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勉強だぁ!!

 天出優子は小学6年生である。

 言うまでもなく、来年には中学校に進学する。

 本人の意思はともかく、親は中学校までは進学させないとならない。

 義務教育とは、親に対して「子に教育を受けさせる義務」なのである。

 だから公立中学校が存在し、教育資金の無い親でも子を最低限の学費で進学させられる。

 この公立中学校に進学するとなると、優子には問題があった。


 天出優子の父親は、それなりに所得があった。

 学費に困っていない。

 娘の方に勉強をする気が無いだけだ。

 だから普通に公立に進学すれば良かったのだが、ここで校則というものが引っかかる。


 一、芸能活動は認めない

 一、在学中のアルバイトは認めない


 優子は研究生とはいえ芸能人である。

 公立校に進学したなら、芸能界は辞めないとならない。

 だが本人にその気は無い。

 となると、芸能活動を認めている私立中学校に進学する事になる。

 それには入学試験で合格しないとならない。


「アイドルを続けたいなら、勉強しなさい!

 勉強したくないなら、芸能界を辞めなさい。

 そして勉強して立派な大人になりなさい!」

「……パパ、それどっちにしても勉強しろって言ってるよね?」

「はっはっはっ、流石は我が娘、よく分かったな!」

「誰でも分かるわよ」

 父親・天出礼央はご機嫌である。

 娘に勉強させられる。

 あわよくば、芸能界を辞めさせられる。

 彼は娘の才能は理解した。

 凄まじい才能だ。

 だったら、本格的に音楽大学とかに行けば良い。

 作曲が出来るのなら、アイドルなんてやらなくて良い。

 音大に行くには、勉強は必須だ。

 勉強をしておけば、夢破れたとしても、いくらでも替えが利く。

 勉強こそ全ての道に通じる!


 保守的な父の思考なのだが、娘の中身がモーツァルトだとしたら話は変わる。

 音大の講義内容こそ、天才音楽家からしたら今更学ぶ必要も無い事なのだ。

 転生してから12年、有り余る現在の情報量から古今東西の音楽を吸収し尽くした。

 そして自らの理想である「楽しい音楽」を求め、たどり着いたのがアイドルだったのだ。

 自らの変態嗜好を満足させる為でもあったのだが、そっちの方は最近、中にいる厄介な変態につき纏われて鳴りを潜めている。

 だから、アイドルを辞める気はない。


 そうなると、私立中学校に合格する他ない。

 嫌でも勉強しないとならない。

 父親は喜んでいるが、彼女にとっては夢の為の方便に過ぎない。

 モーツァルトは天才なのだが、必要と思った事については努力と学習を疎かにはしないのだ。

「マイクより重い物は持ちたくない」とか言っても、それが必要だと判断すれば、両腕にウェイトを着けて運動する人物である。


「勉強するにしても、一人じゃ心もとないかも……」

 そう考えた優子は、同じような境遇の女子に声を掛ける。

「あーら、天出さん。

 貴女、お勉強が苦手でしたのね、ざまあないですわ!」

 鼻持ちならない事を言うこの子は、別のアイドルグループオーディションに合格した武藤愛照(メーテル)

 この子もまた、公立中学校には進学する意思がない。

 やはりアイドルを続けたいからだ。


「うん、私は勉強が苦手。

 だから一緒に勉強しましょう!」

「それにしては、頭が高いわよぉ。

 教えて差し上げても良いのだけど、そんな頼み方じゃあねえ」

(面倒臭ええええ)

 そう思ったが、同じ境遇の者は他に居ない。

「どうか、勉強を教えて下さい」

「ふふん、それで良いのですよ!

 さあー! 勉強をしましょう!!」


 そして優子は、この選択を思いっ切り後悔する。


「小6になってから歴史勉強するじゃない。

 私、日本の歴史が分からなくて……」

帝国(オーストリア)とローマ(イタリアの事)の歴史ならよく分かるんだけど)

「よろしいわ。

 では一緒に勉強しましょう!

 まずは、問題を解いていきましょう!

 問1、『青森県にある遺跡で、今から5500年前から1500年に渡って人が住んでいた場所は?』

 これは簡単です、弘前城ですわ!」

「ほお!

 流石は武藤さん」

「どんなもんですか!

 次の問題。

 問2、『米づくりで、稲穂を刈り取る時に使っていた道具を何というか?』

 これも簡単です、コンバインです!」

「武藤さん、凄い。

 スラスラと解いてくなんて!」

「ふふん♪

 まだまだいきますよ。

 問3、『古墳時代に日本に伝来したインド発祥の宗教は?』

 もう簡単です、ヨガです!」

「あ、聞いた事ある。

 うちのママがよくやってる」


……一事が万事こんな感じであった。

 国語の問題では、設問とされている文章を読み

「この解釈はおかしい!」

 と独自の感受性から問題そのものを否定する優子と

「おかしくても、試験官に文句言えないでしょ!

 だから問題は問題と解きましょう!」

 と言いながら、堂々と間違う武藤愛照。


 算数に至っては

「分からん……」

「難しいね……」

 と2人揃ってお手上げとなっていた。

 これは、小さい時から塾に通っている試験慣れした生徒なら

「図形問題で75度!

 よし、30度と45度の足し算だ!

 ここに線を引けば、思った通り二等辺三角形と、30度60度90度の三角形とに分割出来る!」

 というように、すぐに閃くものだったりする。

 だが、そんな事はして来なかったアフォ女子2人は、

「この問題は後回しね」

「そうしよう、解ける問題から解いていこう」

 を繰り返し、もう問題集を一巡して最初の問題に戻って来ていたりする。




「…………家庭教師、雇おうか?」

 勉強すればする程、解答がトンチンカンになっていく娘を見かねて、父親が助け船を出すも

「絶対嫌だ!」

 と優子は拒否。

 頑ななその態度に、父親も辟易する。

 優子は、嫌らしい映像をタブレットで見て

「現代の家庭教師は女子にいたずらをして、自分の思うがままにする」

 と思い込んでしまった。

「昔もそのきらいはあった。

 幾多の貴族の令嬢が、家庭教師との疑似恋愛を楽しんでいた。

 自分がするなら歓迎だが、自分がされるのは虫酸が走る。

 そんな事絶対に受けないぞ!!」


 では塾に通おうか、となったが、それはそれで通う時間が無い。

 どうしたら良いだろうか?

 そんな天出家に救いの手を差し伸べたのが、スケル(ツォ)最強の才女・品地(ひんち)レオナであった。

「あー!

 私立の受験ね。

 OK!

 私が教えてあげる。

 その同程度にアホな同級生も一緒に面倒見てあげるよ」


 珍しくレッスン前に参考書を読んでいた優子を見て、何事か尋ねたレオナが事情を知った。

 そして個人教師を買って出る。

 こうして現役大学生のかつトップアイドルが、次世代アイドルの勉強を教える事になった。

 それは

「アイドルなんて勉強が出来ない」

 と決めつけていた父・礼央の常識を覆す知性を見せていた。

 優子と愛照で繰り広げられたトンチンカンなやり取りを、いとも簡単かつ、アホ2人でも分かるように解説していく。

(この人、ヤバい!)

 そう思う2人の小学生だが、時々何かのツボに入り

「お、この幾何学はこう発展するね。

 これは美術では投影にこう利用されてね……」

 と受験とは無関係な話で暑苦しく盛り上がってしまうのを見るにつけ

(この人、ヤバい……)

 とプラスにもマイナスにも同じ表現で頭を抱えるのであった。

おまけ:

相変わらずベタベタと照地美春に引っ付かれている優子。

優子「ところで、照地さんって中学校は私立だったんですか?」

美春「えー、ミハミハって言ってくれなきゃ嫌だ嫌だ~。

 えーっとねえ、私は公立中学校だったよ」

優子「校則厳しくなかったんですか?」

美春「厳しかったよ~。

 髪型はこうしなさいとか、スカートは膝上何センチだとか、自転車通学の時は指定のヘルメットだとか」

優子「まあ、そうですよねえ」

美春「でもぉ、卒業したら世界が変わったんだよ!

 こうして可愛い子に囲まされて生活出来るって、幸せなんだよぉ~」

優子(反動か?

 厳しい規則の中で生活してたから、解放されたと同時に反動が来たんだな!?)


自身もザルツブルク大司教に仕えて、堅苦しさを嫌った経験からそのように思っていた。

なお、自身の経験に照らし合わせるなら、元々奔放な部分があればこそ、抑圧された後に反動が来るのだが、本人たちにその自覚は全くなかった……。

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