変人しかいないのか!?
夏限定アイドルグループ「カプリッ女」、それはスケル女の新人メンバーに、大阪の姉妹グループ「アダー女」と広島の姉妹グループ「アルペッ女」から1人ずつ助っ人を加えて編成される。
大阪の助っ人・藤浪晋波は、天出優子から見ても中々の変人だった。
では広島から来る子はどんな女性だろうか?
とりあえず、平日に勝手に押しかけて来て、勝手に迷子になるような非常識人ではなさそうだ。
顔合わせの日、広島の助っ人メンバーはやって来た。
名前は長門理加。
藤浪晋波と同様、グループ内での人気メンバーである。
テレビ出演や雑誌のグラビアもあり、現在全国区に売り出し中のアイドルである。
だが、会って早々に一同は頭を抱えた。
(変人だ……)
長門は何故か、アザラシのぬいぐるみを抱きながらやって来た。
そして挨拶は
『こんにちは、僕、りかっちの御主人様のポルコ!
勘違いしないでね、僕が御主人様で、この子は僕のしもべだから!
フフッ、驚いたようだね。
人間の世界にもいる、腹話術師の逆さ』
と、腹話術を使って話して来る。
(アザラシに豚って名前つけるのも、分からないセンスだ……)
一人、こちらもおかしな解釈をしている優子だが、基本的に「こいつは変人」という認識だけは全員と共通していた。
現在、カプリッ女は正規メンバーから富良野莉久と寿瀬碧と米谷絵美、研究生の盆野樹里、安藤紗里、斗仁尾恵里、天出優子、そして大阪の藤浪晋波、広島の長門理加というメンバー構成であった。
これに状況次第で、正規メンバーから数人、スケジュールが空いている子が入ってパフォーマンスをする。
この構成で、基軸メンバー9人でレッスンを始めた。
大阪と広島の変人2人だが、流石にグループ内センターの一角だけあり、卒なくこなす。
ただ、その2人にしても
「いつからこないに激しくなったん?」
「聞いてた以上にキツい……。
鍛えとけって聞いちょったけえ、準備しといて良かったわ……」
と音を上げてはいたが。
長門なんかは、ぬいぐるみが本体とかいう設定はすっかり忘れてしまっている。
大阪はまだ激しいが揃っていない派手なダンス、広島は緩やかで大人しめのダンスな為、現在のスケル女のレッスンは難しく感じるようだ。
支店よりも高度な事をしていると感じ、ちょっと気分が良くなる本店のメンバー。
……人間、そんなものだろう。
辛くても、他と比べて自分たちが凄いと分かれば、それが誇りになってしまう。
さて、全員揃った所で親睦の食事会が開かれる事になった。
「なあ、優子ちゃん……」
「なんですか?」
「私、グループ内オーディションでこの夏グループに落ちてたやん」
「まあ……」
「それなのに、もう少し努力すればいけるだろうって、お情け合格になったんよ」
「……答えにくいです」
「私はそうだと思ってる。
何故なら……」
「はい、従姉の世話係は樹里ちゃん以外出来ないからですね」
「分かってくれてありがとうな。
地下鉄の表参道駅まで一緒だったのに、ここから消えるとは思ってもいなかったわ」
藤浪晋波には放浪癖がある。
迷子紐……というか、ぶっちゃけ首に鎖でもつけておかないと、ふらっとどこかに行ってしまう。
今回もそうなった。
2人の予想では、表参道駅から歩いて原宿に行けると分かっていて、抜け出したのだろう。
しかし途中で表参道ヒルズを見つけて、大きな建物には入らないと気が済まない性分の為、そこに迷い込む事が予想される。
その予想は的中し、レアコスメのテナントに入って値切り交渉をしていた藤浪を捕獲した。
説教は後にして、皆との集合場所に連行する。
優子たちは会場に着いた。
どうにか十代でも入れる安いイタリアンのファミレスである。
そこでの親睦会兼歓迎会スタート。
見ると発起人である、最もキャリアが長い正規メンバー・寿瀬が、開始直後からもうグッタリしていた。
(何かあったんですか?)
優子が聞いたところ
「広島の子……えーっと、長門さんが脱走し、さっき捕まえて来たところ。
事前にかき氷がなにより好きだと聞いていたから、行きそうな店の予想は出来たんだけど……」
折角だから、親睦会の前にかき氷を食べたかったらしい。
親睦会の店でも、ちょっとオシャレになるが、かき氷が食べられると説得して連れて来たという。
東京に滅多に来ない人たちとはいえ、グループ内に2人も脱走癖があるとは頭が痛い。
しばらく歓談していたが、ふと見ると藤浪の姿が見えない。
バッグは座席にあるから脱走はしていないはずだ。
店内を見回してみると、藤浪は別の女の子のグループに混ざっている。
向こうのグループは迷惑している感じだ。
「晋波ちゃん……なにやってんの?」
保護者たる盆野が、笑顔ながら凄まじい覇気を放ちながら詰問する。
「いや、なんか同じ阪神ファンのようやってん。
うちもやで、って混ざっただけよ」
「他所様に迷惑かけるんじゃない!
すみません、うちの従姉が迷惑おかけして……」
だが、これがきっかけで親睦会は荒れ始めた。
「なに?
藤浪さん、阪神なんか応援しちょるん?」
「せやけど」
「カープ女子のわしの前で、よう言いよるのぉ」
「広島、ぷっ。
3位か4位をうろちょろしてるやん。
うちらは優勝争いしてるんで」
「言うとけボケ。
今はちょっと調子悪いだけじゃ。
わしんとこはな、メジャーリーグに選手出しとるからな。
その内の一人は、今のところ打点王じゃ。
そいつらが帰って来たら、阪神なんぞ、いてこましたるわ」
そのやり取りに、いつもは物静かな子が参戦して来た。
「LAのあの方に比べたら、どっちも雑魚……」
「あ?
なんか言ったか、岩手県民」
「あんたんとこの誇りはなあ、甲子園じゃ大阪の高校相手にボコられたやん」
「そんなの昔の話……。
MVPに比べたら全然、屁でもねぇべや」
「MVPと言えば、あっしの地元・石川県の星のワールドシリーズMVPっしょ。
甲子園でも敬遠されまくったんよ!
岩手よりも、大阪よりも、広島よりもうちが上やよ」
「その選手の記録、あの方はとっくに抜いとるべ」
「訛ってんじゃねえよ、この田舎者」
「せやで、日本語話そうや」
「おどれも関西弁話しちょう?」
「そっちこそ広島弁、怖いわぁ」
「わしのは広島弁と長州弁のミックスじゃ。
知った風な事ぬかすな」
野球の贔屓から、地方disり合いに発展した口論を、この場で一番の先輩・寿瀬が制する。
「もういい加減にしようか。
ここは親睦会なんだよ!」
怒られてシュンとなる4人だが、寿瀬も疲れていたのか、余計な言葉を吐く。
「野球とかどうでもいいんだよ、地方民が……。
サッカーの方が国際的スポーツなのに……」
「国際ランク低い競技が出しゃばるな!
我が日本のぉぉぉ、野球世界ランクはぁぁぉ、世界一ィィィ!!」
「ランク低くないから。
第一シード取れそうなくらい、ランク上位だから」
「世界一でないのは事実。
所詮球蹴りはそんなもの」
「黙れ、マイナースポーツ!」
こうして今度は野球派対サッカー派の、とても女の子の会、アイドルしかいない食事会とは思えない言葉での罵り合いが始まったのである。
……そして、この喧嘩がきっかけで
何故か打ち解けてしまい、お互いをニックネームで呼び合う関係になったのだ。
腹の中を見せ合った事で、関係が逆に良くなったようだ。
「私、(中身はともかく)女の子だけど、この女子たちの関係性よく分かんない」
優子の嘆きに
「あれは特別だと思う……。
普通はあんなじゃない」
と富良野莉久も同調する。
さらに
「安心しい。
私もついていけてへんから」
と、自分も熱狂的阪神ファンながら、ノリについて行けなかった盆野とも溜息を吐き合うのだった。
おまけ:
広島のアルペッ女にて。
長門理加「ただいま……」
陸奥清華「ふんっ!」
長門「僕の御主人に何するの?」
陸奥「一子相伝の業……これは裏の業だ」
長門「じゃから、なんで?」
陸奥「一人で東京なんか行ってくるから……。
同期なのに、寂しいけえ」
内海榛名「はい、じゃれあいはそこまで。
ところで理加ちゃん」
長門「はい」
榛名「お土産は?」
長門「これです」
榛名「これ、ホテルのアメニティじゃろが!」
霧島葵「おどれは、わしら三期をナメちょおの?」
中村比江「世界最強の第三期メンバーの力を見せんとならんな」
金剛姫奈「お好み焼き大食い対決じゃ!
わしらの実力、思い知らせちゃるけえの」
(名前がアルペッジオだけに、メンバー名はそっち系です。
まあ元ネタのグループには、信濃さんと高雄さんがいましたし、他のアイドルでも加賀さんとか衣笠さんとか青葉さんとか最上さんとかがいるので、違和感はあまりないかと。
あと、そこのグループの子で、一人称が「わし」の人もいますし)




