表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/61

まずは研究生としてやってみるか

「なんで不合格なんだろう?

 いや、不合格ならまだいいよ。

 確かにちょっとやり過ぎたから。

 審査員ビミョーな顔してたし。

 だったら、なんで研究生にならないかって言って来たんだろう?」


 前世、モーツァルトの記憶と才能がある天出優子は、オーディションの結果と研究生への招待を見て、それこそビミョーな表情になっていた。

 振り返ってみれば、やり過ぎた。

 行き過ぎた才能を見ると、人は拒否をしてしまう。

 モーツァルトは前の人生で、そうした宮廷や教会音楽家を何人も見ていた。

 彼は才能の凄まじさを認められていたものの、決して好かれてはいなかった。

 むしろ、在籍した痕跡を消されたりもした。

「天才は受け入れられない」

 と肌で感じてはいたが、今更自分の癖を変えられない。

 否、変える気は無い。


 だが、受け入れられないのではなく、正規メンバーの下の研究生というのはどういう事だ?

 自分に何かを学べというのか?

 自分より上の者がいて、それで自分が下なら納得出来る。

 しかし、どう見ても自分より優れた者はいなかった。

 それはスタッフも含めてのこと。

 今更自分に、何かを学ばねばならない、見習いから始めろなんていうのは納得いかない。

「楽しい音楽」を望んでいる彼女モーツァルトだが、その内側にある誇りは捨て切れていない。

 自分は誰よりも優れた音楽家である。

 普段自慢こそしないが、誰それが自分モーツァルトより優れていると聞かされると、その心をへし折るような負けず嫌い、稚気を持った人物なのだ。




 こちらはオーディション主催者側。

 天出優子を研究生から始めさせようと決めたのは、総合プロデューサーの戸方とかた風雅ふうがであった。

 オーディションに参加していた審査員たちは、天出優子は対象外にしようとしていたのだ。

 この辺、モーツァルトが感じた「天才は阻害される」がそのまま当てはまる。

 審査員、スタッフたちは

「天才過ぎて手に負えない」

 と恐怖すら感じていた。


 しかし、映像で確認した戸方Pは

「うん、面白いね、面白いよこの子」

 と満足気であった。

「僕は売れる作詞しかしないから、上手い子を育てられないんだ。

 この子は、多分僕よりよっぽど才能があるよ。

 だから、10年後には凄い歌手になってるね。

 いや、作詞作曲してるかもしれないね」


 だからこそ周囲は反対した。

 持て余す、メンバーの自信を無くしてしまう、自信過剰になって問題を起こすかもしれない、等等。

 むしろソロの歌手として、グループアイドルではなく、芸能事務所に所属させた方が良いのではないか?

 突き抜け過ぎた才能は、何にしてもグループでは手に負えない。


 だが戸方Pは笑った。

「君たちは、この子が何も学ぶものが無いと思っているのかい?」

 周囲は顔を見合わせる。

 自分たちより上の才能、何も教えられるスキルは無い。


「聞き方を変えるよ。

 この子がデビューして、人気出ると思う?

 この子、顔は可愛いよね。

 でも、それだけじゃダメだよね。

 こんなに自信満々で、不敵な表情の子は人気出ないよ。

 ファンやってる人たちは、ちょっと自信が無いような、劣等生の方に保護意識が働くんだよ。

 自分が支えてやらないと、ってね。

 クラスで一番の美人にも寄りつかないんだよ。

 恐れ多くてね。

 むしろクラスで四番目とか五番目とかの娘の方がモテるんだよ」


 周囲は何となく、プロデューサーの言ってる事が分かって来た。

 才能に圧倒されて心が折れてしまったが、アイドルとして見た場合、天出優子は劣っているのだ。

 愛嬌が無い。

 庇護意識をくすぐらない。

 凄過ぎて相手を萎縮させてしまう。

 要は、ファンが付かないのだ。


「だったら、やはり普通の歌手を目指して貰った方が良いのではないですか?

 いわゆるオタク相手のアイドルではなく、本格派の歌手、あるいは作詞作曲までするアーティスト路線の方が良いんじゃないですか?」

 その意見を言ったスタッフを、プロデューサーはじっと見つめる。

「怖いの?」

「いや、そういうわけでは……」

「折角うちのオーディションに来てくれたんだし、もったいないじゃない」

「まあ、そうですが」

「それにね、君が言ったような事、この子、優子ちゃんはきっと理解してるよ。

 子供だからアイドルのキラキラしてるのが好きって可能性もあるけど、多分それが理由じゃない。

 この子、賢そうだし。

 だから、敢えて正統派歌手も、アーティストも選ばないで、アイドルを選んだ。

 その理由も知りたいねえ」


「しかし、この子、言う事を聞いてくれますかね?

 生意気ですよ。

 指導に従わないんじゃないですかね」

 苦々しく吐き捨てるように言ったスタッフとは対照的に、プロデューサーは笑い出した。

「そっちが本音でしょ?

 言葉を飾っていたけど、皆、この子が嫌なんだね」

 周囲は図星を突かれのか、黙っている。

「だからこそ僕は受け入れたいし、この子に足りないものが何なのかも、皆が証明してくれたね。

 そこを育てたいんだよ。

 僕はね、音楽家を育てる事は出来ない。

 でもアイドルを作る事は出来る。

 最初から凄い才能を持った子を、アイドルとして一級品にする。

 これは楽しいぞ〜!!」

「先生がそうまで言われるなら従います。

 愛嬌とか面白さとか、他人に嫌われないような性格さえ付け加えれば良いのですね」

 すると、またもプロデューサーは笑い出す。

「本当に、君たちはあの子に圧倒されて心折られたんだね。

 僕から見ると、ある面では音楽部分でも彼女は未熟も良い所だよ。

 多分交響曲とかオペラとか、そっちの音楽では僕たちなんか足元にも及ばない、将来もっと凄くなるかもしれないけど、こと僕たちの得意分野ではまだまだだね。

 まあ、それは入って来たらおいおい教えるよ。

 あと、僕決めたから。

 僕のコネだけど、ダンス指導にKIRIE先生を呼ぶ」

「KIRIE先生ですか!?

 振付師コレオグラファーとして申し分無いですが、彼女はアイドルでも容赦しないって言ってたから、うちの指導は見合わせましたよね?

 うちはダンスメインのグループじゃないから」

「機が熟したんだよ。

 うちは一歩ステップアップ出来る。

 そして、彼女なら天出さんを指導出来る」

「そうですね」

「歌唱指導は晴山メイサ先生にお願いします」

 スタッフは、プロデューサーの本気さに黙り込む。

 本気で、あの子生意気は天才少女をアイドルに育て上げる気だと。

 敬遠したい気分、圧倒されての畏れの他にある

(アイドルなんかにして良いのか?)

 という気分も、本人が志願して来た事や、プロデューサーがその気になっているのだから、押し殺す事にした。



 こうした経緯から、天出優子にはまず研究生から始めて貰おうという運びとなったのである。

 さて、天出優子モーツァルトが納得するかは、これからの話となるのだが。

おまけ:

プロデューサーや振付師、歌唱指導の人名にはちょっとしたシャレを仕込みました。

以降も人名には遊びを入れていきます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ