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丸くなるな!

 その日、天出優子はレッスン終了後にプロデューサー・戸方風雅から呼び出される。

 特に何も問題行動を起こしていないはずだが……優子はそう思っていた。

 戸方Pはニコニコしている。

 だがこいつの目は、常に笑っていない。

 常に何か思惑を持っている感じだ。


「天出さんさぁ、最近大人しいよね」

「あ、はい」

 散々注意されたから、行動を控えているとは言えない。

 それは、基本的には治っていないという発言だからだ。

 処世術を発揮している優子だが、戸方Pは思わぬ事を言う。


「いいよ、猫かぶらないで。

 外の仕事の時に相手に迷惑をかける事をしないのと、ファンに対して暴言吐かないよう矯正はしたけど、それで君の個性を殺す必要はないよ」

「はあ?」

 思わず間抜けな反応をしてしまった。

 天真爛漫に振舞っていた子供時代に対し、最近では学校でも年相応の振る舞いを求められる。

 多様性とか何とか言われていても、やはり女子は女子らしい振る舞いをしないとならない。

 昔のように、男子に交じって虫取りとかしていたら浮いてしまう。

 だから、前世で宮殿にいた時のように、礼儀正しくしていた。

 あくまでも「モーツァルト基準で」の話だが。

 それなのに、このプロデューサーは「その必要はない」と言っている。

 どういう事か?


「僕が君に求めているのは、その才能をフルに発揮してもらう事だよ。

 君の一番の個性は、その才能だと思ってる。

 多少のしつけは必要だったけど、それが才能を封じるものなら、無くても構わない」

 よく分からない感じの優子を見ると、戸方Pは更に続けた。

「ミハミハとかと接していると分かるんじゃないかな。

 あれだけ好きにやってもいいんだよ。

 あと灰戸とかも面白いよ。

 さっき僕は、ファンに暴言吐かないようにって言ったけど、彼女は

『うっせー、ばーか!』

 とか言ってるからね。

 それも個性として認められている」

(結局、何が言いたいんだ?)

 表面的な事は分かるが、まだ真意が見えない。


「今まで、僕はファンに受け入れられやすい音楽と、アイドル集団を作って来た。

 君もコンサートを観に行ったようだけど、『フロイライン!』のような尖った集団は扱えない。

 だから今までの『スケル(ツォ)』は、言い方は悪いけど無難なアイドルだったんだ。

 だけど、次第に個性が強い子が揃って来た。

 次の段階に進んでも良い。

 君に『出来ないメンバーに合わせろ』と指導したのは、今までの『スケル(ツォ)』をやっていく為だ。

 それは捨てない。

 今までの曲は立派な財産だし、ファンはそれを求めている。

 だけど、次の段階では出来ないメンバー基準じゃない。

 皆が好き勝手に実力を出し、それを調和させていくんだ。

 だから、君も好きに振舞って良い。

 その方が実力を発揮出来るだろうから」

 一通り聞いて、優子はやはり聞かざるを得ない。

 一体自分に何を求めているのか、を。

「聞いて良いですか?」

「何だね」

「先生は私に何を求めているのですか?

 アイドルとしての完成ですか?

 編曲家としての実力ですか?

 それ以外の別のものですか?」

「それ、全部」

「え?」

「全部ひっくるめて、お客さんが喜ぶ音楽を作る人になって欲しい。

 自分が演じても、歌っても、演奏しても楽しませてくれる。

 自分が書いた曲でも楽しませてくれる。

 もっと大きく、プロデューサーとしてもそうだ」

(それは、確かに自分がやりたかった事だ)


 楽しい音楽を求め、転生してそれを見い出した天才音楽家だが、やりたい事が多過ぎてフラフラしている部分がある。

 楽しい音楽を見せたいから、本人の性癖も加味してアイドルを目指した。

 だけど、自分で音楽も作りたいし、最近では誰かを指名してそれに曲を作る「プロデュース業」にも興味が出て来ている。

 それを見透かしたかのように、全部をしろ、と言ってきやがった。


「君は、指揮者としての視点を持っている。

 さらに作曲家としての視点も持っている。

 客観的に自分を見て、足りない部分が分かったと思うけど、それさえ自覚していれば、むしろ天真爛漫、いや傍若無人に振舞っても良いよ。

 その方が絶対に面白い。

 責任は僕が取ろう。

 まあ、やり過ぎたら追放するって事くらいは覚えておいて欲しいけど」

(怖いおっさんだな。

 結局、最後までは責任取らないって言ってるじゃないか)


「ですが、そのやり過ぎってのを散々注意されています。

 スタッフさんに注意されるのに、先生はやれ!と仰います。

 私はどうしたら良いのでしょう?」


 これに対し、戸方Pは溜息を吐き

「スタッフは、正直僕の思いを理解出来ていない。

 彼等は君が怖いようだ。

 才能があり過ぎて、扱えないと思っている。

 僕が最低限、芸能界でやっていけるよう教育してくれ、と頼んだのを曲解した。

 彼等は、彼等が扱える程度に君を型に嵌めたいようだ。

 彼等も君の才能は認めている。

 だから、人間的に言う事を聞くようにすれば、それで制御可能になり、怖くなくなる。

 それじゃ駄目だよ。

 誰かのコマとして動く人間に、良い作品が出来るとは思えない。

 君はもっと奔放であるべきだ。

 それこそが、君の才能を発揮する道だと思う」


 天出優子の前世、モーツァルトは宮廷音楽家を辞めた時を思い出す。

 型に嵌められ、礼儀作法でがんじがらめ(彼の感想)にされながらも、良曲を作った自信はある。

 だけど、彼はその先を求めた。

 それで堅苦しい(彼の感想)宮廷を飛び出し、庶民の中に入っていった。

 その方が、もっと良い作品を作れると思ったからだ。

 今、転生した先で同じような事を他人から言われる。

 これは面白いじゃないか。

 今まで不審顔だった天出優子の表情が、野心に満ちた笑顔に変わっていくのを感じる。


「いい笑顔だ。

 凄く大それた事をしそうに思う。

 じゃあ、僕の野心も話すね。

 僕は俗物さ。

 富が欲しい、名誉が欲しい、色んなものが欲しい!

 音楽はその為の道具のような部分がある。

 それを自覚した上で、やっぱり僕は音楽が好きだ。

 だけど、悲しいかな、僕には才能が無い。

 僕にあるのは、今までのノウハウだけだ。

 今までのアイドルって言われる歌手・作詞作曲家・スタッフを合わせた集団がやって来た事を消化し、最大公約数のようなものは作れる。

 だけど、そこから飛び出す事が出来ない。

 だから、僕には協力者が必要だ。

 幸い、僕は芸能界でずっと生きて来て、人脈はある。

 スケル女のメンバーにも、面白い子が揃って来た。

 君は、もしかしたら最後のピースなのかもしれない。

 これで次の段階に進める。

 色んな意味で、その才能を僕に貸して欲しい」


 まあ、こういう野心は歓迎だ。

 教会とか貴族とかで、表面は取り繕っていても、内心は欲望の塊だった者も見て来た。

 音楽に出資しながら、それは自分の名声の為だった者もいる。

 堂々と自分の欲を語り、その上でまだ音楽が好きだと言う。

 面白いじゃないか。


「分かりました。

 一緒にやっていきましょう!

 ですが、もしかしたら私と先生の理想が食い違い、プロデューサーとして独立して自分の思った楽しい音楽を作る、裏切り者になるかもしれませんよ。

 それで良いですね?」

 被っていた猫を投げ捨て、本性を顕わにする優子の中の人。

 戸方Pは

「おお、怖いねえ。

 でも、だから良い!

 その気概を失わないで欲しい。

 まあ、まだ君は僕に及ばない。

 こと、アイドルをプロデュースする能力においては、僕は君より上だからね。

 だから僕は君を恐れない」

「怖いって言ったり、怖くないって言ったり、どっちなんですかね。

 まあ、良いです。

 先生が持っているプロデュース能力というのを、学ばせてもらいますよ」

「君が僕のノウハウを吸収し尽くすのを、楽しみにしているよ。

 そうなるまでに、きっと僕たちは良い作品を数多く残せると思うよ」

 と手を差し伸べて握手を求めた。




 天才は、枷を外された。

 なお、枷を外されたのは「自由奔放なモーツァルトの転生体」でもある為、この2人以外に迷惑が及ぶのだが、そこは気にしないでおこう。

おまけ:

戸方Pに「そのままの自分でいいよ」と言われた結果

灰戸洋子「ドルオタを貫き通します!」

暮子莉緒「レトロ趣味を馬鹿にされてもやめません!」

品地レオナ「興味ある事、全部やります!」

辺出ルナ「趣味を実益にします!」

照地美春「可愛いものは、可愛いと思った時に可愛がります!」


馬場陽羽「……てな連中を束ねるのって、結構大変です。

 ちょっとは自重してくれ!」


個性というアクが強過ぎる人たちのリーダーって、器が大きくないと務まらないというか……。

(他にも極度の野球好きとか、普段とライブ時で全く違う二重人格とか、感性がどこか盛大にズレてるとか、普段は言ってる内容が全く理解出来ない電波人間とか、色々なメンバーがいるのです)

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