公開だぁッ!
とある平日、天出優子は父の礼央と共に登校。
そのまま職員室、校長室へと入って行った。
実は、校長・教頭そして学年主任及び担任は、既に優子がアイドルグループオーディションに合格している事を知っていた。
大人は流石に口が固い。
予め報告しておいても問題はないどころか、知らせておかないとフォローして貰えない。
父の礼央が
「娘も途中で飽きて、辞めるかもしれませんから、大っぴらにはしないで下さい」
と言っていた事もあり、放課後に塾通いしているのと同じ扱いになっていた。
しかし、この度芸能活動が本格化する。
メディアで発表される為、校内でも知る生徒は当然出る。
混乱が予想された。
同学年で同様にアイドルに合格した武藤愛照の所は、いわゆるローカルアイドル、ライブアイドルの系統な為、大騒ぎにはならない。
だが、スケル女は違う。
大阪、広島に姉妹グループを持つ巨大な集団で、メディア露出も大々的だ。
そのメンバーが出たともなれば、校内がパニックになるだろう。
さらに、ここのグループはファン、オタクの熱狂さでも厄介である。
小学校周辺に、熱いオッカケと呼ばれるファンが出没する事が予想される。
更に、特定班だのパパラッチだのが現れる危険性だってある。
だから、父娘は学校に報告しておかねばならない。
その場で、優子は担任に相談した。
「クラスメートには、私から話して良いですね?」
担任は少し考えた後、
「朝の会で話しましょう。
優子さんの口から、皆に伝えて下さい」
という運びとなった。
クラスメートは、少なからず動揺したものの、案外大人の対応をした。
優子の口から
「黙っていてごめんなさい。
でも、まだ本契約になるか分からなかったし、契約してない時に自慢して、それで駄目でしたってなったら皆に嘘つくような感じになるから、その時は言えなかったんです。
あと、事務所の方からも言うなって言われていて」
と謝罪され、説明された為、受け容れたのだ。
「まあ、優子ちゃんなら仕方ないか」
と女子は認めている。
彼女たちは、アイドルの音楽性を馬鹿にする程、まだスレてはいない。
だから音楽の天才に見える天出優子が、そっちの道に進むは、半分は納得出来る話なのだ。
昔から、先生をも圧倒するような子だから、どこか違っていたのだ。
男子は、大分大人になって来たとはいえ、やはりガキである。
朝の会が終わると、途端にソワソワし出した。
そして業間休みに入ると、今まで余り話して来なかった生徒すら、優子の席の周りに群がった。
そして
「ミハミハ(照地美春)と会った事あるの?」
「ルナっち(辺出ルナ)は?」
「しゅーちゃん(帯広修子)と話した?」
と、こんな感じ。
(まあ、芸能人になったからといって、いきなり私のファンにはならんよなあ。
去年、一昨年まで一緒に虫とかいじってた女なんだし。
にしても、こいつらは……)
とミーハー男子に呆れ、乾いた笑いでいなしていた。
にも関わらず、この騒動がクラス外に漏れなかったのは意外である。
妙な所で団結し
「優子ちゃんを騒動から守ろう」
とクラスが意思統一したのだ。
それは翌日に効果を発揮する。
その夜、テレビで天出優子たち新研究生が発表される。
視聴率からいって、小学校の5分の1程度の生徒が見た程度だ。
だが、同学年の生徒は、それが自分の学校の子だと気付く。
爪を隠す気がない能ある鷹な為、物凄く目立つ生徒だったからだ。
天出家は、確認の電話が鳴り響く。
「見ての通りです」
「娘が選んだ事で、親としては応援するだけです」
「迷惑を掛けるかもしれません。
それは先に謝りますね」
こういう時、母親が上手くあしらってくれた。
(ついに公表されたな)
ふてぶてしい中の人も、この夜ばかりは妙に興奮して眠れなかった。
転生し、父が言うように普通の人間として過ごす道もあった。
だが、これでもう後戻りは出来ないのだ。
翌日、父の車で登校すると、噂を聞きつけた生徒たちが群がって来る。
だが、
「はい、今の優子はアイドルじゃなく、この学校の生徒!
登校の邪魔をしないの!
応援するならコンサートとかイベントに行ってね!」
と、同じクラスの生徒たちが壁を作って優子を保護してくれたのだ。
良いクラスメイトに恵まれたな、と感謝する一方
(それはどうにかならなかったのか?)
と、「天出優子親衛隊」という揃いのタスキに苦笑を禁じ得ない。
そんな一団を追いかけるのではなく、前に立ちはだかった者がいた。
「天出優子ぉぉぉぉ!!!!
なに、私を出し抜いているのよぉぉぉぉ!!!!
余裕ぶっこいてると思ったら、そういう事だったのね!!
あんた、私のデビューも裏では鼻で笑ってたんでしょ!!??」
そう、先日自分こそアイドルデビューすると自慢していた武藤愛照である。
「あ、武藤さん、おはよう」
「おはよう!
で、なによ昨日のテレビ番組は!!」
「見たままだけど?」
「なんで貴女は、スケル女でデビューするのよ!」
「いや、研究生だから。
まだ正規メンバーじゃないから」
「だとしても、よ!
どうして私に黙ってたのよ!」
「いや……言う義理あったっけ?」
「あんたねえ!!」
一方的にライバル視し、突っかかって来る愛照にクラスメイトが応戦する。
「優子ちゃん、私たちには先に教えてくれたし」
「あんた、違うクラスなんだから、知らなくて当然でしょ」
「優子ちゃんにも事情があったんだよ」
「マイナーアイドルが、スケル女様に嫉妬してんじゃねえよ」
「……男子、それは言っちゃ駄目な台詞」
「悔しかったら、お前もミハミハとか連れて来てみな」
「……それ、あんたの願望でしょ」
てな感じで、登校前から騒ぎになった為、校長の判断で臨時全校集会が開かれる事になった。
そして、全校生徒の前で、改めて優子は自分がスケル女の一員になった事を告げる。
研究生である事、まだ正規メンバーじゃないから騒いで欲しくない事、他のメンバーに会いたいとか言っても取り次げない事、マスコミとか一部のファンが来て迷惑を掛けるかもしれない事、これから仕事によっては学校行事に参加出来なくなるかもしれない事、等等を自分の口から説明した。
そして、低学年とかはまだ落ち着かない様子だったが、それでも騒動は沈静化する。
が!
放課後に、鎮まった騒動を再び焚き付ける、鎮火した筈の火種にガソリンぶちまける事態が発生した。
優子が親衛隊たちに囲まれて校門を出ようとした時、
「あ~、ゆっちょ~!
ゆっちょ、下校風景も可愛いね~」
という、間の抜けた声が聞こえて来た。
天出優子親衛隊の生徒たちすら、キャーキャー騒ぎ出す。
「……照地さん、なんでここに居るんですか?」
「え~、ミハミハって言ってくれないと悲しい~。
美春、泣いちゃう~」
「天出!
今すぐミハミハって呼んであげて!
ミハミハが悲しむだろ!」
「あ、私、優子ちゃんを守ってあげてて……」
「あー、ゆっちょのお友達なんだ~!
よろしくねえ」
そう言って親衛隊の女の子と無料握手。
感極まって泣き出す同級生。
我も我もと群がって来て、校門は次第にパニックになって来る。
照地美春は気にする様子もなく、上手くあしらっていた。
「で、本当になんでここに居るんですか?」
美春と肩を並べ、群がる生徒たちを落ち着かせながら優子が尋ねた。
理由はたまたま仕事と仕事の合間で、移動中に優子の通う小学校の近くを通るから
「来ちゃった」
との事。
「騒動になるような事するな、ってスタッフさんに言われてましたよね!」
(なんで百年以上常識がズレている自分が、常識について語らないとならないんだ?)
と説教するも
「次の現場一緒だよね。
まだ時間あるから、デートして、一緒に行こうよ」
と気にする気配もない。
「ねえ、ゆっちょを連れて行っていいよね?」
「いいとも~!」
「うわー、皆、ノリがいいねえ!
大好きだよ~!」
「キャー!」
またも熱狂する親衛隊。
もう一体誰の親衛隊なのか分かりやしない。
結局、握手やサインをして味方にした同級生の同意……というか積極的後押しの元、照地美春は天出優子を拉致……いや同伴出勤させていった。
「親衛隊とか言いながら、裏切り者どもめ……」
恨み節を残す優子。
それを陰から眺めながら
「いつか!
いつの日か私も同じステージに上ってやる!」
と血が出そうなくらい拳を握りしめて誓う、自称「ライバル」の武藤愛照であった。
おまけ:
校長「今後も君の事をメンバーが迎えに来るとかあるのですか?」
天出優子「ないです! というか、来させません!
あれはあまりにも迷惑な行動です!」
校長「いや、来るなら来るで良いですよ。
その場合、事前に連絡してもらえれば……」
天出優子「あの、校長先生?
もしかして、来て欲しいのですか?」
校長「まさか、そんな個人的な欲求で言っているわけではありませんよ。
で、今後、灰戸洋子さんがいらっしゃる予定は?」
教頭「暮子莉緒さんとか、来ないのですか?」
天出優子「あんたらなあ…………」
教訓:ヲタクは案外近くに潜んでる