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販促イベントに出るぞ!

 夏限定グループ「カプリッ(チョ)」とメンバー発表と、新曲お披露目がなされた。

 現在、発表さえすればサブスクリプションとかダウンロードとか、更には無料配信で音楽は楽しめる。

 天出優子の中の人にしたら、素晴らしく思う反面、これで良いのかと感じるものもあった。


 無料で楽しまれたら、作曲している人に金が入らないじゃないか!


 前世で、中の人ことモーツァルトは報酬未払いに苦しめられた事がある。

 モーツァルトが22歳の時、彼はフランスに居た。

 そこでの生活は苦しいものとなる。

 フランス貴族たちは、彼を自宅に招いて音楽を楽しみ、絶賛するものの、報酬について出し惜しんだり、踏み倒したりした。

 モーツァルトはパリでの生活が嫌だったようで、その地で母を失い、半年でザルツブルクに帰ったのだ。

 ザルツブルクでは、職を辞して飛び出ていったのだが、生活の為には仕方がない、頭を下げて宮廷音楽家に復帰している。

 それより前の事だが、モーツァルトはイタリアのボローニャでオペラを上演し、大絶賛されるものの報酬はごく僅かであったりもした。

 だからモーツァルトは、大衆にも楽しい音楽を求める一方で

「名曲には金を出し惜しまないでくれ!

 こっちにも生活があるんだ」

 という思いを抱くことになる。


 頭が18世紀人で、肉体年齢も12歳、詳しい現代の音楽での金の流れが分からない為、音楽事務所は「無料配信しても稼げる仕組みを持っている」事を知らない天出優子。

 だからこそ、目に見えるCDの売り上げというのを大事に考えていた。

 まあそれは、あちこちの芸能事務所も同じであり、日本ではいまだに物理的記録媒体が売れていて、オンライン中心の海外とは違った売り上げ動向をしている。




「インストアイベントをして貰います!

 平日は藤浪さんと長門さんは来ないので、東京在住のスケル(ツォ)だけでします。

 天出は学校の方、大丈夫そう?」

 イベントは17時と19時からの2回行われる。

 小学校は15時から16時の間で下校となる。

 帰りの当番になると、下校時間は遅くなるが、16時半より遅くなる事は稀だ。

 ただイベントに間に合わせるだけなら、16時発でギリギリだ。

 だが実際には衣装を替えたり、トークの打ち合わせをするので、ギリギリでは困る。

 もっと余裕がある行動が求められた。


「出ます!

 当番になっても、金を積んででも交代して貰います」

「やる気があって良いですね。

 ただ、小学生が金銭で当番を交代とかはよろしくないので、穏便に話し合いで決めて下さい」

 優子にしたら、報酬に直結する販売促進イベントは、休んでいられない。

 音楽活動は収入あってのものである。

 浪費も収入があってこそやってられる。

 転生後の日本という社会に、貴族という者は存在しない。

 パトロンとして頼る事は出来ない。

 怪しいネット記事やニュースに詳しい為、もっと大きくなれば、別の意味での「支援者」というのを個人的に作る女性がいる事は知っているが

(私はそれはしたくない!)

 と、内心の性別からそう思っている。

 音楽と収益に関する考え方は、そこらの夢追い人なミュージシャンより、余程シビアなのだ。


 現在、このグループは持ち歌が1つしかない。

 CDにはカップリング曲というのがある。

 最近はカップリング曲もB面と呼ばれる1曲だけではなく

・初回限定盤A

・初回限定盤B

・通常版A

・通常版B

 で曲が変わったりもする。

 その辺は多作かつ高速で曲を作る戸方プロデューサーと多数の編曲陣がどうにかする。

 アイドルたちは1曲だけでなく5曲くらい覚えなければならない。

 だが、今はまだカップリング曲たちが完成していない為、既存のスケル女曲を1曲歌う事になっていた。

 その1曲は会場ごとに変更される。

 会場替わりのその曲を、イベント前に練習する時間も必要だ。

 だから、本当は早退したいところなのだが、それは父親が許さない。

 学校が終わると同時に、ダッシュで校門を出て、待機している母親が運転する車に乗って移動。

 場所によっては渋滞にハマる自動車より、公共交通機関の方が便利だから、自動車移動は学校から最寄りの駅までの事もある。


(なるほど、都心にマンションを借りるメンバーが多い理由がよく分かった。

 学校に行きながら芸能活動をする場合、中途半端な東京都民より、思い切って田舎から出て来て事務所の近場に住む方が活動しやすいのかもしれない。

 それと、あの見た目で案外足が速い理由も……)


 優子がそう思うのは、彼女にウザ絡みして来る照地美春や、ちょっと苦手だがファッション等で師匠と仰ぐ灰戸洋子を思い出したからだ。

 九州出身の灰戸洋子はともかく、東京都民の照地美春も一人暮らしで、高い金を払って都心住まいである。

 そして最近やらされている体力作りでも、あの華奢な見た目ながら、足が物凄く速い。

 走り慣れているようだ。

「ファンから追いかけられて、逃げている内に鍛えられた」

 と洋子はネタっぽく言っていたが、実際のところ移動で鍛えられたのだろう。

 ホワホワしている割に、移動とか着替えとか撤収とかは極めてキビキビしているのだ。


(柄ではないけど、鍛えた方が良いよなあ)

 車の中で、学校の鞄と仕事用の鞄を交換し、軽くスポーツ飲料を口にしながら、そのように思う。




「よし、来たな!

 遅刻じゃないから上出来だ。

 じゃあ、今から移動だ」

 皆と合流すると、待機していたマイクロバスで現場まで移動。

 車内には、そこでメイクをするから、何とも良い匂いが立ち込める。

 優子は小学生だからメイクはしないとはいえ、自分で髪を直したり、吹き出物くらいなら他のメンバーにパウダーで消して貰う。

(女の世界って、こんな感じなんだなあ。

 小学生女子でもなく、男と女の関係でもなく、女だけしかいない世界って、前世では絶対に体験出来なかったからなあ)

 と、ちょっと現実からトリップしていた為、

「天出! 寝るな! ボケっとするな!」

 とマネージャーから怒られる。


 そしてCD販売店に入る。

 そこには既に、CD購入予約券を購入した多数のファンが待ち構えていた。

 クラシックのコーナーに、前世の自分の名前が書かれたCDやDVDが並んでいるが、今はそれを見に行けない。

 自分たちを見つけたファンたちに手を振りながら、待機スペースに入っていく。

 そして時間が来たら、新曲を歌い、トークをし、スケル女の1曲を歌った後、更に販売促進用のトークをしてから最後にまた新曲を歌い、後はファンのお見送り。

 この流れで無難に1回目を終えた。


 19時からの2回目。

「今回は、最年少の天出にトークの回しをして貰おうかな。

 まあ、小学校の話とかで良いよ。

 君が今体験しているのは、きっとお客さんたちには懐かしい話だろうから。

 そういうのをお願い」

 こう言ったスタッフは、イベント終了で思いっ切り後悔する。


 天出優子はトークの上手さを売りにしているわけではない。

 人生2回目だから緊張はしないし、大人相手に気の利いた話は出来る。

 しかし、大衆を前に演説するとか、笑える話をするというのは違った才能となる。

 無論、スタッフもその辺は分かっている。

 小学生ならではの

「給食の時間に、ゼリーが出たんですよ~」

 とか

「掃除当番じゃんけんで決めたんですけど~」

 といった話を、たどたどしくしてくれたら、ロリ好きが幸せになるだろうと考えたのだ。


 だが優子が出した話題は

「給食の時間に、牛乳早飲み対決をしている人がいて、その後その子を経て大地に牛乳が帰っていきました!

 そういえば、牛乳を拭いた雑巾って臭いですよね。

 あれを嗅いだ事がある人いますか?」

 だの

「掃除といえば、ここには男性のファンがたくさんですが、知ってますか?

 女子トイレって案外汚くてですね(以下略)」

 だのと言ったものだった。


 イベント終了後、メンバーからもスタッフからも

「汚物系の話をするのは禁止!

 当分トークの司会にはしない!」

 と説教されたのである。

おまけ:

スタッフB「あのトーク、ぶっちゃけてて面白いという反応です」

スタッフC「小学生なんだし、ああいう話もするんじゃないか、っていう意見ですよ」

スタッフD「ネットでも、天出、下品だけど笑えて好感度上がったって書き込みが」

スタッフA「ダメだ~~~!

 下ネタとかを堂々と言って良いのは、F山M治さんとか、そういうキャラに人だけだ!

 売り出し前の女性アイドルが下品な事言っちゃいけません!」


基本的にファンは、熱愛系以外の話題では全肯定だったりする……。

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― 新着の感想 ―
スタッフAに、某漫画のたわば先輩の影が……? まあ、どこにでも居そうな性格ですけれど
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