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大阪やで!

 夏限定グループ「カプリッ(チョ)」のCD販売促進イベント。

 こういう販促は可能な限り全国で行いたい。

 だが予定があったり様々なので、47都道府県全部とはいかない。

 まずは市場が最も大きい首都圏で行う。

 その他に、スケル(ツォ)グループであるアダー(ジョ)とアルペッ(ジォ)の拠点・大阪と広島でも行う事になった。

 大阪を含む関西圏も市場としては大きい為、重要地域と言えた。


「大阪での案内はよろしくね」

 土曜日、新幹線の中で天出優子は同僚の盆野(ぼんの)樹里に頼む。

 大阪派遣組は、この日は正規メンバーの富良野莉久と盆野、天出である。

 広島派遣組は、正規メンバーの寿瀬(じゅせ)(みどり)と研究生の米谷絵美、安藤紗里、斗仁尾(とにお)恵里となる。

 同日にイベントを行い、一泊してから東京に戻る日程だ。

 盆野は大阪出身だから、土地勘がある。

 美味しいものを食べるのが旅行の醍醐味ゆえ、彼女には期待したい。

「……自由時間は無いと思った方がええで」

 盆野が暗く呟き、同行するマネージャーも頷いている。

 販促はそれ程多忙なのだろうか?


 多忙だった。


 午前中に大阪に到着すると、まずはアダー女がレッスンで使用している建物で準備及び打ち合わせ。

「貴女が天出優子やね。

 色々と噂は聞いてるよ」

 アダー女リーダーの垂水悠宇が握手を求めて来た。

「よろしくお願いします」

「音楽の才能は正規メンバーをも凌ぐ程。

 一方で変態だから、協調性を欠くとされた。

 あとは出来過ぎるがゆえの罠、突出してしまい周囲との調和を乱す為、そこの矯正中。

 ただ、もう克服してしまい、残るは年齢制限のみ……」

 垂水はデータでも読むかのように、優子の事を語る。

「なんか、怖いですね」

「うちはな、全国のアイドルをチェックしてんねん。

 それこそメジャーからマイナーまで。

 才能がある子には、うちから絡みに行ってんねん」


 そう言えば、優子は同じ小学校で別グループのアイドル候補生をしている武藤愛照(メーテル)から聞いていた。

「アダー女のリーダー、垂水さんが自分の事を認識していた」と。

 これはそういう事だったのか。

 サブリーダーの前田健那(きよな)が言うには、ほとんどストーカーのように、全国各地のアイドルの情報を集め、それが頭の中に入っているという、別の意味で「変態」だそうで。

「むしろスタッフとかマネージャーをしたかった」

 と言う程の重度のアイドルヲタクなのだが、長身美人でダンスが映える為、本人もアイドルをする事になったという。

 その垂水が

「フジの事、よお頼むわ。

 アレはどこに飛んでいくか分からん子やから」

 と言って来る。

 従妹の盆野も、コクコクと頷きまくっているし、改めて厄介なメンバーというのが伝わった。


 イベントは13時になんばを皮切りに、14時半から梅田、16時には神戸、そして19時半から京都と各地を回る。

 移動と準備で時間が潰される。

「だから、フジの暴走は食い止めんとな。

 アレが迷子になったら、予定が狂う……」

「とりあえず周囲を固めて、間違いなく連行するゾーンディフェンスでいきます」

「甘いな、健那(きよな)

 常に最悪の想像をしろ、奴は必ずその斜め上をいく……先代から伝えられたフジの扱い方や。

 奴は別名『誰にも止められない(アンストッパブル)』や。

 テンション上がっていると、ゾーンで固めていても、フェイクや速度の緩急で巻かれてしまい、そのままフラっといなくなる。

 せやから、一人離れた場所から見ていて、おかしな動きをしたら速攻でマンツーマンに移行。

 そのままフェイスディフェンスでマークを外さない!

 ボックスワンにしとき!」

(何の話をしてるんだ?)

(優子ちゃん、アダー女は体育会系な子が多いんで、例えはこんな感じやで)

 ノリについていけないのと同時に、そこまで対策しないとならない子を野放しにしている事に疑問を感じる優子。

 まあ、才能はあるけど奇人変人を集める癖が戸方Pにはあるようで、東京は変態、大阪は謎の体育会系、広島は変人という個性が出来たが、基本的にはどいつもこいつもおかしい。

 呆れている優子もその中に含まれるのは、言うまでもない事だ。


 なんばでのイベント前。

 差し入れのたこ焼きを軽く食べる。

「なあ、東京のたこ焼きとはちゃうやろ?」

「こっちが本物なんやで」

「東京のは、なんか別物なんよ」

 大阪粉ものに対する圧がやたら強い。


 イベントは、アダー女が歌い、次にカプリッ(チョ)が歌って販促という2曲のみ。

 短いはずだが、そうでも無かった。

 トークが長いのである。

「天出ちゃん、ちょい前に出て」

「はい?」

「皆さん、この子が東京では天才音楽家と言われてる天出優子ちゃん。

 はい、拍手~!

 さて天出ちゃん、好きな野球チームは?」

「はい?

 私、野球はあまり見な……」

「好きな野球チームは!?」

「あ、あ、は……阪神です」

「そこは読売言わな!

 東京もんにツッコミ入れられんやろ、かなわんわぁ~」

「あの、垂水さん」

「なんや?

 大阪出身、藤浪晋波(くには)の従妹で、今はスケル女の研究生をやってる盆野樹里ちゃん」

「……解説風紹介ありがとうございます……。

 優子ちゃんをあまりイジメないで下さい。

 その子、まだ小学6年生なんで……」

「あかん、これやから東京に染まった大阪の子は……。

 ええか?

 小学生だろうと、ボケとツッコミは呼吸をするようにするのが関西人や!

 ここは関西の洗礼を……」

「はい、リーダー!

 うちは京都の者やし、そんな文化はございません」

「私も神戸出身で、一緒にせんで欲しいです」

「なに裏切っとんねん!」

 と、マシンガントークで進行する。

(まるでパリの連中のようだ)

 優子は前世を思い出し、報酬しは渋いが、とにかく調子の良い事を喋りまくるパリと似ていると感じた。

 その感想は、梅田でのイベントで更に補強される。


「富良野莉久さん、前に出てや~」

 呼び出されて、緊張した面持ちになる富良野。

 無理もない。

 なんばでは、あの傍若無人で物怖じしない天出優子ですら調子を狂わされていたのだ。

 どんな無茶な話題を振られるか、分かったものじゃない。

「今日、最初に会った時可愛い服着てたやん。

 あれ、ナンボ?」

「ナンボ????」

「東京弁で言うたら、幾らやった?」

「ああ、あれは……言っていいのかな?

 5……」

「500円! やっす!」

「いや、違います」

「50円? それはないわぁ」

「5万円です!」

「皆さん、聞きました?

 もう私たちとは価値観違いますわ。

 私たちなんて、そこの中崎町で安い古着探して……」

「はい、リーダー!

 うちは着道楽の京都の者やし、そんな文化はございません」

「私もシャレオツな神戸出身で、一緒にしないで欲しいです」

「あんたらは関西でもええとこ住んでるから、東京寄りなんやろが!

 大阪の下町ナメたらあかんで!」


 こんな感じで笑いを取る。

(やはり大阪の人はケチなんだ……)

 支払いが渋かったパリを更に思い出し、仲良く出来るか不安になる優子。

 だがそれは杞憂に終わった。


 神戸、京都でのイベントも終わり、イジリまくられてグッタリしているスケル女メンバーに、アダー女メンバーが

「食事会あるから、一人三千円出してね」

 と言って来た。

(強制参加かよ)

 と思ったが、ホテルに荷物を置いたらすぐに強制連行されてしまった。

「ありきたりで悪いけど、鉄板焼きね。

 お好み焼きでもホルモンでも、好きなもの頼んでな」

 そして、休む間もなく色々と話しかけられる。

 質問責めではなく、延々と自分の事を話す子もいる。

(こういうノリ、なれないけど、嫌いじゃないかな……)


 大阪には「ザ・大衆」という文化やノリがそこにあった。

 優子が前世で行っていたウィーンの庶民の店よりも、更に賑やかなもの。

 圧倒されながらも楽しんでいたが、ふと思い出した事がある。


「垂水さん!

 藤浪さんが居ません!」

「気にせんでええ」

「は?」

「イベント終わったんだから、あとは放置が基本や。

 いつまでも見張ってたら、監視する他の子が疲れるやん」

 頷く他のメンバー。

「あの子ももう大人なんだし、仕事終わってまで面倒見んでもええ!」

「すみません、垂水さん。

 私はそうも行ってられないので、捜索に行きます!」

「頑張りや~。

 いやあ、従妹ちゃんがいるから任せられてええわ~。

 分かってる思うけど、フジは想像の斜め上をいく。

 梅田(キタ)を探しても、見つからんと思うよ」

「分かってます!

 晋波(くには)ちゃんに仕込んでおいたGPSが、意味不明な場所を示していますから!」




 そして藤浪晋波(くには)は何故か、万博記念公園を彷徨っていたのを、従妹に発見されるのであった。

おまけ:

盆野「なんであんな所に居たの?」

藤浪「万博に行こうと思ってん」

盆野「あそこは50年前の万博会場!!」

(時事ネタでした)

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