厄介
第5章になりました。
「みんな!盛り上がっていくよ!」
今日も小式部&博雅のライヴは超満員、最前列には揃いの法被を着た貴族の若者たちが踊ったり、跳ねたりしていたそうな。
「今日は、みんなに最高のニュースがあるんだ。聞いてくれる?」
わぁー!
「これから、いっしょにライヴをやる新メンバーのメンバーの紹介よ!」
おおお~!
「まず、紫の系譜のこの人だ。」
「大弐三位でーす。さんみーと呼んでください。」
さんみー!
「それから、この人」
「小馬命婦でーす。みょーぶーと呼んでください。」
みょーぶー!
「っていうか、なんで?わたしママと一緒で、あまり歌うまくないのに……。」
「ほんと、何でこんな人と一緒なんですか?百人一首に入っていないでしょ。」
「いいから、のりよ。三人官女2世のたんじょうだ」
文字どうり、和泉式部、紫式部、清少納言の三人官女の娘。2世ユニットの誕生であった。
「でも私たちはママたちと違って、ロックだぜ!」
おおおおおっ~!
「盛り上がっていくぞ!!!」
博雅のげんじょーギターがうなりをあげ、式神バンドの重低音サウンドが響きわたる。
ライヴ終了後、最前列にいた貴族の若者たちがもめていた。
「TOはやっぱりおれだ!」
「兄さんは、歌はうまいけど、政治力ゼロだから、TOは無理。」
「最初に見つけたのは俺だぞ!」
「ぼくは、花見にさそいました。」
「自分の家にも花は咲いてるって、断られたくせに」
関白殿の次男の頼宗と、五男の教通が争っているのを、親戚の範長がおろおろしてみている。同じく従弟の公成が止めようと名誉会長をさがしてきた。
「何を争っているんですか?落ち着きなさい。」
「うるせー、あさぼらけおじさんは黙ってろ!」
「仕方がありませんね。」
あさぼらけおじさんこと定頼は、急にお経を唱えだした。
「うっ、頭が…。」
「いたたたたっ」
頼宗と教通は、とりあえずおとなしくなったそうな。
「推しにガチ恋してはいけませんよ。それは厄介っていうんです。」
「厄介?」
「握手会独占しようとしたり、他のファンにマウントとったり、目立とうと迷惑かけたり、プライベートで会おうって、個人メールで脅迫したり、総選挙の票を操作したり。」
「ん?」
「身に覚えはありませんか?」
ギクっ!
4人は顔を見合わせた。
「まさか、勝手に家に押しかけたりしてませんよね?」
「い、いや……、まだ…。」
「父上の保昌さんがこわくって、私には無理です。」
「まあ、関白殿の息子ってぱわはら、使える人は別でしょうけど」
「おれたちも、そんなこと……。」
「正々堂々と、花盗人作戦で、臨むとよろしいのでは?」
「盗人が正々堂々なのか?」
「兄さんそんなことも知らないの?」
「頼宗さん、蓬莱の玉ですよ。」
「玉?」
「みなさんが、小式部さんの望むものを用意するってことですよ。」
そんなわけで、小式部内侍をめぐる7人の男女の恋物語がはじまるのであった?
推しにガチ恋は危険です。