閑話「とある侍女の話」〜エナ編〜
今回はエナ目線のお話
どもっ!初めまして!
あたしはエナって言います!
本名はもっと長いんスけど、それは割愛するッス!
え?無駄口叩いてないで、仕事しろ?いやいや、これでもお仕事中なんスよ!
…今は絶賛、修羅場中ッス!!
王子がストーリー構成、コマ割り、各キャラの配置諸々をやってて、それの描き終わり待ちッス!
なので、あたしの昔話を聞いていってくださいッス!!
あたし、こう見えて巷で流行りの「公爵令嬢」ッス!!
と言っても、政略結婚させられた、お父様がメイドに手を出してという、いわゆる“妾の子”ってやつッス。
政略結婚のお相手が、お子を産まずに急死してしまって、それから公爵家に迎え入れられるタイミングで、お母さんが流行り病で亡くなり、お父様はさっさと別のお家からちゃんとしたお嬢さんを後妻として迎え入れ、その方との間に女の子を一人もうけたッス!
まぁ、よくある話ッスよね。
公爵家で異質な存在となったあたしに、お父様とお義母様は
「これを持って早くどっかへ行け。」
という視線と紹介状を寄越して、何も言わず、それっきり。
…それからほんのりと、人の視線が怖くなりました。
由緒は正しいらしい公爵家だからなのか、紹介された先はなんと王宮!びっくりッスよね!
決まった配置はなく、パーティなどのバタバタする日は、王妃様たちの衣装などを引っ張り出してはあてがい仕舞うを繰り返したり、
特に行事がない時は、窓拭きとかのお掃除がメインだったッスね!
ここは良い職場ッスよね!目線を合わせなくていいんスから!
仕事にも慣れた頃、王宮の庭園を発見したんスよ。
それぞれの花が咲き誇り、木々が生い茂ってる。
そこでなんか、泣いちゃったんすよね。あたし。
“ここに居ても良いんだよ”って言われた気がして…そんな訳ないんスけどね!
なんか、無性にお花がひとつ欲しくなったんスけど、ここ王宮だし、お妃様たちの庭園だしってことで、花とかをスケッチすることにしたんスよ!
撮影機は高くて、まだ手が出せなかったんスよね、その時は。
描いていくうちに、花のひとつを取っても、どれも全く同じもがないってのに気がついて、観察してはスケッチしての繰り返しッス!
なかなか上手いんでは?とか思ってる時にやってきたのがそう!我らの王子!ミオ殿下!!
その当時、あたしは王子の名前知らなかったんスよねー。
防犯上の理由で、十歳以下の王子の名前は伏せられてましたし。
「君、さいきんずっとここで、絵を描いてるよね?見せて?」
状況を飲み込めず口を開けてたら、エマパイセンが咳払いをひとつ。それにハッとして深々とお辞儀をしました!
エマパイセン、今思い出しても感謝の念しかないっス…!
「かっ!輝ける五番目の星にご挨拶申し上げます!!」
「んふふ、はぃ、ごあいさつ。…ねぇ絵、見せて?」
頭を下げながらも、目を右往左往させ、覚悟を決め、おずおず差し出したスケッチブックをエマパイセンが受け取り、王子に渡す。
あの時の緊張感は、今でも思い出せるッス…
「うん、よくかけてる!エマとエリの画風に合いそうじゃない?」
「仰る通りかと。」
「同意いたします。」
「ねぇ!きみ名前は?」
未だに顔を上げられないあたしは、「恐れ多いです…」とか「ただ見て描いただけで…」とか、もごもご言ってたッス
そしたら王子に
「…下に咲く花だけじゃなくて、上に咲く花とかも描きたくない?」
って言われたんスよ。でね?たしかに!と思って、おそるおそる顔を上げると、コムラサキのような髪とネモフィラを夜に閉じ込めたような瞳と視線が合って、
人の視線って、こんなにも柔らかいんだなって、その時、初めて知ったのです。
「…君の名前を教えて?」
「はひ、エナと申します…」
この時思わず、愛称の“エナ”を名乗っちゃったんスよね〜
「…えっ!!エマに、エリに、エナ!?!僕ってば、すごいかも!!ふふ!よし、エナ!今日から君は僕の専属侍女だ!!」
――それでその日から、あたしは「エレアナ・ウィル・ジョーダン」をやめて
王子専属侍女になったって訳ッス!
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「うぅぅぅ〜うぅぅぅ〜…よし!!コマ割りキャラ配置できた!!エマからキャラの下書きをお願い!そのあと、エリに渡して、背景の書き込み。エマに戻してペン入れして!」
「かしこまりました。」
「承知いたしました。」
「エナは、小物の描き込みとトーン貼りね!それと、エマがすぐ写植出来るようにセリフの切り分けをお願い!」
「了解ッス!!」
「そうだ、エナ!」
「?なんスか?王子。」
「今回も花が似合う受けだから、いつも通りにお花を散りばめてね!」
「!!もちろんッスよ!!」
今日もあたしは、原稿に花を咲かせてる。
これからもあたしの活躍に、乞うご期待ッスよ!!