子蜘蛛襲来1
おじいさんのありがた~い おはなし。
「みんな、今日も盛り上げていくよ。」
今日のらいぶも大盛況、最前列の厄介オタが大人しいせいか、オールスタンディングでも後方までノリがいい。博雅のギターサウンドも式神バンドも絶好調。
「それ、ないし!さんみ!みょうぶ!」
「よっしゃーいくぞー!」
「たいがー!、ふぁいやー!、さいばー!、ふぁいばー!、だいぱー!……。」
会場全体が揺れている。
「おつかれ! 今日はノリノリでしたね。」
バックステージにもどった小式部は、博雅とハイタッチした。
「いやぁ、昨日家でギター弾いてたら、大きな蜘蛛が出てね。」
「蜘蛛って?天井いっぱいになるくらい?」
「いや、子供の頭くらいかな。」
「糸はいてきた?」
「ギター弾いてたら、弾けて消えていった。」
「消えた?」
「で、それからなんか絶好調!」
「ギターで退治しちゃったんだ。」
会場を出ようとすると、あさぼらけ定頼おじさん達がお見送りに並んでいる。
「おつかれさまです!」
「ん?今日は関白さんちの子たちは?」
「それが、今日は来ていないんですよ。」
「謹慎中?」
「あの子たちに反省って言葉はありませんよ。外出禁止にでもなったんではないですかね。」
「ふ~ん、そうなんだ。ね、博雅さん葉二貸しといて。」
「晴明さ~ん、開けて!」
小式部が言うと、門がすーっと開いた。
屋敷からは誰も出てこない。
「晴明さ~ん!」
通いなれた晴明邸の中に入ると、中が荒らされ、式神トラップも、すべて破壊されているようで、あちらこちらに白い糸が残っている。
「あっ、晴明さん。」
「小式部さんですか。」
「どうしたの?」
「この間の土蜘蛛の小型のやつが、襲ってきましてね。」
「博雅さんもそんなこと言ってたよ。」
「博雅さんは?」
「ギター弾いてたら消えたって。」
「ふ~ん、1匹は式神が食べましたけど、残りは逃げられました。」
「食べた?」
「ええ、好き勝手に暴れましてね。」
「蜘蛛に苦戦したの?」
「いや、式神たちが暴れましてね。蜘蛛はすぐ逃げました。」
「じゃあ、この家を荒らしたのは?」
「そうです、やつらに修理させますよ。」
そんな話をしていると、関白殿からの使者がやってきた。
「至急、晴明どのに屋敷まで来てほしいとのことです。」
関白殿の屋敷に入ると、保昌が待っていた。
「晴明どの、おっ、小式部も来たのか。」
「パパ、葛城山は?」
「あの蜘蛛の化け物は退治したんだが、数匹の子蜘蛛を取り逃してな。」
「子蜘蛛?」
「なるほど、それで襲ってきたんですね。」
「晴明どののところに?」
「ええ、5~6匹はいましたね。」
「金太郎の話だと5匹逃したっていってた。」
「じゃあ、残りは3匹ね。」
「ん?2匹は?」
「1匹は、晴明さんちの式神が食べて、もう1匹は博雅さんが消した。」
「食べて、消した?」
「じゃあ、残りはここ? 頼光さんは?」
「頼光さんの屋敷は結界をしっかり張ったんで問題ないでしょう。」
「それに綱さんをはじめ、四天王がいるしな。」
「ここは、関白さんだけ?」
「いや、関白殿のほかに、跡継ぎの頼通どのと、教通どの、頼宗どのが寝込んでいる。」
「4人?」
「数が合いませんなぁ。6匹だったのでは」
「しかし、武勇最強の頼光どの、管弦最強の博雅どの、陰陽師の私、最高権力者の道長殿、後継者の摂政頼通どのと、完全に狙い撃ちのようですね。」
「バカ息子教通、頼宗は謎ね。」
「まあ、摂関家だからかな。」
「相手に意図的なものがあることは確かですね。」
とりあえず、3人は道長殿の部屋に向かった。寝床に横になった道長のうえに大きな子蜘蛛が乗っているのが霊視できた。
「いるわよ。」
「そうですね。」
「どこだ!どこにいるんだ。」
晴明と小式部には感知できるが、保昌には見えていない。保昌は刀に手をかけて、抜こうとした。
「待って、関白さんのお腹の上にいるよ。」
「人質ってことですね。」
「頼通さんは?」
となりの部屋に寝ている頼通の上にも大きな子蜘蛛が乗っている。
「こっちも同じですね。さて、どうしますかね。」
「式神でどかーんというわけにはいかないのか?」
「それだと、関白殿たちも、家ごと無くなっちゃいますよ。」
「困ったなぁ。」
小式部は、博雅から預かってきた「葉二」を取り出した。
「パパ、これよ。」
「これは!よし。」
保昌は、心を澄まして「葉二」を吹きはじめた。
「葉二」の響きは、清澄で、この世の邪悪なものを全て消し去るようであった。
道長と頼通についていた子蜘蛛は弾けて消えていった。
「葉二」最強説。