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カップリング曲を作曲するぞ!

 その依頼は急であった。

「カプリッチョのカップリング曲を作曲して欲しい」

 と戸方Pから天出優子にメールが入ったのだ。


 スケルツォグループの曲作りはチームで行っている。

 メインプロデューサーの戸方風雅は、作詞・作曲両方こなすが、彼の作った曲は平凡なものであり、編曲家たちの修正を経てリリースされる。

 多作かつ筆が速い戸方Pだが、全部の曲を作るわけではない。

 カップリング曲やアルバム曲は、他人に任せる事もある。

 でないと、3グループのプロデュースなんて出来ない。

 編曲家は、自分でも作詞・作曲出来る人も多い。

 彼等の、自分の曲を作りたいという欲求を満たす意味も兼ねて、メインの曲が出来たら、そのイメージから大きく外さないという条件のみつけて、後は自由に作ってもらう。

 こういうやり方で回して来たのだが、この夏は限定グループ「カプリッ女」が出来た事で話が変わる。

 作る曲が増えたのだ。

 戸方チームの作曲陣も頑張っていたのだが、一人病気で入院した事で手が回らなくなる。

 自身も含めて手が空いていない為、戸方Pは思い立った。

「うちには、小学生ながら天才が居たな。

 彼女にやって貰おう」


 天出優子は、既に別名を使って編曲家としての仕事もしている。

 前世が前世だけに、そういうのはお手のものだ。

 そこに

「歌詞は出来ているから、曲の方を作って欲しい。

 メインの曲と大きくイメージ変えないように。

 自分たちの曲だから、分かるでしょ?」

 と作曲依頼が来た。

 前世ではオペラを何曲も書いていたが、アイドルの歌を書くのは初めてだ。

「出来れば歌詞から書きたかったけど、まあいい。

 第二の人生で勉強した事を活かし、アイドルの曲を作るぞ!!」

 と燃えて、早速仕事に取り掛かった。


 余談だが、戸方Pは優子の作詞能力には欠点があると踏んでいる。

 出来ないとは思っていない。

 おそらくオペラやミュージカルの歌詞を書かせたら、戸方Pよりずっと上だと感じている。

 しかし、歌謡曲、ポップミュージックでは、彼女では足りないものがある。

 いずれその事に触れよう。



「よし、出来た」

 優子の作曲時間は3日であった。

 まずは歌詞を読み、イメージを膨らませる。

 唯一の制限である「メインの曲とイメージを変えない」も踏まえてイメージをする。

 その時間で2日を費やした。

 学校に行きながら、頭の中ではイメージ作業ばかりしていたので

「天出さん!

 忙しいかもしれませんが、授業に集中しましょう!」

 と担任から注意されるも上の空。

 そして3日目、イメージが固まる。

 それを一気にデータに落とし込んだ。

 前世ではなかったDTMというもの。

 しかし、天才にとっては媒体が紙から電子機器に変わっただけの事。

 全く遅滞なく打ち込みが終わる。


 モーツァルトは手直しをしない作曲家とされた。

 実際は何回か修正しているが、それでも他人から直して貰う事はない。

 戸方Pのように、編曲アレンジありきで終えない。

 提出した時には、もう完成形であり、余人が手を加える余地はほとんど無いのだ。


 モーツァルトは、作曲家であると共に、優れた舞台監督でもある。

 オペラを作るからには、どの歌手がどう歌うのか、どういう間を取るのか、どう移動するのかもイメージされている。

 これは流石に本職の舞台監督が手を入れる事があるが、それは舞台の大きさやセット、更に用意出来る演者に合わせる必要がある為、やむを得ないだろう。

 当然、今回のカップリング曲も、誰がどう歌うのか、観客席からどう見えるのかまでを計算してイメージが固まっていた。

 何度も一緒にレッスンし、実力も見た目も、衣装を着た時の体のラインまで把握出来ていた。

 そういうステージ上での移動まで、ラフスケッチもスタッフに提出する。


 そして、手直しを受けた。

 戸方Pに呼び出された優子は

(これはプロデューサーの領分だったか。

 ちょっとやり過ぎたかもしれない。

 でも、反省するような事じゃないし、どういう理由か聞いてみようか)

 と、堂々としていた。


「君さ、とんでもないものを忘れてるよ」

 戸方Pが笑いながら指摘する。

「これ、君の立ち位置はどこなの?」

「あ!」

 そう、自分が演者である事をすっかり忘れていたのだ。

 前世でオペラを書いた時、自分は指揮者席に居るから、自分が出演するなんて頭には無い。

 歌手としては負けないが、役者としては果たしてどうだろう。

 舞台役者は本業に任せれば良いのだ。

 自分が舞台で歌う必要はない。

 最初こそ自分含めたカプリッ女という意識があったが、イメージを膨らませていく過程で、すっかり自分を舞台の外に置いてしまったのだ。


 プロデューサーは笑う。

「君を含めたものを書き直してみて。

 振り付けは何となく書いてあるけど、これは本職のKIRIE先生に任せようか」

 どうやら、プロデュースまで踏み込んだ独断専行については、何も文句が無いようである。

 この辺、器がデカいというか。

 戸方Pにしたら、優子がこうやって才能を発揮する事も含めて、総合プロデュースするつもりなのである。

 オーディション当時、余りの才能に怯えて、理屈を捏ねて落選させようとしたスタッフなんかとは格が違う。


 その後、カップリング曲は優子自身の手直しの後、振付師コレオグラファーの手に渡り、曲の感じや、優子の書いた舞台での移動を踏まえた振り付けをされる。

「天出がこの曲作ったんだろ?

 凄いね、尊敬するわ」

 KIRIEは感心している。

 世の中、凄い才能が居るものだ。

 そうは言っているが、彼女は優子に嫉妬はしない。

 別のジャンルで確固たる自信を持っているのだから、門外の部分で嫉妬する必要はないのだ。


 その後、この曲はコンサート・イベント担当スタッフに渡された。

 この曲をどういう場面で歌うのか。

 その際はワンコーラスだけにするのか、ワンハーフにするのか、フルで歌いのか。

 東京だけでイベントをする場合、大阪の藤浪と広島の長門は居ないから、歌割り変更もある。

 また、本人からしたら「当然」と思っている事だが、極めて曲としての出来が良い。

 夏が終わった後、限定グループだけで終わらせるのはもったいない。

 その場合は、スケル女グループで全体でも歌えるようにしたい。

 作曲者の優子でも、大阪のアダー(ジョ)、広島のアルペッ(ジオ)の面倒までは見られない。

 現地のスタッフに任せる事になる。

 そうなるという事を優子本人に確認する。

 著作権とか使用料とかの話になり、権利関係の細かい話がされた。


 こうして様々な人の手を経て作られる音楽を見ながら

(この世界は、全ての分野で仕事が細分化している)

 と、享年35プラス12歳の少女は世の中の仕組みに気づく。


 前世では、モーツァルトは音楽に関する事なら大体全ての事を一人で行った。

 オペラを書く際も、依頼を受けて題材こそ指定されるが、その音楽、台詞、独唱曲(アリア)の作詞作曲、楽団の練習、指揮。

 流石に舞台や衣装の作成や、役者の選出、演出の調整までは専門家に任せるが、自分の作品だから口は出す。

 何でも出来るから、何でもやるし、その苦労は彼にとっては楽しみでしかなかった。

 何でも出来る上に、極めて多作かつ時間をかけない、それが当時の「天才」と呼ばれた所以である。

 転生後の現在も、基本的に音楽作りに関しては変わっていない。

 前世では紙とペンが、現世ではタブレットでもあれば、音楽は出来てしまうのだ。


 だが、転生後の世界で売り出される音楽はちょっと違う。

 確かに作曲に関して、自分より優れた者をまだ見た事はない。

 だが、他の分野では様々な才能の者がいて、組織として音楽を作っていた。

(前世では、音楽も職人(クラフトマン)の仕事だった。

 この世界では、工房(アトリエ)で作り出している。

 前世で言うなら、絵画で私のように一人で最初から最後まで描き上げる者もいれば、工房(アトリエ)全体の仕事として作る所もある。

 私もこの世界で、音楽で生活しようと思うならその辺を学ぶべきか?

 それとも……)


 一人で何でも出来て、他人に修正の余地を残さない完璧超人だった者は、そのやり方の是非について一人考えた。

 だが、楽しい事が今はまだ他にあるので、彼女は考える事をやめた。

おまけ:

完璧な音楽を作ったモーツァルトと、その転生体である天出優子。

そんな優子の曲を、遠慮なく改造する者もいる。

それは子供であった。


過去の話である。

小学校低学年の優子は、「う〇この歌」を作った。

別に驚く事ではない。

前世でモーツァルトは「俺の尻をなめろ」(Leck mich im Arsch)という曲を作っているのだ。

「糞くらえ!」といったニュアンスの罵倒表現なのだが、あの時代でもこの時代でも下ネタには違いない。

優子(幼少時)は、また魔が差したのか

「う〇こは頑固だ!

 う〇こは餡子じゃない!

 う〇こはワンコでもない!

 う〇こは三個だ!」

といった韻を踏んだカノン曲を作ってしまったのだ。

当然、クラスでは男子中心に大笑いが起きた。


天出優子(モーツァルト)は自分もそうな癖に、子供のいたずらや魔改造癖を分かっていなかった。

あえて使わなかった、男性及び女性の性器の俗称を、子供が混ぜてしまう。

それが学年も越えて流行った為に、学校では禁止されてしまい


作詞作曲の優子は家庭訪問されて厳重注意されたのであった。


本人はある程度空気読んで、卑猥な言葉は使わなかったのに。

(どうせ怒られるのなら、使っても同じ事だな)

と思ったとか、思わなかったとか……。

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― 新着の感想 ―
unco、森山直太朗の歌にあったな
後書き、あの世で あまりにもあまりにも。これも番号を追加するのか? と、頭抱えている人が居るような……?
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