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天才音楽家は己を曲げない!

「諸君、私は女の子が好きだ。

 諸君、私は女の子が好きだ。

 諸君、私は女の子が大好きだ。

 スレンダーが好きだ。

 ムッチリが好きだ。

 色白が好きだ。

 日焼け肌も好きだ。

 学校で、公園で、ショッピングで、プールで、

 あらゆる所の女の子が大好きだ!」


 これをオッさんが叫んでいたら通報ものだろう。

 だが、これを叫んでいるのは11歳の女の子である。

 中の人はともかく、女の子が女の子を好きだと呟いている。


「何も知らない生娘が好きだ。

 色々教え込めると思うとゾクゾクする。

 耳年増の女の子が好きだ。

 少女漫画と現実の違いに気づいた瞬間の表情を想像すると、絶頂さえ覚える。

 クソ生意気な女子が好きだ。

 蔑んだ目で見下されるのは悲しいものだ。

 ドSな女が好きだ。

 踏みつけられ、唾を吐かれるのは屈辱的だ」


 ドイツ語話者はこんな奴ばかりじゃない!と天の声が聞こえるので、これ以上は控える。

 とにかく、女の子が女の子を好きでも許される風潮かつお年頃であっても、こういう変態思考だとドン引きされるだろう。


 天才だがド変態な部分を持つモーツァルトが転生した天出優子は、人が居ない場所でひとしきり言葉を吐き終える。


「ふう、スーッとした。

 分かるさ、私がオーディションを落とされた理由くらいはね。

 要は、魂に刻まれた記憶、このウォルフガング・アマデウス・モーツァルト様の性的情動リビドーを抑え切れなかったのが良くなかった」


 天出優子の中の人は、自分の落選をしっかり分析している。

 思えば、小学校でも同じ事して、親を呼び出された。

 彼女は情動が抑え切れない時がある。

 だが、そういう時は恐ろしい勢いで曲が作り出せるのだ。

 天才の負の面というべきか。


 前世において、一時期同居していたベートーヴェンは、トイレに入ったと思ったら、排泄後にトイレットペーパーを楽譜にして一曲書き上げて出て来たモーツァルトを目撃している。

 奥さんと猥談とウ◯コ話をして笑い転げたその夜、一睡もせずに協奏曲を新規で書き上げたりする。

 同じく音楽界の巨匠となるベートーヴェンをして、モーツァルトの奇行と鬼才は驚くべきものであった。




「私は下品なんだ。

 母からしょっちゅう怒られてるし、分かってはいる。

 だけど止めようが無い。

 どうしようか……」


 悩んだ末に、天出優子モーツァルト

「それでもOKな事務所のオーディションに行こう」

 という結論に達した。

 直す気は全く無い模様。


 そして彼女モーツァルトが直さないとならない悪癖は、女好きだけではなかった。


 次に受けたオーディションは、大手アイドルグループのもので、倍率も非常に高い。

 彼女が先に別事務所のオーディションを受けたのは、倍率高い方に怯えたからではない。

 どこでも良いと思っていたからだ。

 ファンが熱く、盛り上がるグループを狙ってはいたが、基本的に

「自分が居れば、どのグループも宝を手に入れたようなものだ」

 という自信がある。

 これは彼女が思い上がっているからではない。

 前世モーツァルトの頃から、意識せずにこうなのだ。


 今回のオーディションでも、優子は無双しまくる。

 音楽については、才能が違い過ぎるし、ダンスについても、一回オーディションを経験した事でステップやら、歌いながら踊る為のマイクホールドなんかを覚えてしまった。

 歌やダンスで他の候補者の心を折りまくる。


 だがこのグループは音楽性を求めていない。

 凄いダンスも求めていない。

 テレビで活躍出来るスキル、コアなファン向けの愛嬌なんかが必要なのだ。

 だから、面接では特技とか話術とかを確認される。


「ナンバー627、入りなさい」

「はい、失礼します」

「では自己紹介をして下さい」

「はい、天出優子です。

 東京都出身、小学五年生、11歳です。

 特技はチェンバロ……じゃなくてピアノ演奏です」

「えーっと、チェンバロって」

「すみません、気にしないで下さい」

「年齢の割に、受け答えが大人っぽいですね」

「緊張してるから、そうなっちゃったかもしれません」

「普段はもっと子供っぽいの?」

「多分……」

 そう言ってモジモジする。

 この辺、現代を生きる女の子として過ごしているだけあり、如才ない。


「では、この曲を弾いてみて下さい」

 それはこのグループの次のアルバムに入る曲で、世間には知られていない曲であった。

 ありきたりの曲を弾かせるのではなく、未知の曲を見せて試してみたのだ。

 審査員たちも、この受験者が音楽の才能は凄まじいと聞いていた。

 だから無茶な要求をしてみた。

 この隙の無い少女が、出来ませんと泣いた時、どんな素になるのか見たかった。


 だが、相手は化け物である。

 楽譜を流し読みしたら

「ああ、こういう曲ですか」

 と言って、その通りに弾いてみせた。


 ここまでなら、普通の音楽家でも可能なレベルである。

 そして、ここまでで留めておけば可愛いものだ。

 ここで、素の悪い部分が出てしまう。


「こうすれば、もっと良いと思います」

 と、アレンジして弾き始めたのである。

 その才能に驚く周囲。

 その中に、苦虫を噛み潰したような表情の人が居るのに、優子は気づいていない。

 その人こそ、この曲を作った人なのだ。

 優子モーツァルトは無意識に、作曲者のメンツを潰している。

 アレンジ後の方が良いものなら、それだけメンツ丸潰れであろう。


 そこまでに留めておけば良いのだ。

 そこまでなら、作曲や編曲が出来る人という範疇に留まる。

 ちょっと良い所を見せようと張り切っている優子は、

「ちょっと楽譜を逆さまにしてみますね」

 と言って、上下反転させた楽譜から、自分なりに編曲して即興演奏をしたのである。

 ここまで来ると、最早異常である。

 審査員たちは、驚愕を通り過ぎてドン引きしている。

 メンツを潰された作曲家すら、憤りを通り越して、信じられないものを見ている表情になっていた。

 世の中、こういう厭味な人物は多少なりとも存在する。

 あえて他人の曲を、自分ならこうすると見せつけてやるのだ。

 だが、それが11歳の少女というのは異常だ。

 まして、何回も聴いて、考えてしたのではない。

 初めて楽譜を見て、即興でやってのけた。

 更に、彼女は作曲家に恥をかかせる為に、嫌がらせで凄い事を見せているわけではない。

 自分が楽しみながら演奏している。


 天才は、自分の天才ぶりには気づいているが、それが他人をどれだけ傷つけるのには無頓着であった。

 彼女は他の候補者だけでなく、審査員の心すら折っていたのであった。

おまけ:

冒頭の某少佐風心の叫び、

決して作者の性癖を晒した訳ではないです。

実在のアイドルをモデルにしてます。

その変態1号は

「大人の体になりかけてる女の子が……」

とか、実際にほざいてましたので。

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