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カプリッ女お披露目!

 いよいよ夏限定グループ「カプリッ(チョ)」がお披露目となる。

 まだ完全には仕上がっていないから、まずは自前公演でお披露目し、その場でマスコミ発表という運びだ。


(なんか、前世よりも人間関係に気を遣うようになったかもしれない)


 天出優子は、このお披露目公演の関係者席券を5枚程手にしている。

 運営スタッフの方から

「用意しておいたよ」

 と言われ

「まだマスコミ未発表だけど、友達には言っていいから。

 学校での人間関係って大事だから、慎重に行動してね。

 あと、ミハミハから『可愛い親衛隊たちによろしく』って伝言頼まれてるから」

 と、渡す事情を話された。

 要は、照地美春が気を遣ってくれたという事だ。

 学校で孤立しないよう、守ってくれる友達には、秘密を共有する事でより強い味方にしろ、というわけだ。

 まあ、考えての判断ではなく、本能的に彼女は味方を増やす術を身につけているようだ。

 彼女には彼女の辛い過去があるので、味方を増やすという事には長けている。

 そんな事は知らない優子は、美春の配慮に素直に感謝する。


「……というわけで、夏フェスに向けての発表がある公演のチケットなんだけど、特別に4枚だけここにある。

 男女平等に2枚ずつね。

 来たい人の中で話し合って決めてね。

 あと、特別な招待券だから、秘密は共有してね!」

 こう言われ、自称「親衛隊」たるクラスメートたちは特別扱いに感動すると共に、それに応えるべく秘密の遵守を誓った。

 更に優子自身が人選しない事で、外れた人の恨みを買う事も避ける。

 こうして「親衛隊」から応援に来る生徒が決まった。


 そしてもう1枚……。

「これを私にくれるって?」

 この学校もう一人のアイドル(候補生)武藤愛照(メーテル)が、一見澄ました表情で応じる。

 鼻の穴が拡がり、息が荒くなっているから、ポーカーフェイスが装えていない。

「秘密にしてたらしていたで、色々言ってくるじゃない」

「なによ、私が面倒臭い女みたいな扱い」

「それが事実だけど」

「なんか言った?」

「で、どうするの?

 来るの? 来ないの?

 来ないのなら先生にでも……」

「そこまで言うなら、行ってあげても良くってよ!

 貴女も私のライブを観に来たのだし、お礼で貴女のパフォーマンスも見てあげるわよ」

(だから面倒臭い女なんだよ)

 内心毒づくが、喜んでいるのなら良いか。




 ライブ当日。

 5人の小学生は、スケル(ツォ)の自前ライブ会場前で固まっていた。

 ヲタクたちの熱気や、痛々しい格好は問題ではない。

 そうしたヲタクたちにインタビュアーがマイクを向けている。

 芸能レポーターっていうのを実際に見た為

(優子ちゃん、本当に凄い立場になったんだ……)

 と圧倒されていたのだ。


 そして開場。

 関係者は、一般客が入った後にひっそりと入場する。

 マネージャーから

「天出優子の同級生さんたちですね。

 すみませんが、身分が分かるものを……。

 あ、名札で結構です。

 はい、全員聞いていた通りですので、お入り下さい」

 と案内され、立見席ではなく二階の、本当に関係者しか入れないスペースに通される。

 近くには、いかにもアイドルって感じの綺麗なお姉さん方が座っている。

 顔は美人なんだけど……、ヒョウ柄とか、野球応援法被……しかも消滅した球団のものとか、謎のダボダボファッションで関西弁を放っている。

 反対側には……清楚な感じなんだけど……恐竜のぬいぐるみをヘッドロックしていたり、スーパーで買って来たもやしを袋のまま持ち込んで、その場で食べていたり、何故かアルプス一万尺を超高速でやっていたりと「目を合わせたらダメだ」的な変人が揃っている。


 そしてライブが始まった。

 基本的にスケル女の定期公演な為、ステージ上でも知ってるメンバーが歌い踊る。

 見惚れている小学生たちの中、ただ一人、武藤愛照だけは真面目な表情でステージを凝視していた。

 彼女もマイナー寄りとはいえ、一端のアイドル候補生だ。

 プロの目から、スケル女のパフォーマンスを観察して勉強しているようだ。

 そしてスケル女リーダーの馬場陽羽(ひのは)がMCの場で発表をする。


「ここで発表があります。

 私たちスケル女と、同じグループのアダー(ジョ)、アルペッ(ジオ)の精鋭で結成された新グループ、カプリッ(チョ)のメンバーを発表したいと思います!」

 そう言って一人ずつ呼ばれ、ステージ前方に並ぶ。

「藤浪~、いっちょやったれ!」

「やったらあかんよ。

 ぶつかんないようになあ~」

 関係者席から奇妙な衣服のお姉さま方から、声援……いや、野次が飛ぶ。

 ファンたちもそっちの方を見て、慣れている人は肩をすくめる。

 違い席では、大人しく拍手をしている清楚なお姉さま方。

 遠目では非常におしとやかにしか見えない。

 しかし、近くで見ると恐竜のぬいぐるみにスリーパーホールドをかけながらだったり、スカートのポケットから煎り豆を取り出し、ポリポリ齧りながら油ぎった手での拍手だったりと、奇行が見える。


「最後~!

 スケル女研究生の最年少、天出優子!」

 同級生たちが立ち上がり

「優子ちゃ~ん!」

「天出~」

 と声援を送る。

 優子はそれを確認し、落ち着いた表情と仕草でレスをした後、そちらだけでなく会場全体の声援にも応えていた。

 彼女は前世から、声援を送られる事には慣れている。

 貴賓室に座る皇帝とか皇女とかに、さりげなく返礼する仕草も板についていた。

 そのせいか、現世でのステージ礼法が、ややわざとらしく見える。

 それはクラシックコンサートでの指揮者のような感じだ。


「では、カプリッ(チョ)の新曲『ビーチパラソル、砂落とし中』、宇宙初公開です!

 行ってみよう!」

 馬場のこの煽りで、カプリッ女が始動する。

 今回は正規メンバーの追加無し、コアとなる研究生中心のメンバーでパフォーマンスをした。


「上手い……」

 関係者席で優子のライブパフォーマンスを見ていた武藤愛照が思わず呟く。

 3年生の時に、音楽教室で彼女を初めて認識した。

 恐ろしい程の素質、そしてそれを隠そうともしない態度。

「私、上手いでしょ」という自慢を含んだ、圧倒するような音楽だった。

 だが、今の彼女からはそれを感じない。

 歌もダンスも上手く、皆をリードしているようにも見えるが、一方で全体と調和していて悪目立ちもしない。

 見るからに楽しそうだ。

 楽し気に、ステージ上で他のメンバーとイチャついている。

 個性が失われていない上に、嫌味っぽい部分が削ぎ落され、歌っている方も見ている方も楽しくなって来る。

 そして落ちサビ部分。

 優子のソロ歌唱は、オペラのアリアのような綺麗なソプラノ。

 ピーンとして高音が場を支配する。

 そしてラスサビに上手く繋がり、カプリッ女リーダーの寿瀬(じゅせ)(みどり)が〆る。

 最後の部分は、アイドルのライブであり、かつクラシック音楽でも見たかのような圧倒される感もある。


「上手いなあ……、悔しいなあ。

 私はあの子の近くに立っていたと思ってたけど、こうして見てみれば随分距離がある……」

 武藤の呟きに、

「相手の本当の凄さが分かるって事はな、それも凄さの内なんやで。

 あんたはまだまだ上手くなるんちゃうか。

 なあ、武藤さん」

 とツッコミが入った。

 見ると、派手な柄の服の集団の中にあって、相当マシな服装で野球帽を前後ろにかぶった女性である。

「アダー女リーダーの垂水さん。

 私の事をなんで知って……」

「それはおいおいと。

 まあ、うちらもアンテナ高くしてるんで、色んなアイドルチェックしてるって事は覚えといてや。

 あんたは、アレを見ても挫けない。

 ならば良し!

 アレを追い越すつもりで頑張りや」




 その夜及び翌朝、テレビニュースの芸能パートで自分たちの同級生が映っているのを視て

「昨日、あの場所に居たんだよ!」

 と親や、同級生たちに自慢する一般小学生と、

「天出優子に追いつきたい、勝ちたい!

 だが今は駄目だ。

 私には実力がない。

 天出との差がありすぎる。

 だが見ていろ、何年か先を!」

 とライバル心を燃やす少女と、

「やっと一個、肩の荷が下りたし、楽しい音楽人生を送る一歩を踏み出せたわぁ」

 とホッと一息吐く少女とがいた。

おまけ:

天出優子は、指揮者風のわざとらしい仕草をしつつ、前世の事を思い出していた。

前世、モーツァルトだった時の嫌な思い出。

皇帝ヨーゼフ2世からレオポルト2世に代わった時、即位に合わせて「皇帝ティートの慈悲」(K.621)をプラハで上演したが


酷評された。


レオポルト2世と皇后の好みに合わなかったようだ。

やがて宮廷音楽家を辞める事になる。

(あの時の冷めた空気に比べ、今は最高だ)

と転生してそう思っていた。


だが、この感慨をスケル女の初期メンバーとかが聞いたら、苦笑いするだろう。

「うちら、ショッピングセンターのライブで、観客6人とかの時代もあったからね!」

と。

(現実のアイドルで、秋葉原の路上でビールケースの上で歌ってたのから、武道館まで上り詰めるとかありますので)

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― 新着の感想 ―
カセットテープを手売りしていたところから紅白の舞台装置になった人もいますし……
森昌子でしたっけ。公民館の座布団の上に立って歌ったの。
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