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(幕間)フェス運営委員会

 夏休みと言えば、ロックなりJ-POPなりの「フェス」が開かれる。

 アイドルだけを集めたアイドルフェスもある。

 アイドルフェスも種類は様々だ。

 売り出し中のアイドルを集めたもの。

 音楽には一言ある芸能人が集めたもの。

 お祭り的に、有名どころからデビュー前まで様々なアイドルを集めたもの。


 集まる母集団だけでも区別出来ない。

 場所により、東京アイドルコミュニティとか、大阪アイドル大集会のように銘打たれる。

 更には湘南海の家ライブフェスのように、浜辺で行われるものもある。

 かつて天災があった場所では災害復興フェスも開かれるようになった。

 こうしたフェスの多くは野外で行われ、場所にはテレビ局のイベントスペースが多い。


 夏といえば「音楽」、それが現代の日本である。

 ヨーロッパでも今はクラシックの音楽祭が多く開催されているが、モーツァルトの時代はまだ存在せず、彼の死後の1842年にモーツァルト音楽祭が開かれ、やがてザルツブルク音楽祭へと発展していった。

 ロックフェスは1960年代にアメリカから始まり、アイドルフェスは2000年代からで日本にしか無い。

 つまり、格調の違いこそあれ、大衆が音楽で盛り上がるのはモーツァルトにしたら、垂涎の事なのである。


 天出優子が属するアイドルグループ・スケル(ツォ)は、こういったフェスに出るには有名になり過ぎた。

 大阪の姉妹グループ「アダー女」、広島の姉妹グループ「アルペッ女」は地方フェスに参加する事も多いが、彼女たちが東京のフェスに参加する際に、スケル女から応援メンバーが派遣されたりはする。

 スケル女のライバル……というか一部メンバーの憧れ「フロイライン!」なんてのは、もっと気位が高い。

 アイドルフェスは卒業とばかりに、ロックフェスへ殴り込みを掛けている。

 ゆえにアイドルフェスでは、「全国区アイドル三国志」と言われる中の「自由音楽同盟(フリーミュージックス)」、略してFMsに属する複数のアイドルグループが出まくっていたのだが、今年は様子が違った。

 FMsはフランスの日本イベントを皮切りに、香港やシアトルでもライブをする事になり、今年は夏フェスへの参加回数が激減する。

 夏フェスの女王がいない今、三国志の二強、スケル女とフロイライン!に何とかして貰おうと運営委員会では動き回っていた。




「スケル女を出したら、色々大変ですよ」

 総合プロデューサーの戸方風雅は、相手を前に溜息を吐く。

 数十人にも及ぶグループなのだ。

 大量にアイドルを集めるイベントでは、楽屋を用意する事すら大変になる。

 他のアイドルに用意するようなテント楽屋とかだと熱中症になったりするし、かと言ってテレビ局内に特別に楽屋を用意すると、不公平感が出てしまう。

 また、チケットを買い漁ったファンが大量に押し寄せ、スケル女の現場のみを見てさっさと去り、次の出演アイドルの時は閑散とする「現場荒らし」も起きてしまう。

 少数選抜が一番望ましい形だが、スケジュールの調整も難しい。

 特に7女神と灰戸洋子は、仕事が詰まっている。

 残ったメンバーも、スケル女単体での仕事で地方を回る。

 だから、こういうフェスには姉妹グループと、その時点でスケジュールが空いているスケル女メンバー2,3人という形にしていた。

 人気グループを呼ぶには、精々対バンとか3グループ程度の共演にしないと。

 あるいは大型フェスのように、大金を投じて用意するか。


「我々も正規メンバーを全員揃えるのは無理だって承知しています」

 フェス運営側も諦めない。

 戸方Pは、「フロイライン!」側との交渉結果を聞かされる。

 こちらも正規メンバーは出て来ない。

 この中から将来のフロイライン!メンバーが出るという、研究生から選抜ユニットが派遣されるとの事。

「鎖国中」と言われた程、個人的な関係はともかく、グループとして他所との共演が少ない集団なだけに、研究生ユニットであっても出てくれるだけで新鮮だった。


「では、こちらも研究生を出せと言いたいのですか?」

 戸方Pの質問に、運営スタッフは頷く。

「現在11人在籍しています。

 スキルはまだまだですよ」

「それにいつものように、正規メンバーを2,3人入れて貰えれば……」

「ううむ……」

 プロデューサーは考え込む。

 前向きに検討中で、どの子をどう配置する、空いてるスケジュールは……と思いを巡らす。

 正規メンバーは、姉妹グループの方にも派遣する為、空いている子もそう多くはない。

 いや、逆に姉妹グループのメンバーで空いている子がいたら、ヘルプに入ってもらおうか。


 戸方Pは、保留にはせずに、その条件で承知した。

 この辺の即決は彼の長所でもあるし、無茶ブリの序曲でもあった。

 フェスは当然、1つだけではない。

 あちこちから出演の打診が入る。

(研究生の方も、全員出演ではなく、ローテーションにしないと……)

 研究生は、1名を除いてスキルも体力も足りていない。

 メディア露出のおかげで人気はあるが、それだけに真夏に使い回すと壊れてしまう。

 自分で言ったように、楽屋も十分なものは用意してもらえないだろう。

 だから、正規メンバー1人か2人、研究生は多くても6人、場合によっては姉妹グループからヘルプを呼んで8〜10人のグループにする。

 こうして彼の中で、夏だけの研究生や姉妹グループメンバーを含んだ変則グループ「カプリッ(チョ)」の構想が進んでいった。


 戸方Pは、自分でも言っているように、音楽的には二流といったところだ。

 作詞の方は、思春期の男子に刺さるような歌詞を書くが、直接的過ぎて詩的ではない。

 フロイライン!の作詞陣のような、パワーワードの連発とかは出来ない。

 作曲は典型的なアイドル楽曲しか作れない。

 そういう意味では凡百の音楽プロデューサーにしかなれないのだが、彼には人脈を作るという超重要な才能があった。

 人たらしと言っても良い。

 また、アイデアはいくらでも出せる。

(自分は非才、音楽に携わるだけの一般人に毛が生えたような存在。

 だから多くの人の助けがなければやっていけない。

 自分のアイデアも、協力が無ければ形に出来ない)

 そう思っているから、腰を低くして人との関わりを大切にする。

 凡庸な曲も、編曲家のひと手間で売れる曲に変わる。

 出来た曲を売り出してくれる音楽会社、配信会社、広告代理店への顔が利く。

 テレビ局スタッフとも仲が良く、上は社長、下はアルバイトからも「戸方P」と親しく呼ばれている。

 だから、解決策を提示された時点で、フェス出演を拒否する気は無かった。

 後はその条件の中で、どう上手く回していくか、である。


(新メンバーと研究生を鍛えないと……)

 天出優子が受けたオーディションで、研究生を経ずに正規メンバーとなった子がいる。

 富良野莉久という子なのだが、選ばれた理由はとにかく美少女だったから。

 この子を獲得しておかないと、確実に他の芸能事務所が取りに来るだろう。

 実力が無かったわけではない。

 だが、今は伸び悩んでいる。

 センターは任せられない。

 3列目、4列目のメンバーで、宝の持ち腐れとなっていた。

 スキルで採るなら、天出優子の方が抜群に良かった。

 折角の美少女・富良野莉久をこの際売り出そう、その為には変則グループといえどセンターに置けるくらいの実力にはしないと。

 普段であれば、7女神を中心に編成せざるを得ない。

 しかし、研究生中心の夏用グループであれば、彼女を中心に練習もさせられる。


(もう一つ、起爆剤が欲しいなあ)

 そう言って思い浮かんだのが天出優子であった。

 オーディションの同期、年齢的なものと、当時の性格から合格にはしなかった。

 しかし、今は壁のようなものがあった当時と違い、協調性を持ち、先輩メンバーからも可愛がられている。

 7女神や灰戸洋子以外の正規メンバーから見て、中学生になったら確実に昇格して来るし、自分のポジションを抜き去るであろう気になる少女。

 富良野と天出を組ませ、伸び悩んでいる富良野を刺激してみよう。


 無論、研究生中心グループというアイデアの中で、真っ先に起用しようと顔が浮かんだのが天出優子だった。

 この子はあらゆる面で刺激になる。


 かくして天出優子の暑くて熱い夏が始まろうとしている。

……まあ、その前に優子には、別の問題が立ちはだかるのだが……。

おまけ:

天出優子の中の人こと、モーツァルトは前世の夏を思い出していた。

貴族たちは避暑に出かけ、そこで同じような貴族たちを招いて舞踏会や音楽会を開く。


……避暑????


転生後の日本のクソ暑さからすれば、大した事なかったよなあ?

と、エアコンが効いた部屋で涼みながら、モーツァルトはそんな風に感じていた。

今より涼しくても、高地ゆえに過ごしやすくても、当時はそうして暑さから逃れるものであった。


なお中世温暖期から小氷期に向かっていて、おまけに火山噴火による異常気象も加わり、それがフランス革命の一因ともなり、脳内嫁マリー・アントワネットの命を奪う事に繋がる事は……モーツァルト転生後の人格である天出優子は多分進学校に行かないから、分からないだろうなぁ。

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