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初報酬だ!

 天出優子は小学生ながら、半分プロの芸能人である。

「免除」という形にしているが、形式上はレッスン料が発生する研究生なので、給与は貰えない。

 しかし、単発でテレビ出演、取材に答えたといった事での報酬、いわゆる「ギャランティー」は払われる。

 またグッズ収入、編曲に少し関わった為、その分の報酬もあった。

 編曲料は、元の曲が売れた分に比例する変動収入で、これから更に増えるだろう。

 これは代理人たる親に支払われるのだが、優子の父は

「これはお前が稼いだ金だ。

 お前が管理すべきだ」

 と言って、初めての収入を全額娘に渡す。

「お前がどう管理するか、見ているよ」

 と言っている事からも、娘に資産管理について理解させたい気持ちがあるのだが、もし彼が娘の前世を知っていたなら、絶対に全額渡すなんてしないだろう。


 優子の前世、モーツァルトは浪費家として有名なのだ。


 優子は、貰った金で心がいっぱいになり、もう父親のありがたい言葉なんて耳に入っていない。

 今までせせこましいお小遣いしか貰ってなかったから分からなかったが、比較的大きい金を手にした途端、

「使わないと!

 是が非でも使わないと!!」

 と、どこかの角刈り短足眉毛繋がり警察官みたいに、目が¥マークになっている感じだ。


 使い道は決まっている。

「ファッションだぁぁぁぉぁ!」

 そう、モーツァルトは着飾る事が大好きなのだ。

 自己プロデュースの一環ではあるのだが、ウィーンでは彼の派手な衣装を知らない人はいないレベルのオシャレ好きであった。

 そんな彼が転生した日本の東京は、これまで欲望を抑えつけるには酷な街である。

 ゴスロリだ、ストリート系だ、コンサバだ、ゆるふわお嬢様系だ、80年代風だ、等等トレンドが常に入れ替わる。

 う◯こ好きとか、下品な話題好きとか、中身が男子小学生と似ている優子だったが、ことファッションの話になると、男子ではなく女子としか会話が成立しない。

 今より小さい時から、姉がいる同級生が持ち込むファッション情報を、仲間たちとワイワイキャーキャー言いながら楽しんでいた。

 35歳のおっさんの転生体だと思えば気色悪いかもしれないが、それでも前世からの欲が、12歳になるまで満たされず、こういう形で発散されていたのだ。


 その彼女の手元には、小学生が持つには不相応な程の金がある!

 それはバイトで一ヶ月稼ぐ額と同程度で、貧乏学生とかが知ったらやる気が失せるものである。

 そんた金が欲望塗れの天才音楽家の転生体に渡った。

 彼女は喜び勇んで、渋谷に飛んで行く。


 ちなみに、渋谷以外のファッション発信地を知らないわけではない。

 青山、原宿、秋葉原、銀座なども知っているが、

「あのビルとか、あのテナントとか、何回も近くを通っていたのに、何も買わせてもらえ入店も出来ず、見ていただけの気持ちが分かるか?

 今度こそ買ってやる!

 破産するまで買ってやるわ!!」

 と、渋谷有名ビルに怨念めいた感情で突撃したのだ。


……だが、それが良かったのか悪かったのか。

 渋谷には、他のスケルツォのメンバーもよく来るのである。


「ちょっと待ちな!

 無駄遣いはやめようか!」

 と、グループ最年長の灰戸洋子に見つかり、首根っこ掴まれてしまったのだ。


「げ、灰戸さん……」

「げって何よ、失礼ね」

 この前世の妻コンスタンツェに似ている先輩に、天出優子モーツァルトは逆らえない。

 散財や女遊びで迷惑かけた自覚はあるからだ。

 だが、前世の妻もまた浪費家である。

 夫婦揃ってそうだから、家計は常に苦しかった。

 そして灰戸洋子もまた、ファッションには敏感である。

 新作を常に着こなしていた。


「灰戸さん、私、服を買いに来たんです。

 これって、お仕事の中に含まれますよね?」

 なんとか浪費を正当化しようとする優子。

 大体、このお姉さんだって服が好きなら、止められないはずだ。

 だが、業界歴の長い女性は、まさに「子供の戯言」と意に介さない。


「良い服を選ぶ、それも仕事の内なのは確か。

 だけど!

 だからこそ無駄遣いするなって事よ。

 今時間あるから、付き合ってあげる!」


 頭が上がらない人物に付き添われるのは、いかに女性好きな中の人(モーツァルト)も気が萎える。

 しかし、一方でファッションリーダーとも言われる女性のフォロー付きなら、それはそれで楽しいかもしれない。

 気を取り直して、先輩と共に買い物を続けた。




「これ、良いですね!」

「そう思ったら、全部選んで」

 無駄遣いするな、なんて言って来たからさぞ制限されるかと思いきや、灰戸は自由に選ばせる。

(なんだ、怖がる必要は無かったな)

 そう思って気が緩んだ優子は、欲望全開で服を取りまくった。

「これで満足?」

「この店では。

 気に入ったのはこれくらいで、まだ欲しいです」

「うわ〜、欲が凄いねえ。

 まあ良いわ。

 私の若い時もそうだったから。

 じゃ、口出しするから、黙って見ていてね」

 そう言って、灰戸は服のタグを見ながら、買わない物をバンバン返し始める。


「よし、これだけ買おう」

 ちょっと涙目になってる優子を連れてレジに進む。

 なお、この5着の服でさえ、予算オーバーなのだ。

 中の人(モーツァルト)は、算数は左程得意ではない上に、欲に目が眩むと更にダメ人間になる。


「お子さん用ですね!

 可愛いらしいお嬢さんで、お母様も鼻が高いでしょう」

 12歳の天出優子を連れた31歳の灰戸洋子。

 店員は営業トークで褒めたつもりなのだが、優子には分かった。

(表情にも出さないけど、物凄く傷ついてるぞ……)


 ノーメイクでかつ眼鏡や地味な服装をしていると、別人と言われても気づかない三十路アイドルの悲哀である。


 だが、すぐに気を取り直し

「じゃ、カードで払います。

 領収書下さい。

 宛名は……」

 と事務所名を伝えていた。

 店員は領収書を書きながら、相手の正体に気づいたようで、慌てて取り繕っていたのだが、それはとりあえず無視しよう。


 会計が終わると、灰戸は優子に対し

「分かった?

 私たちが服を揃えるのはお仕事。

 お仕事だから、ちゃんと経費にしないとダメ。

 領収書もきちんと書いて貰わないと。

 こういうの、まだ教えてもらってないでしょ?」

 と言って来た。


 モーツァルトの時代、貴族のお抱えであっても、私服は自腹で揃えるものであった。

 経費精算とか、知らない。

 前世の記憶にも無いし、小学生ゆえに習ってもいない。

 堅実な父親も、それゆえに自分の娘がもう個人事業者のようなものだという意識に欠けていた。

 灰戸が察しないと、優子はただお金を使って終わりだったのだ。

 優子はやっと、無駄遣いするな、の意味を悟った。


「ありがとうございます」

 気位が高い中の人も、これには素直に頭を下げる。

 良い勉強になった。

 だが、勉強はまだ終わりじゃなかった。


「さっき買わなかった服、一週間待って。

 プレゼントするから」

「え?

 買ってくれるんですか?

 ごっつぁんです!」

 そこは「そんな、悪いですよ」と遠慮するところだろ! と思いつつも、そんな気配が微塵も無い優子に苦笑いする灰戸。

 まあ、まだ小学生だしなぁ、と諦める。

 中の人の正体を知ったら、やはり諦めるだろう。

 灰戸は、また優子が知らない世界を教える。


「あそこのブランド、私がプロデュースしてるんだ。

 だから、言えば無料ただで貰えるから。

 買うだけ無駄よ」


 中の人たるモーツァルトは、好きなファッションを身につけるのに、浪費をしなくても出来るという事がこの日最大の衝撃であった。

 そのせいで、金を使う事で得られるある種の高揚感、麻薬のように癖になる快感なく、目的を果たしてしまったのである。




 そして優子は、さらに浪費せずにファッションを充実させられてしまう。

 後日、欲しかったブランド、灰戸がプロデュースしてるそれの受け渡しを目撃した、7女神たちが

「私のお下がりあげる!」

「こっちの方が良いと思うよ」

「きゃー、可愛い!」

 と彼女を着せ替え人形にしてしまったのだ。

 服が大量に手に入ったのに、どこか疲れた優子である。

おまけ:

研究生同期の愚痴交換会:

盆野(ぼんの)樹里「うちはな、虎の縦縞法被を着てたらな、そんなんダサい言われて脱がされて、オシャレなアウターを渡されたんよ。

 関東者には、虎の縦縞の良さが伝わらんねん」

(他3人)(普段から野球の応援グッズで出歩くなよ)

安藤紗里「私はピンクのフリフリの服着ていたら、更にパワーアップされて地雷系女子に改造されました」

(他3人)(照地さんか?

 照地さんだな?

 自分が標的にならなくて良かった……)

斗仁尾(とにお)恵里「私は地元岩手出身のMLB有名選手の顔が大量にプリントされた、前のチーム時代の限定Tシャツ着ていたら……」

(他3人)「どうなった?」

斗仁尾恵里「皆さんドン引きして、なんかかわいそうな者を見る目になり、何もしてくれませんでした……」

(他3人)(自分たちもそうするわ!)


(現実世界では、北海道のS監督ビッグボスの顔が一面にプリントされた服で、堂々とブログに写真載せてるM M。のM野M莉愛ちゃんというアイドルがいますが)

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