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転生モーツァルトは女子アイドルを目指します  作者: ほうこうおんち
偶像(アイドル)でもあり創造者(クリエイター)でもあり
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合作!

「……というわけで、武藤さんと天出さんで合作してみましょう」

 天出優子がこぶしやがなりといった歌い方のエッセンスを学びに行った先の演歌の指導者、作詞の指導もしているという事でこういう運びとなった。

 先に師事していた武藤愛照(メーテル)の作詞は、JK語、ギャル語、ネット語、隠語ばかりで常人には通じない。

 師事……というには弱いが、学びに来て、ついでに自作の詩を見せた優子の場合、言葉使いが古くて仰々し過ぎる。

 だから

「足して2で割れば丁度良いのでは?」

 と思われたのだ。

 同級生2人はお互いの顔を見合う。

 そしてお互いの歌詞を読み合う。

 確かにそこには、自分が求めている、不足しているものがあった。

 しかし……


「武藤さんって、普通の文章書けるよね?

 なんでこう、目がチカチカするというか、読んでて頭に入って来ない歌詞になるの?」

「貴女こそ、普段は現代語を使ってるじゃない。

 なんで歌詞になると、老人というか時代劇というか古文になるわけ?」

 とお互いにダメ出しをし始めた。

 同級生なだけに、何故相手がこんな感じの歌詞しか書けないか、疑問で仕方がない。


「私の場合、なんかこういう言い回しじゃないと調子が出ないんだよね。

 これと、のびやかなテナーや甲高いソプラノがイメージ出来ていて」

「感性の問題か。

 でも私も他人の事言えないわ。

 私はこういう歌詞でパラパラ踊りながらってのが、一番しっくりくるし」

 そしてしばし考えると

「お互い自分が好きなように歌詞を書いて、それを相手に修正してもらおうか」

 と同じ結論を出して、歌を書いてみる事にしたのだった。


 結果、

 優子作「誰が為にこの魂をば捧げ給うや?」

 愛照編「ソウルをやるって、そんなん知らんし」


 愛照作「ダリぃ朝、タリぃ挨拶とかバリクソbadじゃん」

 優子編「気怠き朝に物憂き修辞、我悪しくぞ思したり」


「天出さん、私の歌詞が、なんでこんなかび臭い歌詞に変わるのよ?」

「武藤さんこそ、私の歌詞の意味をちゃんと解釈してるの?」

「私の歌詞と音の数合ってないじゃん」

「それを言ったら、武藤さんこそ歌詞の文字数ガン無視じゃない」

 そしてお互い

「せめて文字数くらい合わせようよ」

 となって、作業し直す事となった。


 そして

「その古文みたいな歌詞、歌いやすいと思ってるの?」

「音楽は楽しければ良いとはいえ、その言葉、伝わらないじゃないか。

 意味が通じない歌詞なんて、ただのスキャットで済ませば良いでしょ」

 また意見をぶつけ合う。

 そして

「せめて歌いやすく、30~60歳くらいの人に通じる単語にしよう」

 と意見が合った。


 こういうやり取りを何度も繰り返し、すり合わせをしながら歌詞を作り上げた。

「どうでしょうか?」

 指導者は、弟子に対するものとは別に、優しく言った。

「これではパンチが弱いね。

 もう少し刺激的な歌詞にしようか。

 パワーワードっていうかな。

 印象に残る言葉が一つでもあれば、歌詞としては成功だよ」


 こうして2人は作り直す。

 同じように何度も衝突しながら、すり合わせをし、歌詞を作り直した。

 そして再度提出された歌詞。

「ギリハッピーこそ天上の真理、人の悲しき(さが)なりし……知らんけど。

 うわあ、武藤さんの今風の言葉と、天出さんの仰々しい言葉をそのまま足したのか。

 これはちょっと……」

「でも、それはサビ部分のここだけですし」

「そうです。

 話した結果、お互いの言葉で伝えるにはこれでいこうとなりました。

 他の部分を平凡な言い回しにした分、ここにインパクトを持って来ました」

「これ、自信作?」

「はい」

「曲まで含めて、これで良いと判断しました」

「え?

 もう曲まで作ったの?」

「そうです、この天出さんはそういうの得意なので」

「武藤さん……さも自分の功績みたいに胸を張らないで……。

(羨ましいし……)」

「あんた、文字通りの胸を見てたでしょ!」


 ギャーギャー言い合う前に、指導者は2人を宥めて曲を聞いてみた。

 なるほど、変なワードを含むが、音と合わせれば然程おかしくない。

「ここの音が少し弱いのは?」

 それには愛照が説明する。

「この部分は流れ的に感情を込めて歌う箇所なので、それを目立たせるようにしたんです」

「武藤さんのアドバイスです。

 フロイライン!はそういう歌い方が多いので、私よりも経験豊富です。

 それを聞いて、こういう感じにしました」

 作る前に愛照のアドバイスがあり、それを反映させて優子が即興で作ったようだ。


(作詞の合作を奨めたのは今日の事。

 もう作曲まで済ますとは、『音楽の天才』という評価は大袈裟なものではなかった。

 それにこっちのお嬢ちゃん、この天才についていっている。

 この子たちの世代は中々面白そうだ)

 納得して指導者は頷いた。

 そして、今後も彼女たちから相談があれば乗ると、ご機嫌で話した。




「おい、見てたか?」

 優子、愛照他、生徒たちが帰った後、部屋の片隅で居場所なげに立っていた弟子に声をかける。

「はい」

「どう思った?」

「才能があるって、ああいう事なんですね。

 先生が僕に才能無いからやめろって言ったのが分かりました。

 先生、お世話になりました……」

 そう言った弟子を、指導者は怒鳴りつける。

「バカヤロー!

 てめえ、そこからなにくそと盛り返す反骨精神はねえのか?」

「えっと……」

 やめちまえと言われたり、反発してみろと言われたりで混乱する弟子。

 指導者は溜息を吐くと、昔語りを始めた。

「さっき見た『音楽の天才』なお嬢ちゃん、あの子のプロデューサーやってる戸方風雅って奴な、あいつもてめえ同様、若え時はありきたりな言葉を並べるだけの、つまんねえ作詞しか出来なかったんだよ。

 詩としては良くても、言葉がつまんねえ、歌になってねえってやつさ。

 もう一人いた、背の高い色っぽい子、あの子のプロデューサーとは知り合いでな、一緒に曲作ったりしたんだ。

 その縁で、戸方風雅の面倒も見たんだが、まあ平凡だったね。

 んで、てめえと同じように『やめちまえ!』って怒鳴りつけたんだ。

 そうしたら、奴はどうしたと思う?

 次の日、10曲くらい歌詞書いて来て

『この中から使える言葉を教えて下さい』

 と来やがった。

 こいつは見どころ有ると思って、ダメ出ししながら、使える歌詞を選んでやったよ。

 また次の日には10曲くらい書いて来やがった。

 あいつは元々学者になろうって思ってたとかで、音楽の才能は無いって自分で言ってたよ。

 だけど、好きになった道だから、ここでやっていきてえってな。

 それから、書く量も増えたし、毎日のように押しかけて来やがった。

 迷惑な話さ。

 だけどそうやって、百曲以上ボツを食らって、段々面白い歌詞を書くようになって来た。

 僕のセンスとは違うけどね。

 あいつ、やたら曲を作るのが速いけど、多分あの時にそうなったんだと思う。

 一曲作っても平凡だ、二曲作ってニコイチにしても足りねえ。

 だが百曲も作れば、良い所繋ぎ合わせて面白い曲作れる。

 あいつはそうやって努力しやがった。

 僕が根負けするくらいにな。

 で、お前さんはどうだ?

 それと比べられるくらいの努力はしたのかい?

 才能が無いって突き放されたら、それくらい努力して自分を鍛えやがれ。

 それでもダメだと思ったら、すっぱり諦めな。

 でも、僕が見る限りてめえはそこまでの事をしちゃいねえ。

 才能はねえんだ、後は反骨でも諦め切れねえ気持ちでも、何でもいいから感情をぶつけて、それで十曲でも二十曲でも作って来い。

 僕を根負けさせてみろ。

 それが才能ある奴の足元にたどり着く道だ。

 足元にたどり着いたら大したものだ。

 後は売り方になるからな。

 分かったか?

 分かったら、面洗って、出直して来い。

 ここに来る時は、ペラ紙1枚の歌詞なんてチンケなもの持って来んじゃねえぞ。

 持って来るなら、ノート1冊びっしり歌詞書いたもん、持って来やがれ!」


 この指導者は時代遅れかもしれない。

 今の若者は、こういうやり方ではついて来ないかもしれない。

 しかし、この弟子は自分が見放されてはいなかった事、若い才能に一旦は心を折られても、やはり作詞をしていきたいという気持ちを思い出し、十年くらい後に若手の演歌作詞家としてデビューする事になる。




 こうした事とは無関係に、「才能ある若い子」こと天出優子と武藤愛照は、作詞の際の「言葉のセンスがちょっとおかしい」弱点を克服していく。

 なお、作品化にあたって修正する能力がついただけで、好きに書かせたら、相変わらず仰々しいか目が滑る歌詞となっていた。

 本人たちはこう言っていた。

「こっちで書いた方が調子出るし」

おまけ:

つまり、優子と八橋けいこの30曲作成とかは、プロデューサーが若手の時と同じなわけで。

レコード会社「あそこの芸風だね、もう慣れた」

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