表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/160

厳しいと評判の先生からのダンス指導!

 アイドルグループ「スケル(ツォ)」のメンバーは、この4月から手と足に重しをつけて体力作りを命じられている。

 天出優子他、多くのメンバーは不満を持ちつつも、このダサいトレーニング用具を装着していた。

 最年長の灰戸洋子や、7女神と呼ばれる人気メンバーは、そんなダサいものは着けていない。

「ブーツの中に入れてみた。

 効果は同じで、見た目がダサくない」

「ハンドウォーマーとか、レッグウォーマーみたいにしたよ」

「うさちゃんの手袋みたいに加工したよぉ~。

 可愛いでしょ?

 でも、重いんだよ」

「私の日舞専用のスタイル、鉄下駄にしてみました」

……一人、普通にウェイトを着けるよりダサくなったメンバーもいるが、概ね彼女たちは「同じ効果で違う見た目」のものを装着し、言われた通りに体力増強を行っている。




 その日のダンスレッスン、ついに彼女は来た。

「はい、今日から皆さんのダンスを指導するKIRIEです。

 腕と足の重りは外して結構です。

 まずは、普通に今までの曲で踊って下さい」


 スケル女で一番ダンスが激しい曲で、口パクのままダンスをする。

 それを見終わったKIRIEは、まず酷評した。

「あのさぁ、そんなドタバタした動きでどうするの?

 皆で揃ったステップくらい踏もうよ」


 これはスケル女の振りの弱点でもあった。

 手を動かすダンス、回る程度の動きでは綺麗に揃う。

 しかし、口パクにしないとならない激しいものだと、どうしてもバタバタしてしまう。

 それが「一生懸命さ」であるとして、ファンたちは擁護しているものの、振付師(コレオグラファー)は違っていた。


 一回厳しく叱責した後、KIRIEは今後の事について説明する。

「ドタバタしてるのは、揃っていないだけではない。

 跳び方、着地の仕方も下手だから。

 それは基礎が出来ていないから。

 まあ無理もないね。

 この中には、ダンスを習って来た子もいれば、歌メインでダンスは下手な子もいる。

 そして、振りつけは下手な方に合わせるから、普段のダンスは緩やかなもの。

 コンサート中、1曲か2曲、ダンスの激しいがあるけど、全体としては慣れていない。

 出来ている子のステップに、下手な子のステップが重なると、グループとしては下手になってしまう。

 だから、私は全員の底上げをしたい」

 その為の体力作り兼、軽やかな動きの為の筋力増強が、第一段階である。


「次に、今から名前呼ぶメンバー、前に出て」

 そう言って何人かが皆の前に出た。

 KIRIEがダンスセンスは認めた李友里を始め、7女神からは八橋けいこ、品地(ひんち)レオナ。

 最年長灰戸洋子も呼ばれる。

 本人も意外だったが、天出優子も研究生ながら呼ばれていた。


「じゃあ、今から流す曲に合わせてステップ踏んで。

 手の振りはいい。

 立ち位置の変更とかは、しっかりやって」

 そう言って、また別の曲を流す。

 このメンバーはダンスは出来る方だから、上手に終わったように見えた。

 だが、KIRIEはそれにも合格点を与えない。


「君たちは何だ?

 アスリートか?

 プロのダンサーか?

 それならまだレベルが低いのだけど、私たちはそれを求めていない。

 君たちはアイドルだろう?

 どうしてマイクを握った手がフラフラしている?

 確かに手の振りはしなくて良いと言ったが、左手が遊んでいるのはいただけないな。

 あと、どうして体の軸がぶれる?

 頭の位置が安定していない?

 要は体幹が鍛えられていない。

 それで、歌って踊る事が出来ると思うのか?」


 この指摘に、リーダーである馬場陽羽(ひのは)が反論した。

 ヘッドセットを着けるから問題ない、と。

 だがKIRIEは首を横に振り、

「あれでは歌をちゃんと拾えない。

 君も分かってるだろ?

 あれは口パクを誤魔化す為の道具だって。

 歌手がマイクの一つも持たずに踊っていたらおかしいから、アリバイの為にマイクらしいものを着けているだけだって事をさ」

 ぐうの音も出ない。

 実際にヘッドセットマイクを着けて歌う事もあるが、感度は高くしないとならない。

 ゆえに「はあ、はあ……」という荒い呼吸音も拾ってしまう。


「腕にも重りを着けている意味、分かりますね?

 長時間歌っていると、マイクホールドが怪しくなります。

 ダンスと組み合わせると余計に、です」

 意図を色々説明した上で、何人かのメンバーを注意する。

「君たちは、どうしてこんな重りを着けるのか、理由を知らなかったとはいえサボったな?

 振りを見て、分かったよ。

 今日は不問にするけど、次回までにはちゃんとトレーニングしときな」


 更にKIRIEは体力作りの意味を説明する。

「私は、アイドルのコンサートのダンスに100%を求めていない。

 全力ではなく70%のダンスで十分だ。

 さっきも言ったけど、君たちはアスリートでもプロのダンサーでもない。

 一生懸命のダンスなんかより重要な事がある。

 歌う事、ファンの歓声に応える事。

 それをするには、余力が必要だ。

 100%では余力がない、だから70%にして余力を作れ。

 今の君たちは、出来ない方に合わせている。

 だから、ダンスが得意な子は余力を持てる。

 その余力を使って、ファンに手を振ったり、アドリブをしたりして楽しませている。

 これが全員全力だと、そんな余裕は無くなる。

 すると、コンサートを見に来たお客さんは、良いものを見たとは思うけど、面白いものを見たとは思わない。

 だから、将来の君たちの倍の能力になって欲しい。

 つまり200%の力を持つ。

 そうすれば、その時の70%っていうのが、現在の君たちの140%になるだろう。

 今の倍の体力があり、今の倍動けるようになれば、全力を出さなくても、今よりずっと激しいダンスをしながらファンにサービス出来る余裕が持てる。

 それが体力作りの意味だ」


 天出優子は聞きながら、自分の価値感と同じものがあると思う。

(この女性も、基本は楽しい音楽を目指しているんだ)

 やり方はかなり厳しい。

 スパルタ指導なら、前世でいくらでも見て来た。

 ダンサーには、雇用主の期待に応えられるよう、時には鞭打ちまでされて特訓されていた。

 しかし、この女性のやり方は違う。

 全体的なパワーアップをしてから、細かい技術、特化した技術を教える。

 とにかく基礎、基礎、基礎と言う。

 だが、基礎の積み重ねの上に技が宿るのも一理ある。

(努力ってのは大事なのだ。

 私は作曲家とは努力をし続けるべきだと思っている)

 意外かもしれないが、モーツァルトは努力家でもあるし、その重要さを理解している。


 そんなこんなで、KIRIE先生が来ての最初のダンスレッスンは終わった。

 帰り際、優子は先生から呼び止められる。


「君はさ、リズム感は抜群に良い。

 ドタバタした感じはない。

 だけど、上体の使い方が致命的に下手くそだ。

 それがダンスの下手さに繋がっている。

 理由は筋力が無いからだろう。

 手を振り回してからとか、上体を屈めた時とか、復帰が遅い。

 理由は分かっている、だから上達出来る。

 そこで、だ……」


 優子はうんざりした。

 中の人は「マイクより重い物は持ちたくない」と思っている。

 そんな優子に対し、

「重りは成長期の子供を歪める危険性があるから、このメニューをこなしなさい」

 と、腹筋や腕立て伏せ、スクワット等のトレーニングメニューを書いた「冊子」を手渡された。

 KIRIE先生お手製のもので、今は小柄で華奢な天出優子に特化したメニューである。

 なのに、やたら分厚い。

 表向き「はい」と答えたものの、内心

(やってられるか!)

 と毒づいていた。


 まあ、他にも同じようにトレーニングメニューを渡され、中にはDVDで具体的な動きまで指示されているメンバーもいる事を確認し、気分を直す天才音楽家であった。

おまけ:

灰戸洋子「ふっふっふ……私が筋力をつけている秘密兵器を見せてあげよう!」

(一同)(また変なの持って来たんだろうなあ……)

灰戸洋子「じゃーん!

 アポ〇エクササイザー!!」

(一同)(何なんだ、それは?)

暮子莉緒「それ、『リ〇グにかけろ』で使ってたやつじゃないですか?」

天出優子「まあ、このパワーリストも『〇ンかけ』で主人公が使ってましたが」

灰戸洋子「分かるのは君たちだけかぁ!」

(一同)(もしかして、また昭和の少年漫画なのか?)


女子だけで集まって喋っている時、案外キ〇肉マンとか、魁!〇塾とか、男臭い漫画の話で盛り上がる事もあるそうで……。

(令和女子の肉マニアとか、桃か富樫かJか論争ってのを知ってまして)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ