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超・急・展・開!

 思いもかけぬ事が発生した。

 それは天出優子の身にではない。

 同級生で自称「ライバル」の武藤愛照(メーテル)の身にであった。


 彼女もアイドルグループに所属している。

 弱小ではあるが、フェスに出るくらいは活動していた。

 そのグループの消滅が決まったのだ。


「消滅?」

 アイドルグループなら「解散」とか「活動休止」という言葉になるのに、聞き慣れない言葉に優子は首を傾げた。

 聞けば、運営しているダンススクールが破産し、グループを維持出来なくなったという。

 解散コンサートとかもせずに、いきなりグループメンバーは活動する場を失ったのだ。


「芸能人じゃなくなるのか。

 お前、この組から追放だな。

 一般人(パンピー)のB組に行くのか?

 でもお前頭悪いし、勉強に着いていけないから、転校ってとこか……ぐぉ」

 最後のは、目障りに思った優子が、背後からがに股の股間を蹴り上げ、つま先が良い感じに当たって、アレが体内にめりこんだ悶絶の声である。

 鬱陶しい、セレブ組頭目の伝統芸能後継ぎは放置し、優子が愛照に今後の事を尋ねる。


「ふん、私はこれしきの事で諦めないわ。

 私にはまだ道がある!」


 そう言って、愛照はとんでもない事を話し始めた。


 倒産したダンススクールだが、元々はとある人物の副業で始められたという。

 それは、スケル(ツォ)のライバルグループ「フロイライン!」の先代プロデューサー。

 その人が、音楽以外で始めたビジネスの一環だったが、根っからの音楽人であった為に経営センスは無かった。

 そこで経営権のほとんどを売り、僅かに残った「顧問」という肩書きで、僅かな小遣いを得ていた。

 それゆえ、ダンススクールが破産した際、現経営者が前任の経営者に

「うちのメンバーを、何人かでいいから救済してくれないか?」

 と頼み込んだのだ。

 それに応え、伝手を使って何人かはフロイライン!の研究生となれる事になったのだ。


「まずは希望者の中から、有望な子だけが研究生として編入出来る。

 研究生になったなら、フロイライン!への道が開ける。

 私はフロイライン!の一員となるのよ!」

 相変わらず妙に自信満々だが、優子からしたら

(小学校の国語の授業で習った「蜘蛛の糸」だったっけ?

 あの天国から垂らされた蜘蛛の糸より、まだ細く頼りない救いにしか見えないんだけど)

 と感じられた。


「とにかく、いい?

 私はこの芸能クラスから外に出る気はない。

 逆に、貴女がいる『才能』チームに入れるくらいに登り詰めてやるわ!

 まあ、何派とかはどうでも良いんだけど、私は私の夢を捨てない。

 ファンの前にアイドルとして立ち続ける。

 そして天出優子!

 あんたには負けない!」

(茨の道だが、頑張るのだよ)

 熱い愛照に対し、憐れむ優子という対比。


 だが、愛照は茨の道を傷だらけになって突き進む王子様のような、華奢な存在ではなかった。

「我が艦隊の辞書には、後退とか迂回とかまどろっこしい言葉は載っておらん」

 と宣うどこぞの黒い艦隊司令官のような、一点(ビッテン)突破を行う強さを持った人物なのだ。




「え?

 研究生に合格した?」

 物凄く狭き門として知られるフロイライン!研究生への入り口。

 愛照はそこに入り込めたのだ。

「ふふん。

 合格したのは私1人。

 どうだ、凄いだろ!

 (こうべ)を垂れてつくばえ、平伏せよ!」

「いや、確かに凄いけど、そこまでは出来ない。

 ていうか、どうしてだろう?」

 優子は、愛照を合格させたのが自分だと自覚していない。

 気まぐれで愛照を指導し、声楽やクラシックバレエを叩き込むよう、同級生に頼んだ事を1年も経つと忘れてしまった。

 愛照は基礎を身につけると、その後は自分で師を探してスキルアップを続けていたのだ。


 これはフロイライン!の強ヲタクである灰戸洋子と暮子莉緒から聞いた話になる。

 フロイライン!の運営では、幾ら前プロデューサーの頼みとは言え、他所の流儀に染まったアイドルを受け容れるつもりはなかったという。

 ただ断るのも前プロデューサーのメンツを損ねるから、オーディション形式を取り「該当者無し」とするつもりだったのだ。

 だが、ここに鍛えられたアイドルが一人居た。

 地道にスキルアップを続け、実力的にフロイライン!やスケル女の一軍メンバーには劣るも、後列に加える程度なら十分に成長した女性。

「中々良いんじゃない?」

 と、フロイライン!現プロデューサーが食いついた為、とりあえず一次審査を通す事になった。

 だが、その次にも難関が待ち構える。


 フロイライン!はとにかくメンバー間がギスギスしている。

 全員ラスボス級の実力者だからか、我がとにかく強い。

 過去に、同じ事務所内のソロで活動していた子をメンバーに途中参入させた事があった。

 すると衝突しまくり、最終的にその子は

「こっちから辞めるって言ったら負けたようなものだ!

 辞めさせる事をするから、辞めさせてみろや!」

 と男を作って、堂々と写真週刊誌に撮られた。

 結果、脱退させられたのだ。

 そういう過去があるのに、今度は全く違う環境からの途中加入者となる。

 無事に勤め上げられるか、確認せなばなるまい。


 フロイライン!のマネージャーで、あの我が強い子たちに有無を言わせない正論マシーン、ついた仇名が「軍務尚書」と言われる女性がいる。

 そのマネージャーが、愛照を圧迫面接した。

 しかしそこは「武藤プロ」と呼ばれる女性。

 営業スマイルを崩さずに、乗り切ってしまう。

 中学校でのセレブ組からの厭味や、小学校からずっと続く優子の無神経発言等で、激しい怒りを覚えてもそれを一切爆発させないスキルが鍛え上げられたのだ。

 こうして、普通の女の子なら泣き出すか、怒って席を立つような面接もクリアしてしまった。


 あとは「全員がラスボス」と呼ばれるフロイライン!の中でやっていけるか。

 全員、高レベルでまとまっている上に、全員の性格がきつい。

 そんなフロイライン!へ昇格を狙う研究生たちも、既に蟲毒の中を生き残っている毒虫のように強力になっている。

 一度その中に放り込み、メンタルをやられないかを確認してみた。

 当然、既存の研究生たちは

「レベルが低い外様の分際で、中学生になってからの途中参加だと?

 自分たちは小学校から入って、スキルを磨いて来たんだ。

 そんなぽっと出は追い出そう」

 と結束する。

 だが、これこそ武藤からしたら屁でも無い事だった。

 過去に何度も、圧倒的な才能の天出優子を見て、心を折られて来た。

 それを気づかれないよう強気で振る舞い、負けじと努力した。

 今では、あの無神経さには腹が立つが、才能を前に打ちのめされる事は無くなった。

 だから、如何に高いレベルにあるとはいえ、天出優子に比べれば大した事が無い連中の嫌がらせなんて、可愛い子供のお遊びのようなものだ。

 相手は「小学生なのにこれだけ上手いんだ」と見せつけて来るが、愛照は小学生の時から天出優子を知っている。

 アレに比べれば、全く大した事はない。

 逆に優子にやられたように、圧倒的スキルを見せて、返り討ちにして差し上げよう。


 こうして魔境でも平然としている上に、自分のキャラも守り通す愛照は、正規メンバーの目にも留まったようである。

 ある日、フロイライン!リーダー・比留田茉凛、サブリーダー・浜野環がやって来て愛照にこう告げた。


「中々派手にやっているみたいですね。

 面白い。

 早く上がっていらっしゃい。

 そんな張り合い甲斐がある相手が、外に居たなんて嬉しい限り。

 停滞していた私たちに、良い刺激になりそうです」

「言っておくけど、私たちはお互い嫌いで衝突してるんじゃないからね。

 意見を言い合ってるだけだし、相手のダメな部分を指摘しているだけ。

 俗物どものように馴れ合っていると、誰も成長しない。

 お前もその能力を示し、私たちを戦慄させてみせよ!」


 事実上、上位2人による昇格内定発言であった。




 という裏話をスケル女内にいるフロイライン!強ヲタク(戦闘員)から聞いた優子は

(あの子、多分垂らされた蜘蛛の糸に掴まらず、それを目印にして自力で飛翔していった……。

 大正時代の暗めな文学の世界に、少年ジャ●プヒーローをぶち込んだようなものだな。

 大したものだ)

 と他人事のように思ったのである。


 かくして、武藤愛照は自称「天出優子のライバル」から、肩書き的には十分他人も認める「天出優子のライバル」に格上げされたのであった。

おまけ:

この展開、元ネタとしては

・ナイス◯ールトレイ◯ー→ハ◯プロ研修生→◯ぶしファクトリー→現在Ju◯ce=jui◯eのサブリーダーになった子

・C◯c◯r◯学園→カン◯リーガールズ→モー◯ング娘。となった子

の足し合わせになります。

仲間が辞めていったり、移籍出来なかったりという中で活動続けるのだから、芯はかなり強いと思ったのでキャラに反映させてます。


小説的には超展開でも、現実世界では過去にあった事ですな。

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― 新着の感想 ―
めーちゃん、仮面の素材がイゼルローン要塞と同じなん? ドライアイスの剣か……
ビッテン突破は草生えますわ!
美内す◯え先生の伝説とも言える、某少女マンガ主人公のような『武藤愛照』ですね~
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