異界の蜘蛛
おじいさんのありがた~い おはなし。
頼光の屋敷の門をくぐると、晴明は急に立ち止まったそうな。
「うん……。」
「どうしたの?」
「これは、ただならぬ妖気ですね。」
「妖気?」
「ええ、ちょっと見てみますね。」
晴明は呪符を取り出すと何かを唱えた。
すると、屋敷の中まで続いている白い糸のようなものが現れた。
「これに、触らないようにしてくださいね。」
「袴さんは、また引っ掛かりそうだから、ここにいて。」
見ると、既に袴垂にもいたるところに白い糸がついている。
「もうついていたみたいですね。ちょっと待ってください。」
晴明が何かを唱えると、袴垂についていた 白い糸は、青い炎に焼かれて消えた。
それから、晴明と小式部は白い糸をたどって屋敷に入っていくと、奥に進むにつれて蜘蛛の巣のように白い糸が壁や天井、いたる所にはられている。
「これはいけませんね。この先は危険です。」
「真っ白だね。でもパパたちは?」
「これは目には見えないので、そのまま中にいるんでしょうね。ちょっと待ってください。」 晴明がまた呪を唱え、白い糸が焼きながら、二人は頼光がいる部屋にたどり着いた。
「おお、晴明どの、それに小式部ちゃん。」
綱は部屋の前に控えていた。綱も白い糸が付いてはいたが、それほどでもなかったので、晴明はさっと焼くと。
「頼光どのは?」
「先ほどまで起きていたのですが……。」
「それにしても、部屋の中の糸が何か所か切れているようなんですが、何かしましたか?」
「切った。」
「切った? 刀で?」
「刀を振ると、何か音がした。」
「その刀を見せてください。」
「これが、わが名刀『髭切』だ。」
「うう~ん。これで鬼か何か切りましたか?」
「切った。」
「あっ、あの時ですね。それでわかりました。綱さんこれで頼光さんの回りを切ってください。」
「わかった。切る!」
綱が刀を振り回すと、頼光の周りから白い糸が消えていく。
「あっ、パパこんなところに」
保昌は意識を失っているのか黙って座っている。
「パパ!」
ん?いびきをかいている。小式部が保昌をゆすると目を覚ました。
「おっ、小式部。どうしたんだ?それに晴明さんも。」
「パパが呼んだんでしょ。」
「ああ、そうだった。寝ぼけていたようだ」
晴明が保昌の体についた糸を焼くと、
「保昌どのまで、白い糸がまかれていますね。」
「白い糸?」
「ええ、異界の蜘蛛の糸のようです。」
「ということは、その異界の蜘蛛はまだ……。」
「近くにいますね。」
ぷつん
「切った!」
綱がふりまわした刀が何かを切ったようだ。
晴明が見ると、頼光についていた太い糸が切れていた。
「うう~ん。これで精気を吸っていたようですね。」
「精気?」
「頼光どのの命を狙ったようですね。その糸の後をたどってみましょう。」
糸は奥の部屋まで続いている。
「綱どの、この部屋は?」
「頼光殿が旅の僧を泊めていたのですが。」
綱と保昌が、同時に左右からふすまを開けると、部屋には白い糸がいたるところにあるが、僧の姿は見えない。
「上よ!」
小式部が叫ぶのと同時に、天井から白い糸が振ってきた。
天井には巨大な蜘蛛が……。
「えい!」
「切る!」
姿も糸も見えないはずの綱と保昌が切りかかり、降ってくる糸とともに、蜘蛛の足を1本ずつ切り落とした。すると巨大な蜘蛛はすっと姿を消した。
「ん?気配が消えた。」
保昌が落ちて来たものを拾うと、蜘蛛の足のようだった。
「これは、異界の蜘蛛のようですね。」
「どこに行ったんだ?切る!」
「綱さんは、すぐに頼光殿のところへ行ってください。」
綱が頼光の寝ている部屋に戻ると、刀を手に頼光が起き上がっている。
「殿!」
「ああ、何かが襲ってきたので切った。」
「で、どこへ? 切る!」
「いや、気配が消えた。」
「逃げられたようですね。」
「おっ、保昌どのに、晴明どの来て下さったのですか。」
「私もいるわよ。」
「あっ、小式部ちゃんも」
晴明は部屋の様子を見ると、廊下の方へ歩いて行った。
「ここで、姿を消したようですね。頼光殿切りましたか?」
「ああ、この『膝丸』で」
「体に傷をつけたようです。血が流れています。」
「で、どこに行ったんだ?」
「ちょっと待ってください、占ってみます。」
「小式部、お前見えてるんか?」
「うん、見えてるよ。」
「パパたちには見えないのに」
「私、昔からそんなものが見える体質なの。」
「頼光殿、出ましたよ。」
晴明は占いを終えると、地図を見始めた。
「どこなんだ?」
「この方角だと……。大和の国、葛城山あたりか。」
「葛城山?貞光たちが出かけたところだぞ。」
刀もキーアイテムですね。