らせぬよ。」
「…分かりました。手短にお願いします。」
「ては、貴殿は、仕える王子をどれだけ知っている?」
「どれだけ、とは?」
「難しく考えないでくれ、何が好きとか、嫌いとかそういうのだよ。」
「…むやみに王子個人の情報はお答え出来かねます。」
ほほぅ!しっかりしておる。他の従者は、「自分こそ王子を知っている!」と、こぞって答えてくれたからのぉ。
「そうだの、王族への詮索と思われても仕方のない発言だった。申し訳ない。」
「いえ、…では失礼してもよろしいでしょうか?」
「すまない。もうひとつ、君にとって仕える王子とはどういう存在だ?」
「…どのような、存在…、黒いシルクのシーツのような方です。」
「ほほぅ?それはどうして?」
「掴もうとすると、するりと抜け落ちてしまうような掴みどころのなさ、しかし、誰かに掴まれてしまってもシワひとつ作れないであろう芯の強さ、それに…」
「それに…?」
「…申し訳ございません。時間ですので失礼します。」
我輩に一礼してスタスタと歩いていく。
ふむ、五番目の王子はなかなか面白いかもしれんの!
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今日も五番目の王子の侍女に話を聞いてみる。
前回とは違う娘じゃな、エリと言ったかの?
前に聞いた侍女に、名前が似とるの…姉妹か?
「もし、そこの侍女殿、5番目の王子の侍女殿とお見受けする。二、三お尋ねしても良いかの。」
「…」
五番目の王子の従者はめちゃくちゃ警戒心が強いの!背中の毛を逆立て威嚇してる黒猫の幻覚が見えたわい。
「我輩、怪しく見えるだろうが、王宮魔術団に所属しておる者だ。ほら、許可証だ。」
「…どうぞ。」
「貴殿は仕える王子をどれだけ知っている?」
「契約規定に反しますので、お答え出来かねます。」
うーん、ここまで王族に忠誠的なのある意味すごくない?
四番目の王子のとことか、結構ポロッと言ってくれたぞ?
「おお、契約違反はダメだの。すまんすまん。して、もうひとつ、いいかの?」
「…なんでしょう。」
「君にとって仕える王子とはどういう存在だ?」
「……私にとって王子とは、……月のない星空のようなお方です。」
「それはどうして?」
「……ふと、見上げてみると、大小様々な輝きで埋めつくしていて、手を伸ばせど届かない。愚かさを思い知らさせる。そんなお方です。そして……」
「そして…?」
「…いえ、なんでもありません。時間となりましたので失礼させていただきます。中途半端な回答になってしまい申し訳ございません。」
一礼して過ぎ去っていく侍女殿
なんで二人とも途中で区切るんじゃ!!
我輩、気になって夜しか寝れぬではないか!!
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今日で最後の侍女だの、名前は…エナ…?なんで三人とも名前が似とるんじゃ!!
覚えやすいのか、覚えにくいのか、ハッキリさせておくれ!
「もし、貴殿は五番目の王子の侍女殿とお見受けする。二、三お尋ねしてもいいかの?」
「あっ!エマパイセンとエリパイセンが言ってた魔術師の方ッスね!!良いッスよ!!なんでも聞いちゃってください!!」
この子だけ異質じゃない?前の二人が堅苦しかっただけ?大丈夫そ?我輩、心配になるんだけど…
「で、では早速、貴殿は仕える王子をどれだけ知っている?」
「そういう聞き方は相手によって返答が曖昧になると思うんッスよね!抽象的に質問したいなら具体例とか出した方がいいと思うんッスけど!」
えっ!指摘してくるじゃん!今まで、この質問して具体例を出した方が良いとか、言われたことないんだが!
「…ほほ、今後の参考にしよう。感謝しますぞ。してお答えいただけると嬉しいんだがの。」
「あーパイセン達からキツく言うなって止められてるんでノーコメントッス!」
毛色は違っても、この質問に絶対に答えてくれないじゃん!どうなってんの五番目の王子の侍女!
!!
指摘するだけして答えてくれないじゃが!?
なにテクニカルなことしてくれてんの?この娘、恐ろしい子!!
「そ、そうか、ならば、しょうがない。して、もうひとつ質問だ。君にとって仕える王子とはどういう存在だ?」
「ふふん!よくぞ聞いてくれました!ずばり『ブラックダリア』ッス!!」
「ブラックダリア?花の?」
「そおッス!花言葉は可憐や優美、あと威厳ってものあるッスね!」
「なるほど、五番目の王子はそれに該当すると。」
「いやー?あんましッスね」
おもわず膝の力が抜けた。該当しないんか。
「では、なぜブラックダリア?」
「…髪色がなんか似てるなーって?」
我輩は、どういう存在かって聞いてんじゃけど?!!!本当にどうなっておるんじゃ!五番目の王子の侍女は!!
「(…でも、あの時、見上げて咲いてた“ブラックダリア”に“感謝”しかないのです。それから…)」
「ん?何か言ったかの?心の中で貴殿にツッコミを入れててよく聞こえなんだ。」
「ノリ良いっすね!魔術師様!魔術師って、もっと融通が効かないと思ってたッス!!」
「ほほ!戦場と同じ、柔軟に対応せねばならぬ時があるからのぉ!」
「なるほど!あっそろそろヤバいかも!それじゃ失礼するッス〜!」
…これで全員終わりだの。ご番目の王子、お会いするのが楽しみだのぉ
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「芯の強さ、それに…」
「そんなお方です。そして…」
「“感謝”しかないのです。それから…」
「「「供給される推しカプの解釈が神!!」」」