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転生モーツァルトは女子アイドルを目指します  作者: ほうこうおんち
アイドル兼プロデューサーでやってみる
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全国ツアーが始まる前に

 アルペッジオの新アルバム販売は好調だ。

 だが、全国ツアーのチケット販売は伸び悩んでいた。

 無理もない。

 CDは一人が何枚でも買える。

 話題性もあり、新規で購入する人も増えていた。

 しかし、ライブとなれば話が違って来る。

 一人が何回も行きたいと思うには、何回でも見たいと思わせるだけの何かが必要なのである。

 だから、初日を迎えて内容が余りにも良ければ、買えるライブが次々と買い増しされる。

 ライブで毎回違う特典が有るとかでも、リピーターは増える。

 しかし、全国ツアーというのは、そのインパクトに対し、リピーターにはマイナスに作用する。

 極端な話、瀬戸内のファンは青森県まで遠征したいだろうか?

 これが北海道なら話が変わる。

 そこまで遠い上に、美味しいものや観光資源が多数あるなら、ライブの為だけの遠征で終わらないからだ。

 しかし、青森、秋田、岩手、山形とかだと、最初からファンが少ないのを予想して抑えた会場が繁華街から外れていたり、遠征した後翌日も休まないと移動だけて疲弊してしまう。

 瀬戸内だけでなく、関東圏・関西圏のファンにも土地勘が無く、二の足を踏んでしまう。

 例えば、福島県は郡山市が一番の都会なのだが、知らない人がライブ会場はそこだと聞くと

「福島市じゃないの?

 なんでそんな辺鄙な場所でするの?」

 となってしまう。

 地元民には失礼な話だが、逆もまたある。

 東北地方の数少ないファンが、山口県まで遠征したいとは中々思わない。

 そして、瀬戸内のファンも東北のファンも、北陸でライブだと遠征したがらない。

 結局、そこに行かなくても近場で見られるなら、わざわざ行かない。

 全国四十七都道府県ツアーというのは、チケット完売は中々ハードルが高いのだ。


 戸方風雅総合プロデューサーは、音楽家であると共にビジネスマンでもある。

 元々がバンドマンとか歌手とかでない彼は、自分の音楽の才能を過大評価していない。

 だから「良い音楽なら売れる」という、天出優子モーツァルトがまだ持っている幻想は無い。

 売る為には宣伝や購買意欲を掻き立てる演出、時には強引なやり方も必要だと理解していた。


 全国四十七都道府県ツアー、これを最終的に承諾したのは彼である。

 全国ツアーのデメリットなど百も承知。

 彼には売る算段が有ったのだ。

 それをするには、兼任メンバーとなった天出優子が合流する前では早過ぎる。

 宣伝せずに、開演してから口コミに任せるのは遅過ぎる。

 優子が合流した辺りで、ついに頃合い良しと手を打った。




「はい、集まって下さい」

 山口チーフマネージャーが全員を前に、フリップボードを見せた。

 普段は野生のままの動物園状態なアルペッ女レッスン場だが、予めカメラが入る事を伝えていた為、彼女たちはお仕事モードに入っていた。

「これからセットリストを発表します」

 アルペッ女メンバーは、セットリストをツアーが始まる前に公開する事は、何かの仕掛けがあると察して息を呑んだ。

 セットリストが書かれたボードだが、一部シールによってマスキングされている。

「ここをどのユニットが歌うか、抽選で決めようと思います」

 そうして別のスタッフが、日本地図と抽選箱を持って現れる。

 つまり、都道府県でセットリストが変わるのだ。

 意図を理解し、盛り上がるメンバーたち。

 だが、まだ分からない事がある。

 セットリストの中に「ソロ」「デュオ」「トリオ」というのがあった。

 それについてリーダーが代表して尋ねると

「今から抽選して、歌うメンバーと、曲を決めます」

 との事だった。

 今回のアルバムは、全部で40曲もある。

 更にアルペッ女のシングルも既に10曲リリースしているし、スケルツォ・アダージョという姉妹グループや、カプリッチョ等の限定ユニットの曲もある。

 全部を一回のコンサートで使う事は無いが、それ故にセットリスト漏れの曲から、回替わりで歌う曲を選ぶという遊びも可能だ。

 なにせ、デビューから数年の「姉妹グループの曲を借りないとセットリスト組めない」のとは真逆で、「有り余ってるから、仕方なくセットリストから外した曲の中で、敗者復活戦出来ないかな」という状態なのだから。

 こうしてソロとトリオで歌うメンバーが抽選で決まり、その臨時ユニットが抽選して曲を決めていく。

 デュオだけ抽選ボックスには無い。

「これは、天出優子さんと歌う相手を抽選するものです」

 メンバーがざわついた。

 それなら既にゲームで決めて、8人選抜されたじゃないか。

「それはアルバム収録用です。

 コンサートで歌う相手は、これから抽選します。

 アルバム収録で一緒に歌った8人以外もあります!」

 メンバーがまたざわついた。

「それって、例えば私が選ばれたとして、私用のアレンジされた曲とか渡されるんですか?」

 山口チーフマネは、困ったように優子を見て

「天出さん、どうですか?」

 なんて言って来た。

(私が作ってるってバラさないで!)

 と思い、

「すみません、私に聞かれても……。

 戸方さんに聞いて下さい」

 とかわしてみた。

(やろうと思えば、編曲くらい簡単だけどね)

 と、別に難しいとは思っていない。

 あとはメンバーのやる気次第だ。

「大淀さんは、選ばれたとして、自分用のアレンジで歌いたいんですか?」

 山口チーフマネが、質問して来た大淀望美に聞き返す。

「もちろんです!

 絶対欲しいです」

 周囲のメンバーも一様に頷いている。

 オリジナル曲でなくても、自分スペシャルな曲は欲しいようだ。

「……という事なのですが、これで良いんですかね」

天出優子わたしの方見るなよ)

 そう思いつつ

「そうですね。

 戸方さんにお願いしてみます」

 と返答した。


 こうして抽選が進む。

 メンバーは他にも気になる事を見つけた。

 日程の後半については、抽選に無い。

 リーダーが代表して

「もう一回、同じように抽選配信するんですか?」

 と質問したところ、予想外の回答が返る。

「ユニットに関しては、後半は違う組み合わせになりますが、大方その通りです。

 また抽選します。

 しかし、ソロとトリオについては違って来ます。

 後半戦のメンバーは、お客様に決めて貰います」

「え?」

「前半戦の会場全てでアンケートを取ります。

 どんな組み合わせが見たいか、サイトから入力して貰います。

 また、各公演のMVPを投票して貰い、最終の東名阪と、広島の千秋楽ではMVP票数が多いメンバーに歌ってもらいます」

 ざわつくメンバーたち。

 しかし、基本的に楽観的で大らかな子ばかりな為

「ファンの方たちに入れて貰わないと!」

「組織票反対!

 実力勝負よ!」

「滅多に行かない会場のファンに、思いっきりアピールしないと!」

 等と盛り上がり始めた。


(戸方さん、本当に商売上手いなあ)

 一連の配信収録を終えて、優子はそのように感じた。

 これでどれ一つ同じセットリストは無く、全ての会場かユニークなものとなった。

 組織票であれ、実力票であれ、推しを大舞台のソロ等にしたい場合、一人一公演につき一票だから、数多くライブ参戦した方が票数を増やせる。

 やり方が阿漕ではあるが、話題も振り撒けた。

 実際、この様子が配信された直後から、チケット売り上げが伸び始めている。

 今まで売れてなかった県でも、そこで歌うメンバーのファンが買い増しし始めた。

「話題作りが露骨だ」

 と騒ぐ人もいるが、こういう業界、話題になってナンボである。


「まあ、観に来ない人があーだこーだ言っていても、メンバーたちとファンが盛り上がっていて、楽しそうだから、これはこれでアリだな」

 天出優子モーツァルトは「音楽は皆で楽しむもの」という転生後のポリシーから、このやり方も肯定するのであった。

おまけ:

武藤愛照は悩んでいた。

フロイライン!の基本方針は

「我々はグループだ、仲間だと馴れ合うつもりはない。

 チームワークとは、強い個と個のぶつかり合いの果てに出来るもの。

 グループがあって自分がいるんじゃない、自分がいてグループになる。

 だから、個を磨く事こそ、グループの為になると思え」

というものだ。

だが、正直中学生の愛照が一人で何かしようとしても、考えつく事には限度がある。

だから、恥を忍んで先輩にどうしたら良いか聞いてみた。


「あれ?

 先輩はいませんか?

 ここに居るって聞いたんですが?」

「あ、もしかして、あの滝に打たれながら発声練習している女性の事ですか?

 明鏡止水を極めるとか言って、刃の無い刀で木を切ろうとしていたりしていた……」

「……違います」

ちょっと着いていけないから、この修行をしている人には聞かない事にした。

(続く)

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― 新着の感想 ―
言うなれば運命共同体。 互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。 一人が五人の為に、五人が一人の為に。 だからこそライブで輝ける。フロイライン!は姉妹、フロイライン!は家族。
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