道長家の事情
おじいさんのありがた~い おはなし。
「晴明さ~ん、開けて!」
小式部が言うと、門がすーっと開いた。
屋敷から、小僧が一人出てきた。
「師匠は、今、忙しいんです。小娘は帰りなさい。」
「あなた、もとは 紙きれのくせに えらそうに、いつもいつも!」
「晴明さ~ん!」
「ああ、小式部さんですか。どうしました?」
「ストーカーに困ってるの。」
「あさぼらけ定頼おじさんが撃退した件ですか?」
「そ、関白さんちの教通さんが仲間連れてうちまで来てね。」
「それは、大変でしたね。」
「パパも上司の息子だから逆らえないし。」
「そこを定頼さんが」
「うん。あの人、歌はいまいちだけど、お経はうまいみたい。」
「歌も最近は公任じいさんにほめられているみたいですよ。」
「ふうん。で。今度は毎日、梅の花が何本も届くようになったの。」
「梅の花?」
「ママが保昌パパとの再婚の条件に出したやつ。」
「それは無理でしょ。紫宸殿の梅って、ミカドのものですよ。」
「そ、それで大問題になって、関白さんがカンカン。」
「そりゃそうですね。」
「でも犯人が、実の息子たちじゃね。で、悪いのは私って。」
「ん~、それは……。」
「で、4人と一年おきに順番に結婚しろって」
「それは困りましたね。小式部さんはその中に気になる人がいますか。」
「ん~、そもそも教通さんって、定頼おじさんの妹が嫁だし、それってね。」
「他の人は?」
「私、歌のうまい人がいいわ。業平様が理想だわ。」
「在原業平ですか。ずいぶん前に死んだ人ですけど。」
「だから、理想。」
「あのレベルに近い歌人といったら、今だと公任じいさんか。」
「じいさんだし」
「あと、賢い人。天神様とか。」
「菅原道真公ですか。やっぱり昔の人ですね。」
「まあ。ばかは嫌い。」
「やはり、あれしかなさそうですね。」
「あれね。どんな課題がいいかな。」
「それはですね……。」
御堂関白殿は、一連の騒動にかんかんであった。早速6人の息子を呼び出したそうな。
「頼宗も教通もなんてことをしてくれたんだ。せっかく彰子の子をミカドにしたのに、これじゃ推し活に専念できないじゃないか。」
「父上がそのために私に摂政をおしつけたのに、お前たち何をしているんだ。」
父に就任わずか1年で摂政をゆずられた長男の頼通もいっしょになって怒っている。
「推しのためならって、父上もおっしゃってるじゃないですか。」
「頼宗兄は単純なんだよ。保昌と同じ事やってもしょうがないだろ。」
教通もいっしょになって、頼宗を責めると、護衛として部屋の隅に控えている保昌が、赤くなったり、青くなったりしている。
「教通もあれだけ、定頼おじさんに言われてたのに、家に押しかけたんだろ。」
「あんな格下じじいが何と言おうと、おれたちの愛はじゃまできないのさ。」
「また、お経に撃退されたくせに」
「うううん、父上、あいつを左遷しましょう。」
「おまえたち、まだまだ推しの美学がわかっとらんようじゃのう。」
関白殿はためいきをつきながら、紫のさいりゅーむをとりだした。
「推しはステージで推せ!」
「そうだ!押し倒したら勝ちだ!」
四男の能信に保昌が刀を抜きかけた。
「能信!おまえは黙って、父の話を聞きなさい。」
「そうですよ。あなたは乱暴すぎます。だから出世しないんですよ。」
あわてて、頼通が注意すると、三男の顕信が止めに入る。
訳が分からない末っ子の長家は黙って座っている。
関白殿は保昌を近くに呼ぶと、
「保昌、すまんのう。息子たちが迷惑をかけて。」
「いえ、関白殿のお子様ですから、名誉なことなのですが…。」
「まあ、花盗人やったのはお前だけどな。」
「あれは、関白殿がうまく収めてくださって」
「まあ、これ以上まねするやつが出ないようにせんとな。」
「はっ、厳重に警戒します。」
「ん? ところで頼光の姿を最近見ないのう。」
「最近、具合が悪いと寝込んでいるようで。」
そろそろ事件発生か?