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(番外)幼き日の逸話

 かなりの偏見も混じった上で述べるが、長く教師をやっていると、自分の価値感に合わない子供を全否定するようになる事もある。

 ベテラン教師だが、例えば画用紙からはみ出す絵を描く子供には

「ちゃんと描きなさい」

 と叱り、読書感想文で「若きウェルテルの悩み」なんかを選ぶと

「もっと子供らしい本を選びなさい」

 と指導する。

 型に嵌めた子供しか育てられず、はみ出た子供は

「ちょっとお宅のお子さんには問題があります」

 と両親に言ってしまう。

 参観日とか家庭訪問でそんな事を言われた親は、相手が教師という事もあり、それを信じて子供を直そうとする。

 こうして潰されていく個性や才能もあるだろう。




 天出優子が小学生で最初に会った教師は、こういうタイプであった。

 だが6歳の天出優子は、最初から教師を相手にしていない。

 転生前の性格が強く出ていて、学校は楽しむもので、本格的に勉強する場なら行く必要が無いとまで思っていた。

 だから、予想の範囲内の劣等生だった優子は、その担任の標的にはされない。

 目をつけられたのは、別の生徒だった。

 この子は、普段は大人しいのだが、趣味がちょっと変わっている。

 6歳ながら、聞く音楽がロックで、本人もエレキギターを演奏する子なのだ。

 これは家庭環境に影響されたものである。

 上の兄弟の影響で、いわゆるヤンキー系のツッパリソングを口ずさむ。

 ゆえにその教師の標的となった。


 家庭訪問で

「お宅のお子さんは不良に憧れている。

 極めて良くないので、直すようにして下さい」

 と言うものの、兄弟を見れば分かるようにその家庭は「子供の趣味に口出ししない」のがモットー。

 自分の言う事を聞いてくれない事にイラ立った教師は

「〇〇君は不良だから、この問題は分からないよね~」

「変な音楽ばかり聴いているから、出来ないんだよ!」

 と、事あるごとにネチネチいじめ始める。


 だが、使った単語が「音楽」だった事で、6歳ながら中身が享年35歳の天才音楽家を怒らせてしまった。


「あの、先生に一体音楽の何が分かるって言うんですか?」

 ある時、優子は授業中にも関わらず、ネチネチ言っている教師に楯突いた。

 一瞬驚くも、その教師は

「天出さんは優しい子ですね。

 でも、こんな不良に同情しなくて良いんですよ」

 なんて、更に気に障る返答をする。

 カチンと来た優子は

「あんたは、その不良好きとか言ってる子にすら、音楽の感性で負けてるんだよ。

 どこがどう悪いのか、説明出来ないだろ?

 既に自分の好みを持っている子供にすら、劣っている事を自覚して、自分の趣味じゃないからって否定するのはやめたらどうだ」

 と、子供らしからぬ言葉で罵った。


 教師は驚き、同時に怒りに駆られる。

「子供の癖に、何ですか、その口の利き方は!

 貴女も問題児なんですね。

 親御さんにも言っておかないと……」

「問題なのは、あんたの感性の無さだ。

 あんたの問題であり、うちの親とは無関係だ」

「生意気な事を言わない!」

「ああ、確かに生意気だろうね。

 でも、私が生意気なら、あんたは生半可だ。

 感性も知識も技術もろくに無い癖に、自分の貧しい基準で判断し、他人の音楽にケチをつけるしか出来ない俗物だ!」

「先生に向かって、なんて事を言うの!

 言うに事欠いて、知識が無いなんて。

 1年生の癖に生意気よ」

「感性も知識も技術も寛容さも何も無いのは事実でしょ。

 音楽は楽しむもの、自分の好みを押し付けるものじゃない」

「知った事を言わない!」

「は!

 たかだか小学校の教師風情が、この私に対して『知った事を言わない』だと?

 笑わせるな。

 お前がどれ程の者だと言うのかね」

「キーッ!!」


 こんなやり取りがあり、天出優子もまた問題児とされる……ところであった。

 だが、教師はここでとんだ失策をする。


「そんな事を言うなら、勝負しましょう。

 私が一曲演奏してみます。

 それを聞いたら、貴女はこのオルガンで曲を弾いてみてよ。

 それが出来なかったら、土下座して謝りなさい!

 出来っこないでしょ!

 子供の癖に、大人を馬鹿にするんじゃないよ!」

「良いですよ。

 容易い事だ。

 あんたのその思い上がり、叩きのめして差し上げます」


 教師は自分が弾ける最高難易度の曲を用意した。

 それを弾いた上で

「さあ、貴女も弾いてみなさい!」

 とか、常人には無理難題を言ってのける。

 大体、自分が知ってる曲だから楽譜も用意していない。

 普通の子供なら、例えピアノを習っていても、楽譜も無しに初めての曲を耳コピ、再現演奏なんて出来ずに泣き出すだろう。

 だが、天出優子(モーツァルト)は違っていた。

 事もなげに再現演奏をする。

 教室で、先生と優子の喧嘩を泣きそうになりながら見ていた他の生徒たちも、その演奏技術に心を奪われ、聞き惚れていた。


 教師すら啞然とする中、曲は最後まで演奏を終える。

「じゃあ、ここからは私のターン」

 優子はそう言うと、今弾いた曲をアレンジする。

「あ、これ、俺や兄ちゃんが好きな歌みたいだ」

 そう、さっきまで教師にいじめられていた生徒の好きな歌手の曲風に曲を変えている。

「ちょっと、止めなさい!

 そんな事をしたら、曲が穢れます」

 教師は金切り声を挙げるが、優子は意に介さず、

「じゃあ、このアレンジで」

 と、今度はアニソン調のノリの良い感じに変更する。

 途端に盛り上がり始める教室。

「止めなさい!」

 その教師の声を合図に、今度はジャズ風に変調。

 教師が声を挙げる度に、葬送曲風、行進曲風、演歌風と次々にアレンジ。

 教師はやがて、叫ぶ事も出来なくなっていた。


 今まで彼女は、自分が正しいと思って価値観を押し付けて来た。

 何か言われても、理屈や技術で自分が正しいと示して来た。

 だけど、今回はそれが通じない。

 自分の価値感で秀でた才能の芽を摘んで来た彼女だが、どうやら才能の巨木を相手にしてしまったようで、摘む事なんて出来やしない。

 それどころか、圧倒的な才能によって、自分のプライドが崩れていくのを感じる。


 演奏が終わり、優子は教師に言葉を投げうった。

「今、私が演奏した通りに再現してみて下さい。

 私は貴女の曲を再現しましたよ。

 まさか、出来ないなんて言いませんよね」

 そして生徒たちもこれに同調する。

「先生、やってみてよ!」

「優子ちゃんにさせたんだから、自分もやってよ!」

「出来ないの?

 自分は出来ないのに、〇〇君を馬鹿にしてたの?」

「優子ちゃんが言う通り、ぞくぶつ?だ!

 えーっと、ぞくぶつってどういう意味?」


 これで教師は泣き出してしまい、教室の異常を察して見に来た学年主任がこれを知り、問題化する。

 そして、この教師の所業が生徒の口から明かされた。

 今までは、誰か一人を血祭りに上げ、その恐怖でもって生徒たちは何も言えなかった。

 しかし、天出優子に叩きのめされ、泣き出すという醜態を晒した教師を、生徒たちは怖がらない。

 こうして悪事が表に出た教師は、翌週から教育委員会付に転勤となり、教頭が代わりに教えるようになった。


 そして学期が代わり、新担任が赴任して来る。

 彼は、前任がどうして解任されたのかを知らされていた。

 それでも、天出優子という少女に興味を持ってしまう。


「天出さん、僕と一曲勝負してみない?」

「え?

 面倒くさい。

 なんでですか?」

「いやあ、噂は聞いていてね。

 どんなものなのか、見てみたいんだ」

「優子ちゃん、やってやりなよ!」

「そうだ!

 前のあいつみたいに、やっつけてしまえ」

「いや、あの先生みたいな悪い人じゃないよ。

 でも、挑まれたからには引き受けます。

 叩きのめして差し上げます」


 こうして、担任や音楽教師潰しと呼ばれた天出優子の授業後演奏会が始まった。

 最初は挑まれて、後には習慣として。

おまけ:

品地レオナの小学生時代はこんな感じ。

教師「じゃあ、夏休みの宿題出して下さい」

生徒たち「は〜い!」

教師「…………品地さん」

品地レオナ「はい」

教師「絵日記を親に手伝ってもらったでしょ。

 素直に言いなさい!」

品地「私が全部書きましたけど」

教師「絵が上手過ぎます。

 デッサンとかした人の絵です」

品地「だから、私の絵ですってば」

そう言って、教室のホワイトボードにサラッと絵を描いて証明して見せる。

教師「……分かりました」

彼女が図工の時間に作った粘土細工、似顔絵、彫刻、その全てが子供の作どころか、教師のレベルすら超えていた。

だが、彼女が新進気鋭の小学生芸術家と知られる事はなかった。

あまりにも上手過ぎて

「大人の作品を子供の名前使って出したらダメだよ」

と、各種コンクールでは落選していたからだ。

天才が中々受け入れられない世間がそこにあった。



おまけの2:

品地レオナが、同級生・近藤理沙の似顔絵を描いた。

その素晴らしい絵を見た、男子の吉良君はこう述懐する。

「理沙さんの絵、膝のところで組んでいる『手』……。

 あれ……初めて見た時……、

 なんていうか……その……下品なんですが……フフ……勃(以下略)」

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>おまけの2 おいばかそいつを止めろ
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