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ポンコツ露呈

 天出優子は、アイドルとしては面白みがない子であろう。

 歌は上手い、ダンスもリズム感抜群、ステージパフォーマンスも一流。

 トークは、色々制限されているせいで、無難でミスが無い。

 アイドルヲタクからしたら

「自分が推さなくても問題ない」

 と思われがちだ。


 優子の強ヲタは、その音楽に対するスキルと造詣の深さ、特定分野の知識の凄まじさに魅了されている為、アイドルとしてではなく、何か別の才能タレントに対して惚れている。

 アイドルヲタクたちも

「コンサートであれ程頼りになる新人はいない」

「ようこりん(灰戸洋子)、ルナルナ(辺出ルナ)、しゅーちゃん(帯広修子)と並び立つ逸材」

「外仕事(対バンやフェス)で、どうだ!これが今のスケ女だ!と自慢出来る子」

 と高く評価をしているのだが、それと推しにするかは別問題である。


 この日、握手会やツーショット撮影会が始まる前に、「スケルツォバトル」と呼ばれるゲーム・スポーツ大会があったのだが、そこで優子はポンコツっぷりを大衆の前で晒してしまう。




「ビーチバレー対決!」

 リーダー辺出ルナの司会で対抗戦が始まった。

 水着にはならず、いつもの制服姿でビニールのビーチボールをラリーする、非常にゆるゆるな対戦。

 2人一組での対戦で、スパイク、アタックは禁止である。

 それでもとんでもない珍プレーが出るし、セーラー服にスカート(アンダースコートはアリ)でボールを追いかけると、中々のサービスシーンが見られるのだ。

「優子ちゃん、頑張ろうね!」

 ペアとなった富良野莉久が手を握って来る。

 ギャラリー席から照地美春が「敵視!敵視!」とうるさい……。

 安藤紗里・斗仁尾恵里コンビとの同期対戦である。

 客席のヲタたちが見守る中、優子のサービスで対戦開始!


「?」

「え?」

「は?」

 全員が呆気に取られた。

「天出!

 真剣にやれよ!」

 先輩からのツッコミが飛ぶ。

 まさかのサービスボールの空振りがあったのだ。

 それも、一回上に放ってからのオーバーハンドサーブなら理解出来る。

 優子はアンダーハンドサーブで、あのデカくて軽いビーチボールを空振りしたのだ。

「今の無しね。

 もう一回、試合開始!」

 しかし、結果は同じ。

「どうやったら空振り出来るの?」

「これは流石に、サリ・エリチームのポイントだよね」

「サーバー交代!

 富良野がサーブして」


 余りににも余りな惨状に、先輩たちが急いで調整する。

 だが、それも報われない。

 向かって来たボールにはヘディング。

 トスを上げようとして、セルフフェイントで自陣にボールを落とす。

 相手コートにボールを返すトスに追いつけず、滑って転ぶ。




 天出優子の前世、モーツァルトは団体球技なんてやった事が無いのだ。

 今や世界に広まったサッカーは、原型となる競技はともかく、近代サッカーのルールは1863年にロンドンで統一された。

 バレーボールは1895年に、バスケットボールは1891年に、野球ベースボールは1845年にいずれもアメリカで生まれた。

 テニスもまだ無く、前身であるジュ・ド・ポームならモーツァルトも知っている。

 彼が生きていた1789年に、ジュ・ド・ポームのコートに議場から閉め出された者たちが集まった「テニスコートの誓い」から、フランス革命が起きたという知識は持っている。

 球技自体がほとんど無かった上に、モーツァルト本人の嗜好も団体競技には向いていなかった。

 音楽家である彼も、スポーツを全くしなかったわけではない。

 彼が嗜んだのは、乗馬、ビリヤード、そしてダンスであった。

 サッカーとラグビーの前身であるカルチョ・ストリコや、ジュ・ド・ポーム、クリケットにポロという球技は存在していても、モーツァルトはしていない。


 転生して天出優子として入学した小学校での体育の授業、そこでの彼女はポンコツだった。

 跳び箱はジャンプ台までの歩幅が合わずに立ち往生。

 幅跳びは踏み切り位置に合わず、フライング連発。

 サッカーは空振り祭り。

 バスケットボールを持たせたら、ドリブル時に足に当てて転倒。

 ソフトボール投げは、1メートル先に投げつけて思いっきりバウンドさせてしまう。

 真っ直ぐ走るだけの50メートル走は良いが、100メートル走になるとカーブを上手く曲がれない。

 水泳は6年かけて、顔を水につけてもパニックにならず、どうにか25メートルを謎の泳法で、何度も足を着けながら泳げるようになれた。


 だが、小学校の時は、同じくらい鈍臭いのが他にも居たから、悪目立ちしていなかった。

 小学生はテクニックよりも本能で動くので、それを上手く最適化した動きに導くのが体育の授業であろう。

 小学1年生で鈍臭いスポーツ音痴が、4年生くらいで良い指導者に巡り合い、メカニカルを理解すると共に上達して、やがてはその競技の選手に成長する事だってある。

 優子は小学6年生の運動会は、実行委員会の方に逃げて参加していない。

 中学校に入った後は、運動会の球技代表にはならず、徒競走やリレーでの出場だったので、パパラッチたちにも、そのポンコツさが知られないまま、ここまで来たのである。

 リレーでは案の定、バトンタッチに失敗していたが、それは運動音痴でなくてもあり得る事、優子のポンコツさを気づかせるものではなかった。


 だがついに、目も当てられないレベルのポンコツさが、衆人環視の下、露呈されたのである。




「急遽開催!

 どっちがポンコツ?

 帯広修子VS天出優子、ビーチバレーリレー対決!」


 現リーダー辺出ルナと、前リーダー馬場陽羽ひのはが相談し、このようなゲームが実現した。

 通常のビーチバレー対決は、ハンデどころか「相手チームから送り込まれた破壊工作員」にしかならない優子に代えて、研究生がプレーして事なきを得た。

 だが、抜群のリズム感から見事なダンスをする天出優子が、音楽に関わらないとポンコツ極まりないという面白さ、これを使わない手は無い!

 こうして、ファンなら誰もが知る運動音痴、ライブパフォーマンス以外では根暗で引っ込み思案な帯広修子との、最下位決定戦という名の公開処刑が行われる運びとなる。


「はじめ!」

 ルールは簡単。

 ただビーチボールを相手にトスして、ラリーを続けるだけ。

 蹴鞠のようなもので、ただパスを繋げる事だけに意味がある。

 それで、どちらが運動音痴かを見ようとしたのだが……


「お前ら……せめて3往復はしようよ」

「分かった!

 キャッチして、投げ返して良いから」

「ワンバウンドまではセーフね」

 と、どんどんハードルが下げられる程の惨状。

 どちらがポンコツか、どころではない。

 どちらが生物としてまともなのか?と思うレベルの酷さで、どっちも酷過ぎて話にならないのだ。


「時間切れ!

 終了!

 結果、パスは最高で5往復でした!

 客席のファンの皆さん、拍手!」


 可哀想なものを見た、という生暖かい拍手が二人に送られる。


「乗馬とかビリヤードなら負けないんですが」

 という優子の負け惜しみを、最早誰も信じてくれない。

「あー、はいはい。

 そういう対決があればいいね」

「あんたら、これでよくダンスは出来ると思うよ。

 まあ、それが出来れば十分だけどね。

 ビリヤードとか、見栄張らなくて良いから。

 うちら、分かってあげられるから」


 こうして「スケル女バトル」終了後の握手会&2ショット撮影会に移行したのだが、ここで不思議な事が起こった。

 会場で追加販売される、いわゆる当日券、推し増し券というものだが、それで優子のレーンに並ぶファンが急増したのである。

 余りのポンコツさ、ツッコミどころの多さに、やっとファンが親しみを抱いたというか。


「優子ちゃん、もっと運動しようよ」

「ダンス出来るだけで凄いよ、僕は君を認めるから!」

「気にしないでね!

 落ち込まないで。

 しゅーちゃんだって、頑張ってるんだし」


 握手時や撮影時に投げかけられる、激励や慰め、注意指導の言葉に

「あはははははは……」

 と力無く笑いながらも、途切れない行列を眺めて複雑な気分になる天出優子モーツァルトであった。

おまけ:

ポンコツアイドルは実在します。

・寝転がったら芝生に刺されて痛がる

・ボーリングでボールを後ろに転がす

・おもちゃのゴルフで、一回もまともに当てられず、ほぼ空振り

・何も無い所でいきなり転ぶ

・ライブで階段使ってファンサービスしてたら、落ちる

といった伝説的ポンコツが。

その子、ダンスは凄いんですけどね。


(他にも、綿と思ってカビを育てていたとか、帰りの着替えを忘れてノーパンで帰ったとか、コンサートでスモークバズーカを使い過ぎて視界が真っ白になり足元の線が見えなくなって引っ掛かったとか、ポンコツ伝説には事欠かない)

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まさかのポンコツカワイイ属性開花w
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