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音楽番組出演

 クラスもグループも平常に戻った。

 伝統芸能のドラ息子は、あの協調体制が無かったかのように、クラスのカースト上位でふんぞり返っていた。

 まあ、協調したり競争した3人には

「今更、実はいい人でした~、とか気持ち悪いだろ。

 俺はこれでいいんだよ」

 と本心らしきものを語ったりしているが。


 一方、ミュージカルで意外な一面、悪役を演じられるド迫力の怖さを魅せた武藤愛照(メーテル)だが、そんな事を忘れたかのようにぶりっ子アイドルキャラ「武藤プロ」に徹している。

 フロイライン!のメンバー全員、本性は悪役の方だと知っているが、だからと言ってこれもお互い態度を変えたりしない。

「武藤、キショい」

「え~、酷いですぅ~」

 こんなやり取りを平然としていた。


 さて、天出優子だが、彼女の本性をスタッフは必死に隠そうとしている。

 小柄で華奢で、音楽に関しては抜群だが、関わらない分野ではポンコツ。

 このキャラで行きたいのだが、どうしても

「女好きで快楽主義者、下ネタも平気で言う」

 という、アイドルとしては疑問符がつくキャラも広まっていた。

 戸方プロデューサーは

「別に問題ないんじゃないの?」

 と放置しているが、マネージャーをはじめとするスタッフは

「スケル(ツォ)全体の品位に関わるから、多少漏れてるのはともかく、このキャラで行くのは防ごう」

 と考えていた。


 そんな優子にテレビ番組出演のオファーがかかる。




「えー? 面倒くさいです」

 優子はマネージャーから伝えられた仕事に不満を漏らす。

 別に喋るのが苦手でも、テレビに映るのが嫌いなわけでもない。

 常に発言に制御がかけられるのが嫌なのだ。

 スケル女全体でテレビ出演した時も、マネージャーは「NG!」「その辺で」というスケッチブックを見せて来て、自由な発言をさせない。

 もっともこれは優子に限った話ではなく、トークが限りなくマニアックになっていく品地レオナや、オッサンは大喜びだが平成生まれ以降は着いて来られないネタを話す暮子莉緒にも、同様に制止がかけられる。

 無難なアイドルトークに専念し、ちょっと面白い事は最年長の灰戸洋子に任せられる。

「この曲、ダンスが難しくて足腰に来ちゃうんですよね」

「それ、灰戸さんがお年寄りだからですよね?」

「おい、そこの!

 あとで楽屋の隅っこに来るように」

 といった、最年長をネタにした自虐トークとツッコミが精いっぱいだった。


「天出は局から指名されてるから、断れないよ。

 あとサリ・エリコンビと、富良野も名指しされている」

 リーダーの辺出ルナ、トーク要員灰戸洋子、そして人気メンバー照地美春と合わせて7人がトークゲストとしてスタジオ収録する。

 今回の新曲もまた、戸方Pの悪戯心に満ちていた。

 曲は一つであるが、歌詞が2種類ある。

 その異なるタイトル、歌詞に合わせて、曲はテンポとキーを僅かに変えて、受ける印象を変えていた。

 スケル女メンバーを悩ませているのは、同じ曲なのにダンスが2種類存在する事である。

 思わず、別な歌詞の方のダンスをして怒られたりした。

 こんな難易度の曲であるから、音楽的な話が出来る天出優子を呼びたい、テレビ局のディレクターはそう言っていたそうだ。

 表向きは。

「表向きですか。

 実際のところは?」

「この前のミュージカル対決、その話もしたいって司会者が言ってたみたい。

 放送ではほとんど使われないみたいだけど、是非とも話したいって」

「なるほど、理解しました」


 この前のミュージカル対決は、やって良かったと優子は心の底から思っている。

 既にある程度「音楽に関してはガチ」という評価が広まっていた優子ではなく、安藤紗里・斗仁尾とにお恵里のコンビが世に知られた事が良かった。

 盲目的なアイドルファンからは無条件で受け入れられた、ミュージカルというより歌劇。

 2人が考え、作り上げた「シューベルトの『魔王』の続編」とも言える歌に終始した歌劇は、演技の少なさや振付の未熟さ、演出の物足りなさこそ減点ポイントであるが、それ以外は高く評価されている。

 伝統芸能の役者、同級生のドラ息子の兄から

「牛丼を頼んだのに、ステーキが出て来た」

 と、企画に対するミスマッチを指摘されたが、逆に言えば「ステーキ並の価値はあり、食べたら十分美味しい」「比較対象にならないだけで、牛丼より劣る事は決して無い」のだ。

 ゆえに、サリ・エリコンビの楽曲センスは「中々良いんじゃないの」と評価が爆上がり。

 同僚の評価が上がった事が、優子には嬉しい。

 だから、彼女たちと共に番組出演であるなら、喜んで出よう。




 だが、スケル女スタッフは読み間違いをした。

 この番組の司会が、ミュージカルの話を聞きたかったのは確かだ。

 だが、若手アイドルたちがミュージカル対決する事をチェックしていた、彼女たちに興味を持っている人間である。

 もっとスケル女の内情を聞き出したい、その思惑に気づけなかった。


 一通り新曲の質問、ミュージカル対決の話をして、スタジオは大いに盛り上がっていた。

「ところで我々は、興味深い情報を手に入れました。

 天出優子さん」

「はい」

「お尻が大好きと聞きました」

「ああ〜……」

 一同頷く。

 これは周知の事実で、運営スタッフもギリギリOKにしている話題だ。

「お尻のどんな所が好きなの?」

「女性のお尻は神秘的なところです」

「男のは?」

 無言で嫌そうな表情で首を振る優子。

 スタジオは爆笑。

「優子ちゃん、酷いんですよ。

 勝手に触っておいて

『なんか疲れが溜まってる?』

『昨日、ランニングしたでしょ?』

 とか聞いて来るんですよ」

「そんなの分かるの?」

「それは、前リーダー馬場さんが、筋肉を触って疲れとか、どれだけ練習して来たかを判断してたんで、習っただけです」

「別にお尻で判断しなくても良いよね」

「普通に二の腕とか太ももでも良いでしょ」

「いや、太ももも割と危険だよ」

 周囲が盛り上がる。

「で、実際疲れてたの?」

「はい」

「おおー!

 当てられるんだ。

 凄いじゃないか」

 そして司会がとんでもない事を言い出す。

「じゃあ、アシスタントの子のお尻を触って、評論して貰いましょうか」

「ダメ!」

「ダメです!」

 すかさず美春と富良野が拒絶する。

「お?

 一体どうした?」

「余り他の女性のお尻を触らせないで下さい!」

「ゆっちょが触っていいのは私のお尻だけ」

「照地さん、そこは譲れません!

 触って良いのは私のだけです!」

「リッキー(富良野莉久)も、ミハミハって呼んでくれないとヤダヤダ」

 収録無視で、やいのやいの言い合う二人。

「どういう状況だ、これは?」

 司会が笑い、お尻を触られる準備をしていたアシスタントが困惑している。

「ちょっとあんたたち!」

 最年長灰戸洋子が場を締める


……かと思いきや


「スケル女は恋愛禁止だからね!

 メンバー間でそういう奪い合いとかダメだよ!」


 更なる爆弾を投げ込んでしまった。


「なに?

 スケル女そんな感じなの?

 メンバー間で……」

「誤解しないで下さい!

 それはごく一部です」

「ごく一部はそんななんだ」

 発言を間違い、火消しに失敗したリーダー辺出ルナ。

 以降、マネージャーが手でバツをして制止するも、流れが出来てしまい止まらなくなった百合百合トーク。


(今回、私は悪くないぞ!

 私から話を出してない!

 余計な事も何一つ言ってないからな!)

 そう思う優子だったが、結局収録後に全員連帯責任でマネージャーから説教されたのである。


 そして、大分編集でカットされてマイルドになったものの、優子の尻ソムリエっぷりや、メンバー間の百合百合な感じが放送され、それでかえって人気が出たのは皮肉な事であろう。

おまけ:

司会「リーダーのお尻は触らないの?」

優子「辺出さんはバイク乗ってるだけあって、お尻が硬い。

 触っても筋張っていて、面白くない」

辺出「変な事言わないで!!」


そしてファンの間で「アイアンヒップ」なる異名が囁かれる事になった。

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