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中学校入学

 天出優子と、彼女の自称「ライバル」武藤愛照(メーテル)は都内の某私立中学校に進学した。

 芸能活動、バイトが禁止されている公立中学校と違い、この中学生には「スポーツ特選クラス」と「芸能クラス」が用意されている、……と言われている。

 中学校までは義務教育だから、公式にはそんな学級はなく、一律に中学校で学ぶ教育を施す。

 だが、教育内容はともかく、スポーツ選手、芸能人で固まっているクラスは存在していた。

 その方が管理しやすいのだ。


 優子と愛照は同じ芸能クラスのD組になった。

 この学校では進学クラスのA組、一般生徒のB組、スポーツ特選のC組と芸能クラスのD組があり、教える内容は同じでも、求めるレベルと教える速度には差がつけられた。

 例えば中学3年で習う内容を、A組は2年生の二学期までに終え、3年生になると受験特化を始める。

 C組とD組はそういった授業を受けるが、テストで0点でも許されていた。


 芸能クラスでも格差が存在する。

 無制限に受け入れていれば、世の中「アクタースクールに通うモブ子役」や「地域メディアで子供モデル」「映画でエキストラ出演」でも芸能人になり、有名人の同級生となってしまう。

 そういった生徒から、クラスメイトの重要情報が漏洩するリスクがある為、選抜はキッチリとされていた。

 芸能クラスの上位カーストは、歌舞伎、能楽、狂言といった世襲役者の子供である。

 カーストでそれに次ぐ、あるいは実績次第で上に置かれるのが、音楽コンクールで上位とか、有名劇団の子役とか、バレリーナとかである。

 幼くして世界でも高い評価を受けている子は、伝統芸能を継がねばならない子以上の待遇を受ける。

 ここまでは推薦で入学出来る生徒。

 カースト3番目が、全国デビューした、あるいはメジャーなレコード会社からCD販売している、または有名出版社から漫画や小説を出している生徒たちだ。

 この序列なのは、いわゆる「一発屋」がなれる為である。

 たまたま子役で出たドラマが当たったものの、それ以降さっぱりな場合もある。

 芸能活動が低調な場合、一般クラスへのクラス替えも打診される。

 そしてカースト最下位は、地下ライブアイドルや弱小の劇団員、事務所に所属はしているが代表作が無い子役などだ。

 これまた芸能活動が低調ならば、一般クラスへクラス替えをさせられたり、転校を勧められる。

 序列三位はまだ打診で、事務所と相談の上、芸能クラス残留もあり得るが、序列最下位はその選択肢が無い。

 そして、アイドル予備軍とか、劇団のレッスン生は一般生徒扱いで、B組に入る。

 定員がある為、編入試験で落とされる事もある。

 優子と愛照が必死に勉強していたのは、あの時期の彼女たちは一般生徒扱いになるからだった。

 校則で禁止されていないから、一般生徒でも芸能活動やプロスポーツ事業団のユース選手となれる。

 優子と愛照は、まずそこを目指したのだ。


 だが、あのトンチンカンな二人が、いかに才女・品地レオナを家庭教師にしたとはいえ、無事に両方合格出来るものだろうか?

 天出優子モーツァルトは前世でも、転生後でも、面接では危なかったりする。


 二人が合格したのは、受験までに格が上がったからである。

 天出優子は、夏フェス限定グループとはいえ、「カプリッチョ」名義でデビューし、CD売上でチャート1位を獲得している。

 まだスケルツォ研究生とはいえ、「一発屋」並の実績は残した為、カースト3位になっていた。

 武藤愛照は、夏フェスでの思わぬ恩恵から、夏休み明けに正規メンバーに昇格したのである。

 地下アイドルとはいえ、正規メンバーなのは大きい。

 カースト最下位とはいえ、芸能人という枠組みに入れたのだ。

 これで優子は「九九が出来たら合格」、愛照は「小学校修了程度の学力があれば合格」と、ハードルが極めて低くなったのだ。

 こうして二人は、晴れて中学校芸能クラスで共に教育を受ける事になった。




「お前、知ってるぞ。

 スケル女のメンバーだよな」

 そう言って声を掛けて来たのは、某歌舞伎俳優の息子である。

 親の中村とか市川とか松本とかの「屋号」と違う苗字な為、すぐにはピンと来ない。

 かなりヤンチャ、素行が悪いと有名だ。

 だから

「お前さあ、俺と付き合わねえか?

 ロリ顔で色気が無いけど、スケ女ってだけで価値あるだろ」

 なんて言って来て、中身はオッさんの優子をムッとさせる。

 前世で他の音楽家を罵った、豊富な悪口が飛び出す前に、歌舞伎役者のボンボンは制止された。

「お前とこの子じゃ格が違う。

 やめておけ」

「知ってるよ。

 だから、格下のアイドルを、俺が彼女にしてやるんだよ」

「いいや、お前の方が格下。

 というか、三下。

 親の肩書きはお前が上でも、才能ではこの子が遥かに上だ」

「何だと?

 お前、何様だよ。

 どこの子役だ?

 それこそ、お前と俺じゃ格が違うだろ」

「へえー……、イル・ド・フランス国際ピアノコンクール出場の僕を格下扱いするんだ。

 他にも幾つも国際コンクールに出てるんだけど、僕も知名度無いのかな?

 それとも、この島国じゃこの程度なのかな?」

「何だと!」

 気色ばむボンボンだが、分が悪いと感じたのだろう。

「ケッ、なんかやる気が失せた」

 と捨て台詞を残して去っていった。


「えーと、貴方誰?」

 優子は助け舟を出した男子生徒に不躾な質問をする。

「覚えてないの?

 小学校3年生の時、音楽教室で一緒だった!」

「ごめん、半年も通わなかったから、全く覚えていない」

「天出さん!

 貴女のそういう所、直した方が良いよ!

 私だって覚えていなかったの、まだ根に持ってるからね!

 堀井君だよ。

 堀井真樹夫君!」

「覚えていてくれてありがとう、武藤さん。

 演奏はそれ程でもないけど、名前が独特だから、僕も覚えていたよ」

「一言多い!

 天出さん、本当に覚えていないの?」

「国際コンクールはチェックしてたから、日本人の小学校ながら予選通ったのがいたとは知ってた。

 名前も堀……なんとか。

 でも、小学生の時に会ってた?」

「うわあ……俺と演奏勝負して、叩きのめしたのに、それも覚えてないの?」

「日常茶飯事で挑戦して来た人は返り討ちにしてたからね。

 私もあの頃は若かったなあ」

「あんた!

 12歳の癖に何言ってんの!」

「いや、でも本当に覚えてないの?

 僕、叩きのめされて、それでもっと上手くなろうとしたんだよ。

 幾ら音楽勝負を挑まれまくったからって、僕も覚えてないの?」

「貴方は今までに食べたパンの枚数を覚えているの?」

「うわ……そういう扱いかよ」

「あんたねえ、アイドルになって、少しは人間が出来て来たかと思ったけど、まだそんななのか」

「いや、ごめんね。

 本当に覚えていないんだ」

「……分かった。

 じゃあ、改めて勝負しよう。

 僕は親の仕事の関係でヨーロッパに留学していた。

 もうあの頃の僕じゃない!

 さあ、あの時僕を戦慄させた君の音楽がサビついてないか、見せてみたまえ!」

「えー、面倒臭いなあ。

 でも、挑んで来た者は返り討ちにするのが礼儀。

 叩きのめして差し上げますわ」


 かくして入学式を終えると、早速近場のショッピングモールに寄り道。

 そこに置いてあるピアノで勝負をした。


 結果は……


「中々上手くなったね!

 楽譜通りに弾く、自分なりの感情表現をする、流石は国際コンクールの常連!

 堀井君ね、覚えておくよ!

 いやあ、中々将来有望な演奏家に出会えたなあ!

 良かった、良かった!」

「…………。

 国際コンクール出るレベルが、名前を覚えておく程度の扱いなのかよ……。

 って言うか、なんであの完成された曲を、あそこからアレンジした上で、新しい曲に即興で仕上げるんだよ?

 化け物か?」

「あ!

 そうだ、聞いておきたい事を思い出した!」

「何?」

「ウィーンには行った?

 デーメル(1786年創業)って、今もやってるでしょ。

 味どうだった?

 昔は王宮御用達だったから、何回かしか食べた事無いんだよね」

「……取り寄せるから、一緒に食べようか……」


 何故自分を遥かに上回る天才が、アイドルなんかやっているのか疑問に思いつつも、四年ぶり2回目の打ちのめされを味わう少年ピアニストであった。

おまけ:

某私立中学校理事長「ランク付け?

 それの何が悪いのですか?

 努力して勉強の上位、スポーツの上位、芸能のトップになる生徒は、年齢問わずそのように遇されて当然なのです。

 そうする事で、下の生徒は上を目指し、努力するのです。

 え? その教育による落ちこぼれはどうする?

 山の方にある旧校舎と、エンドのE組?

 何の事でしょう? 知りませんねえ。

 知らない方が良い事があるって、大人なら分かりますよね(ニッコリ)」

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― 新着の感想 ―
E組ってw タコが担任かw?
頑張れ堀井くん! それにめげず目指したどり着けば歴史的偉人だぞ!
Eクラスって、板張りの床に蜜柑箱にで、陰鬱な環境?
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