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転生モーツァルトは女子アイドルを目指します  作者: ほうこうおんち
アイドル兼プロデューサーでやってみる
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日本は広い Teil.2

 アルペッ(ジオ)の全国ツアー、北東北でのライブは大入り満員とはならなかったが、それでも話題は全国に広まった。

 青森スペシャルという、津軽三味線アレンジの楽曲披露。

 秋田では横笛と太鼓でリズミカルにする、根子番楽ねっこばんらく風アレンジ。

 岩手では、同県出身のミュージシャン風味の、神秘的な感じのシンセサイザーアレンジも注目された。

 こんな風に

「その会場でしか見られないアレンジ曲」

 があると分かると、ファンは更に遠い会場のチケットも求めるようになった。


 そして、日本で最も遠い会場にも恩恵が。

 日本で唯一、陸路だけでは辿り着けない場所、沖縄である。


 日本は広い。

 海で隔てられているが、北は北海道から南は沖縄まで、かなりの距離がある。

 アルペッ女の大半のメンバーは、広島空港から沖縄に飛ぶが、その距離は約1,000km。

 ウィーンからパリの距離に相当する。

 天出優子たち東京組は羽田空港からだが、その場合の約1,600kmの長さは、ヨーロッパに置き換えるとベルリンからローマ以上となる。


 沖縄は北東北とは、また文化が違う地域だ。

 ここの音楽へのこだわりは、青森の津軽三味線とかより遥かに強い。

 音階も独自のもので、沖縄ならではの音楽に誇りを持っていた。

 それ故に、北東北でご当地アレンジの曲が披露されたと知るや

沖縄(うちなー)風の音楽は作れないんじゃないか、内地者(ないちゃー)には沖縄県民(うちなんちゅ)の心とか分からんさー」

「でも、なんか音楽の天才とか聞くさー。

 お手並み拝見って感じだーねー」

 と、軽く悪口を言いながらも、何か期待をし始めていた。


 楽しみにしているのは天出優子(モーツァルト)もである。

 遊び好きな人格ではあるが、楽しみなのは沖縄の海でも観光でもない。

 沖縄のファンが期待している「沖縄風」アルペッ女曲アレンジを、彼女自身が楽しみにしていたのだ。


「沖縄音階、ちらっとは聴いた事があるが、これで曲を作るというのは中々興味深い!」

 沖縄音階、それはドレミファソラシドからレとラを抜いたものである。

 また半音が存在しない。

 ヨーロッパの音階に慣れた作曲家には、いわゆる「縛りプレー」での曲作りとなる。

「こういう制限付きってのは、ゲームとして非常に楽しいんだよね」

 楽譜を逆さまにして既存の曲から新曲を作るとか、目隠しをしてチェンバロを弾くとか、前世では縛りプレーで遊んだりもした。

 普通に曲を作る、曲を奏でる事が出来る故に、ちょっと制限があった方が楽しい。

 それで反感を買う事もあるが、どこぞのキセキの世代と同じように、普通に音楽をするだけでは退屈に感じる時がある。

 こういうハンデは退屈しのぎになるだけでなく、音楽家としての感性も刺激していた。


「学校教育では、日本は狭い国だって習った。

 教科書で見た、私が前世で住んだり、旅をした国は大きいと思った。

 実際、日本ではあちこちに行くにも、電車で楽に移動出来るから大きさを感じなかった。

 だけど、こうして全国ツアーをしてみて、その場所でも満員にすべく、行く場所の音楽を聴いてみると、中々にバリエーション豊富で面白い。

 風景も東京で過ごしているのとは違うものが見える。

 そう思って改めて見てみると、日本は中々に大きな国で、文化も色々なんだな。

 沖縄なんてのは、特に特徴的だ。

 刺激になる! 刺激になるぞ!!」


 青森に先乗りして、その場で思いついたアレンジではなく、沖縄公演にはまだ日がある。

 優子は沖縄の楽器、三線さんしん三板さんば、四つ竹といったものの音を学ぶ。

「口笛も音の要素として重要なのか」

 世界は広い。

 ヨーロッパと精々オスマントルコの音楽しか知らなかったモーツァルトの時代のヨーロッパ人には、世界の音楽は刺激的だ。

 聴くだけならともかく、取り入れて曲を作るとなると、また違った楽しみがある。

(こんな楽しみは、前世で同じ時代に生きた作曲家たちは味わえていない。

 本当に、どういう理屈かは知らないが、神の御許になんか行かずに転生して良かったよ)


 やるとなったら、とことんやるのが天出優子(モーツァルト)である。

 時間がある以上、音作りだけでは終わらない。

 沖縄では、音楽が流れると踊り出す人が多い。

 音楽は楽しむものという思いで第二の人生を過ごしている音楽家にとって、こういう楽しげなものはどんどん取り入れたい。

 沖縄には「琉球舞踊」「エイサー」「カチャーシー」といったダンスがある。

 いくら時間があるからといって、激しいダンスを売りにしていないアルペッ女に、慣れないダンスはさせられない。

 ダイナミックな動きの「エイサー」はやめておこう。

 足運びが独特な琉球舞踊も、そのまま使うには時間が足りないし、優子の理解もまだ足りない。

 残るはお祝いの席の最後とかで、皆が踊る即興的な「カチャーシー」となる。

「かき混ぜる」という意味の自由な踊りだから、ここに琉球舞踊の「手をこねるような動きの『コネリ』」と「しなやかな体の動き『ナヨリ』」を取り入れよう。


 こうした沖縄アレンジが戸方風雅総合プロデューサーに送られ、戸方Pから振付師のKIRIEに諮られ、問題無いと判断されてからアルペッ女のスタッフに打診される。

 表向きは戸方プロデュースであり、優子は名前を出さない、単なる兼任メンバー扱いだから、こういう手順となっていた。

 そしてアルペッ女メンバーに、移動前の全体レッスンで沖縄アレンジが伝えられる。

 変人たちばかりだが、根は前向きで良い子たちばかりだ。

 突然のアレンジにも

「おおー、沖縄らしい!」

「なんか楽しいよね」

「沖縄のファンの人たち、喜んでくれるかな」

 そんな事を言いながら、楽しくレッスンする。




 そして沖縄公演当日。

 今回は前乗り宣伝は他のメンバーが担当しているので、優子は当日朝、羽田空港から那覇に向かう。

 横には問題児の長門理加・筑摩紗耶の東京住み二人。

 マネージャーも一緒にいる。

 どうやら数日前からフェリーターミナルに貼り込んでいて、あえて飛行機でなくフェリーを使おうとした2人を捕獲し、説教の後、空港に連行して来たのだ。


 こうしてアイドル3人、マネージャー6人という大所帯に、今日は結構な人数が声をかけて来る。

「自分たちもこれから沖縄です」

「もしかしたら一緒の便ですか?」

「沖縄参戦します!」

「俺、今日で5回目だけど、毎回違うから面白いです」

「今日しか見られない曲とか、楽しみです」

 そう一言伝えていくファンたち。

 リピーターや遠征する者は確実に増えていた。


「優子ちゃんが色々やってくれるから、沖縄公演も完売だってね」

 長門がニヤリとしながらそう言った。

「ナンノコトデスカ?

 ワタシ、ナニモシテマセンヨー」

「まあ、そういう設定だったよね。

 悪い悪い。

 でも、感謝してるのは確かなんだよ。

 まさかうちらが、沖縄公演で完売とか出来ると思わなかったから」


 そしてアルペッ女は、完売の沖縄公演を成功させる。

 北東北では完売とならなかった為、さらに移動上の条件が悪い沖縄での完売に、アルペッ女メンバーとスタッフは大喜びである。

 そんな中、優子は少し不機嫌であった。

 沖縄に来て、ライブ成功後の食事を音楽レストランでしたのだが、そこで聴いた沖縄音楽に

「自分のアレンジは、形を真似しただけで、どこをどう直したら良いとは言えないが、本物に比べたら何かが足りない。

 別に沖縄音楽専門でいくわけではないから、凝る必要はないかもしれない。

 でも、手をつけたからには、精髄のようなものまで理解したい。

 私もまだまだ学ぶ事が多いなあ」


 こと音楽に対してだけはクソ真面目な部分がある優子は、そう思い

(次に沖縄で曲を披露する機会があれば、もっと心に響く音楽を聞かせたい!)

 と決意するのであった。

おまけ:

モーツァルトの縛りプレーでの音楽遊びは、映画「アマデウス」の描写からのもので、実際には無かったと思いました。

やりそうではありますが。

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