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小学校卒業

 時は流れる。

 天出優子は、お試しとしては相当に貴重な経験、夏の各種フェスに参加する事で視野を広める事が出来た。

 実際に大きな会場を経験し、熱狂に身を任せて失敗してこそ、見えて来たものもある。

 そしてその経験を血肉とし、スケル(ツォ)正規メンバー昇格を目指して自らを育てる。

 最初から、14歳にならないと昇格は無いと言われていた。

 だから焦らず、少女の身体の成長に合わせて、不足しているものを身に付けるよう努力する。


 基本的に、音楽に関する限りは努力を惜しまないのだ、前世も転生後も。


 ゆえに、夏休み明けの小学校生活は、上手くアイドル予備軍と小学生の時間とを両立出来た。

 楽しい子供の時間を消耗せずに、充実した日々を過ごす。


 中々に面倒な事もあった。

 優子がスケル女研究生である事は世間にも知られているし、小学校も特定されている。

 痛いアイドルたちは大人が排除していたが、同じ小学生ではそうもいかない。

 他校から一目見ようと、サインを貰おうと、あわよくば付き合おうなんて思うのが度々やって来る。

 同じ小学校で、校長始め教師陣から注意されているのとは違い、他校の生徒は常識がない。

 子供だから

「ケチケチしないでサインくらいくれよ!」

 なんでゴネたりもする。

 小学生でもスマホを持っている時代だから、無断で写真を撮ろうともする。

 そういう時、常に近くにいて優子を守っていたのが、自称「親衛隊」たちだった。

 彼等彼女たちは、スケル女メンバーが遊びに来てしまう時はポンコツになるが、基本的には優子をしっかりと守る事に生きがいを感じている。

 時には喧嘩になりながらも、優子のアイドル人生と学生生活を邪魔者から守り続けた。


 そんな日々も終わり、別れの時を迎える。




 小学校の卒業式の日。

 ほとんどの生徒は、進学する近くの中学校の制服で式に臨んだ。

 中には頭が良く、有名私立中学校に進む生徒もいて、それは違う制服だから目立っていた。

 天出優子もその一人だ。

 彼女は芸能活動を続ける為、校則でそれが禁止されている公立中学校には進めない。

 遠くの私立中学校を受験した。

 その学校に進むのは、同じ境遇の武藤愛照(メーテル)しかいない。

 他とは違うデザインの制服に、子供たちは興味津々で群がるも、次第にしんみりして来た。

「優子ちゃん、今からでも同じ学校にしない?」

「寂しいよ、別れたくないよ」

「あっちの中学に行っても、ずっと友達だよ」

「LINE書くから、無視しないでよ」

 女の子たちがやって来て泣き出したりする。

 中には抱き着いて、涙で優子の服を濡らす子もいた。

 普段は下心全開の天出優子モーツァルトも、今日は同じように泣いたりしていた。


 優子の前世・ウォルフガング・モーツァルトはどこか子供……悪ガキがそのまま大人になった部分がある。

 大人な恋愛もするし、賭博が好きなダメ人間でもあるが、どこか子供っぽい。

 そしてそれは、感受性の鋭さにも現れている。

 芸術家は、感受性が鈍いと単なるスキル屋になってしまう。

 モーツァルトは別れとか、そういう心の機微に敏感だ。

 それゆえ、幾ら享年35歳の前世分の経験値があっても、6年間を同じ学舎で過ごした子供たちとの別れに、年甲斐もなく……いや年齢相応か……泣き出していた。

 前世とは違う常識。

 転生後の世界では、違う中学に進学したからと言って、生涯会えなくなる事なんてない。

 前世のように、それが生涯の別れとなるような事は少ない。

 会おうと思えば、会う事は出来る。


 だが、そう割り切れないのが子供たちの心なのだ。

 分かっていても、悲しいものは悲しいのだ。

 それをカッコつけずに表に出している。


 女子たちとの交流がひと段落すると、次は男子たちが優子を呼びに来た。

 別に優子一人だけではない。

 カッコつけで、女には興味ない風な感じを気取っている子も、卒業式に当たって心境の変化があったのだろう。

 これをきっかけに、実は好きだった女の子を、人が居ない場所に呼び出して告白したりする。


「天出……あのさ、俺……お前に色々言って、悪かったよ」

「いや、気にしなくて良いよ」

「でさ……実は俺、お前の事が……」

「ごめんなさい、無理でーす!」

「まだ何も言ってないだろ!」

「そうだね。

 結果は変わらないけど、聞いてみるよ。

 さあ!」

「……なんか、言う気失せた……」

「それならそれで良いよ。

 でも、言って踏ん切りつけるのも良い事さ。

 言わずに終わって、あの時言っておけば……と、大人になってからも引きずるより、派手に散る方が次に繋がりやすいからね!」

「……断られる事は決まってるんだな。

 もういい!

 お前なんか大嫌いだ!

 スケ女のCDとか絶対買わねえからな!」

「そうしとけ、そうしとけ。

 あれは音楽付き握手券だからな。

 普通に、すぐ近くにいる女の子と恋をして、青春したら良いよ。

 こっちの世界に来るより、リアルで充実しよう!

 そして爆発しろ」

「なんだよ、それは!」

「相手が悪いよ、私なんかはさ。

 私みたいなろくでなしのダメ人間でなく、ちゃんとした子が良いからね」


 中の人が男だから、転生して女子になった後も、男と仲良くなっても、付き合う事は出来ないという感情は確かにある。

 だがそれ以上に、優子は自分がこの世における異常存在アノマリーであり、恋愛とかはしてはならないと考えていた。

 音楽を続けたいという強欲に忠実で、その前には例え神の使いだろうが跳ね除けるのが天出優子モーツァルトである。

 しかし、音楽から離れた時、モーツァルト少年の感受性が自分という存在について疑問を投げ掛ける。

 結局自分とは何なのだろう?

 神に許されざる存在だとしても、自分は自分を貫き、自分で在り続けるだけ。

 だが、やはり自分はこの世界の人たちとは違う存在かもしれない。

 だから……何が言いたかったんだったかな?

 まあ、複雑な事は前世で会った哲学者にでも語ってもらおうか、天国か地獄かどっちかで再会した時に。

 とりあえず、性癖的にも男とはやはり付き合えない。

 だったら、明るく振ってやった方が、綺麗な傷口になるから、心の傷も治りが早かろう。

 酷い女と言われるのも、甘んじて受けようか。

 それがこの同級生の為さ。


 こういう思考に、少年の感受性の強さと、大人の小狡さが共存していた。

 それを表には見せず、飄々としている。

 素直に泣く時は泣くが、隠す時は隠し通す。

 この辺りは流石に人生2周目と言えた。


 こうして個別に友達との別れの儀式を終え、卒業式というセレモニーも終える。

「先生たちにも、色々とご迷惑をお掛けしました」

「全然迷惑とは思っていないよ。

 それよりも、才能があり過ぎて、気付かないようだったけど傲岸不遜な所があった天出が、人の事を気遣えるようになった事が、先生は嬉しいよ。

 悪ふざけをする時以外でも、人をちゃんと見るようになった。

 皆はね、君より才能がまだ無いんだ。

 皆の才能が伸びるのはこれからなんだ。

 昔の天出には、子供の同級生たちはつまらないように思えていたんじゃないか?

 今は皆に優しくなり、才能で圧をかけなくなった。

 天出もまた成長したんだよ。

 その調子で、これからも皆と仲良くしていって欲しい。

 先生からは、今の言葉を贈りたい」


 これは優子が自覚していなかった事だ。

 昔は何気なく、音楽の下手くそをやっつけたりしていたが、そこに悪気は無かったのだ。

 ごく自然に「馬鹿に馬鹿と言うのは悪い事ではない」と行動していた。

 今思えば、子供だったからムカつかれても、大目に見られていたのだろう。

 スケル女スタッフが、優子加入時に異常に恐れていたのも、この無能を叩き潰す圧が凄かったせいかもしれない。


 先生たちへの挨拶を終え、校長室からも出ると、そこに武藤愛照が立っていた。

「君も先生に用事かな?」

「違うわよ、馬鹿。

 天出さん!

 同じ中学通うのはあんただけ。

 これからもよろしくね!」

「……これからも一緒なんだから、今ここで言わなくても良いのでは?」

「うるさいわね!

 気分よ、気分!

 言いたかったから言ったまで!

 それに付き合いなさいよね!」

(面倒臭っ!)


 とりあえず、同じくアイドルを目指して研究生なり候補生なりで活動する同僚との腐れ縁は、まだまだ未来まで切れずに続くのであった。

※ この章は、メイド・イ〇・ヘブ〇のスタンド能力のせいで、時間が加速しています。

……という冗談はさておき、次の展開に進めたいので冗長的な日々はバッサリ切ります。

夏フェスの章のペースでいけば、2~3ヶ月を30話使って書くので、昇格して正規メンバーになるまでに200話以上必要となるので、ダレるでしょう。

なので、時は加速する! でいきます。

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― 新着の感想 ―
同じように続けても順当に繰り返して正規メンバーになるまで基礎固めするだけですからね。 振り返るとフェスまではアイドル天出優子の基礎と個性が固まるまでって感じでしたね。
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