7女神との共演!
「はい、注目!」
レッスン前、カプリッ女メンバーがスタッフに呼ばれる。
呼ばれ、集まった前には7女神と呼ばれる人気メンバーが立っていた。
「前も言っていたけど、フェスの回替わりで、スケル女の主力も追加で加わるから、今日から全員でレッスンね」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いね」
スタッフの説明に続き、後輩のカプ女メンが挨拶し、7女神たちが返答した。
アイドルフェスは、これまでも既に何回か出演して来た。
地方の祭りに付随する音楽イベントや、NPO主催イベント、放送局のイベント等、様々な形式のものがあった。
しかし、本番はこれからである。
三大アイドルフェスと呼ばれる、大きな催しは夏休み期間に入ってからだ。
TOKYO BAYAREA FES(TBF)は、四日間開催される巨大なフェスで、参加アイドルグループも最多である。
スケル女が駆け出しの頃から行われていて、アイドルフェスと言えばこれ、とまで言われるものだ。
さいたまアイドル祭りは、さいたまスーパーアリーナで行われる一日限りの室内フェスで、参加グループこそ厳選されるから少ないが、それだけにレベルが高いイベントだ。
ガールズ・ライブ・ツアーズは、特定の開催地を持たない、東名阪と札幌・福岡を順に回るフェスで、アイドルファンの裾野拡大を目指す、有名どころと開催地ご当地アイドルが呼ばれる企画だ。
期間は二日間で、今年の開催地は大阪である。
この三大フェスの主催団体からの要望で、7女神という抜群の知名度を持つメンバーも参加するのだ。
そこで戸方Pが調整してTBFには馬場陽羽と辺出ルナ、アイドル祭りには暮子莉緒と照地美春、そしてライブツアーズには馬場(2回目)と八橋ケイコがスポット参加する。
なお、三大フェスではないが、国内最高級の私立大学の学祭にもカプ女は呼ばれていて、そこには品地レオナが加わる。
また、横浜で行われる、これも中々大きいフェスには帯広修子が参加する為、7女神は全員どこかには出演する。
ちなみに、最年長で7女神同様人気メンバーの灰戸洋子は
「私は暑くて、疲れるフェスは勘弁」
なんて言っているが、TBFでは司会、アイドル祭りにはソロで参加が決まっていた。
ソロ仕事なので、この場には来ていない。
「じゃあ、レッスンするよ」
まずは7女神だけで歌い踊る。
カプ女コアメンバーは、何度も歌っている為、ここはスポット参加組の練習をしっかり行う。
(やはり上手い)
見惚れているカプ女メンバーの中、天出優子は指揮者目線というか、指導者目線というか、そういう視点から7女神を分析していた。
技術的に、年季の浅いカプ女メンバーよりもレベルが高いのは既に知っている。
優子が感心したのは、移動の際の衝突回避能力だった。
7女神は、それぞれの参加フェスに合わせて、フォーメーションを変えて練習している。
同じメンバーでも、センターとなる場合、後列になる場合がある。
振り付け自体は自主練習で身につけられるが、フォーメーションは今この場でKIRIE先生から指示されていた。
自主練習出来ない上に、回数も少ない。
記録していたライブ映像や、イベントの様子はデータとして渡され、予習する事は可能だ。
だが実際にステージ上で動くのとは異なる。
慣れている彼女たちでも、ダンスしながらの移動時ではぶつかりそうになる。
そういう時、あるケースではアイコンタクトで、あるケースでは客からは見えないように軽く指で触って知らせ、あるケースではアドリブで避けた後にハイタッチで「そういう振り付け」のように見せた。
衝突未遂はやはり、一曲終わる毎に注意されるものの、流れを止める事なく練習出来た。
カプ女は最初の頃、ぶつかって転び
「はい、一旦止めます。
大丈夫ですか?
じゃあ、今のとこもう一回」
と、中々先に進まなかった。
そういうのと見比べ、「流石」と感じられる。
「じゃあ、休憩挟んでカプリッ女の中に入るレッスンね。
30分休憩」
この声で、アイドルというかアーティストというか、そういうモードがオフになり、素の「変わった人たち」が顔を出す。
「敵視!」
汗を拭きながら、見学中ずっと優子をバックハグし続けていた富良野莉久に突っかかっていく照地美春。
「私はカプリッ女では優子ちゃんとペアなんです!
いいじゃないですか!」
と富良野は反論するも
「敵視!」
とひたすら言いまくる美春。
(女性から奪い合いになるのは嬉しいはずなのに、なんだろう、この面倒くささの挟み討ちは……)
優子はため息を吐く。
「あそこの大学は、どっちかと言うと文系だよね。
MCの話題、これで良いと思う?
『シカゴ学派のイノベーションの提唱と、アイドルフェスという価値創造』」
「レオナちゃん、ごめん。
聞く人間違ってる。
言ってる単語のどれ一つ意味が分からない」
品地は大学生に対抗して学問ネタを挟むつもりだが、バイクとサウナ女子の辺出にはちんぷんかんぷんだ。
「SSAと言えば、特撮の撮影地!
戦隊も、巨大ヒーローも良いけど、私的には天国が喪失される映画かな!
加速で走りまくるのがカッコいいよね!
帯広修子は、加速と別時間軸戦闘、どっちが高速だと思う?」
「それ、何の話なんですか?」
暮子莉緒という昭和少年漫画に詳しい人が、特撮オタクである事も披露し、大人しい帯広に暴走トークを仕掛けて困らせていた。
ここに灰戸洋子が居たなら、話し相手はそちらだったが、残念ながらここには来ていない。
まあ、居たら
「そんなもん、『その時、奇跡が起こった!』とナレーションされるヒーロー最強でしょう」
と反論し、昭和対平成の最強論議が始まったかもしれない。
「せやから、東西南北を上下左右で言うのやめって。
迷子になる一因やん」
脱走&放浪癖がある大阪の従姉を嗜める研究生の盆野樹里に
「京都では、三条上ルとか、寺町下ルとか言うんよ」
とツッコミ入れて困らす八橋ケイコ。
(才能有る人は、どこか壊れているなあ)
と優子は自分の事を棚の上に置いて、周囲を眺めていた。
とりあえず、天才としてのレベルは置いておく。
歴史上、令和日本のアイドルなんか比較にならない才能の持ち主はいくらでも居た事は言うまでもない。
そういう事ではなく、優子の中の人にしたら、個性的な女性が自由に自分を出していて、それで能力を発揮出来る事が、なんだか楽しかった。
教会だ宮殿だっていうしがらみが無く、自由奔放に生きていられる。
転生後の世界がどこでもそうでない事は知っている。
だが、今この瞬間、ここのグループはかなり居心地が良かった。
そんな中、唯一と言って良い常識人のリーダー馬場は、休憩時間でも撮影されたばかりの練習の様子や、イベント等で録画されたカプ女のパフォーマンスをタブレットで見つめ、頭に詰め込んでいた。
彼女が言うには、自分には才能がそれ程無いから、努力で補っている。
(むしろ、そうやって努力出来るのが立派な事ですよ)
と、前世天才音楽家は、ちょっと上から目線で評価していた。
「よし、休憩終わり!
はい、気合い入れ直して!」
KIRIE先生の声で、皆が真面目モードをオンとする。
これから各フェス用のフォーメーションの確認と、それぞれで歌うスケル女グループの歌の練習に入る。
今日は長丁場になるだろう。
こういう時、張り詰めた状態では長続きしない。
オフモードの緩々な空気は、まだ経験の浅い研究生たちもリラックスさせ、長い1日を楽しく集中して過ごさせるだろう。
三大フェス+アルファに向けてのレッスンは、まだ始まったばかりである。
おまけ:
ライバルグループ「フロイライン!」も、フォーメーションの入れ替わりが激しいダンスを行う。
だが、移動で衝突する事は滅多にない。
曰く
「後ろにも目をつけるんだ!」
「私には数秒後の未来が見える」
「反応速度を超えろ!
なあに、ちょっと人間をやめれば良いだけだ」
「ぶつかるまでには、0.1秒の隙がある。
その間に回避すれば良いのだ」




