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(幕間)運営スタッフたちの野望

 振付師コレオグラファーKIRIEは、オリンピック開会式のセレモニーを担当した事もある、この世界では重鎮である。

 自分に対しても他人に対しても厳しい。

 スケルツォ等、アイドルの緩やかなダンスは歯牙にもかけていない。

 バレエに近い高度な動きを要求する。

 スケルツォのライバルであるグループアイドルの振付を担当していたが、余りの低レベルに一度辞任してしまった。

 そのグループは、クラシックバレエ経験者、モダンダンス経験者、怪我が無ければ新体操でオリンピックに行けた人、フィギュアスケートの元選手等を集めて、ダンスチームと歌チームに分ける事で、再度彼女を招聘、納得のいく振付をして貰った。

 そのグループは以降、KIRIEの指導をマニュアル化し、直接指導ではなくてもアイドルとしては高度なダンスが売りとなっている。


 スケルツォは、ゴリゴリのダンス路線ではない。

 素人を集めて、愛嬌と楽しさとノリの良さ、そして思春期の奥手な男子の心境を代弁した歌詞とで人気を得て来たのである。

 売れっ子振付師KIRIE招聘は以前にも考えられたが、レベルが低過ぎる事から双方から中止となる。

 だが、総合プロデューサー戸方風雅は、再び彼女の招聘を目論む。

 そして彼女は、密かにスケルツォと研究生のダンスレッスンを確認していた。


 もう一人、戸方Pは歌唱指導に晴山メイサという女性を呼ぼうとしていた。

 晴山は演歌歌手や声優等のボイストレーニングをも担当している。

 ブレない発声、初動からハッキリした発音と音量、早口でも聞き取れる滑舌の為に、独特の指導を行う事でも有名だ。

 別のアイドルグループの「音程って何?」とか「音域が2オクターブの幅しか無い」ような子を、しっかりした歌手に育て上げた為、指導力は確かである。

 その晴山も、歌唱レッスンを密かに見学していた。


「辺出ルナ、帯広修子、暮子莉緒、灰戸洋子、あと研究生の……小っちゃい子、天出優子か、あの辺は私が指導する必要無いですね。

 上手いですよ。

 他の子は指導すれば上達はすると思います。

 ただ、今の感じからは大分変わると思います」

 晴山はメンバーを見ての率直な感想を戸方に伝えた。

 一方、KIRIEの方は辛辣である。

「見ましたけど、大丈夫ですか?

 前よりはプロらしい動きになってましたが、素質ありそうなの2人しか居なかったっスよ。

 李友里って子、あの子人気メンバーじゃないですよね。

 あと位置取りはサッパリだけど、研究生の天出優子って子。

 あの子はリズム感有るの分かります。

 あとは、厳しく鍛えてどうにかなるってレベルで、とてもじゃないけどK-POPグループとかには勝てませんよ」

 とバッサリ。

 戸方Pは薄ら笑いをしながら

「お二方とも、まだ研究生の天出に気づいてるのは流石です」

 と返す。

「あの子は良いですよ。

 今でも十分だけど、まずは抑えさせてます。

 KIRIE先生が仰ったように、リズム感は抜群です。

 妙に動きが古典的で、その点、うちの八橋って子と似ていて直すのが大変です。

 が、上手く育てれば、激しく踊りながら歌えるようになる」

 戸方Pの熱弁に、晴山が何かを感付いたようだ。

「私は、踊りながらでもブレない発声とか、マイクホールドとかを教える事になりますかね?」

 戸方はニヤニヤしながら頷いた。

 KIRIEは苦い表情である。

「どんな曲作るのか分かりませんけど、並大抵じゃ出来ないっスよ。

 踊るだけならダンサー、歌うだけなら歌手、歌って踊れるからアイドルなんだって言いますけどね。

 あくまでも歌って踊る、なんですよ。

 もし踊りながら歌う、と逆にしたら大変な事になりますね。

 ダンスチームと歌チーム分けるから良いですけど、戸方さん、貴方は将来天出って子に両方やらせて、他のメンバーもそれに着いて行けるようにしたいんですよね?」

 それに対し、戸方は膝を打って

「流石です。

 そこまでお分かりなら、敢えて説明する事は無いです」

 と笑いながら酒を煽った。

「他の子たち、泣くんじゃないですかね?

 私、容赦しませんよ」

 そんなKIRIEの警告にも

「それはそれで美味しい。

 泣くところもファンに見て貰おうじゃないですか。

 先生、悪役やってくれますからね」

 とほくそ笑むプロデューサー。

 グイッと一杯酒を流し込むと、

「ま、うちの子たち、そんなやわじゃないですからね。

 泣いても、罵られても、きっと立ち上がる」

 と真面目な顔になって告げる。


 3人の打ち合わせ兼飲み会。

 しばし沈黙が場を支配する。

 晴山の咳払いが沈黙を破った。


「まあ、その期待の天出さん一人に託すわけじゃないですよね。

 他は誰を想定してるんですか?」

 アイドルグループな以上、一人だけをフィーチャーするわけにもいかない。

 グループはセンターだけでは成り立たない。

 ファンにとっては、その曲のセンターだけが全てではない、それぞれの推しがいる。

 それらにも歌割り、見せ場を与えないと、贔屓されたセンターの子が恨まれ、かえってマイナスになる。

 だから、他は誰を見込んでいるのかを尋ねたのだが、回答は

「さあ?」

 というものであった。

 それは決してプロデュースを放棄した台詞ではない。

「今は皆と歩調を合わせる為に制限を掛けている、才能を持った子が何人かいる。

 彼女たちのリミッターを解除したい。

 そうしたら、着いて来られる子を前面に出す。

 確かに天出優子は傑出した才能を持っている。

 だけど、別に彼女だけを推すわけではない。

 彼女はきっかけです。

 彼女を見て、今の王道アイドルの形ではない、才能がある子に合わせた形をやったらどうなるのか、試してみたくなったんだ。

 今の王道路線をずっと続けると、安定はするけど進歩はない、7女神や灰戸洋子といった人気メンバーが卒業したら先細りになってしまう。

 だから、一回引っ掻き回してみたいんだ。

 そうすれば7女神ではない、新しい子が台頭して来るかもしれない。

 いや、きっと出て来るだろうね。

 僕はそれに期待したい。

 それが今の夢なんだ」


 いつもニヤニヤして本心を見せない戸方Pが、酒の助けも借りて、珍しく熱く語る。

 それに呼応してか、KIRIEも酒を飲み干してから

「分かりました。

 与える試練は厳しい方が面白そうです。

 その中から、どんな才能が芽生えてくるか、楽しみですね。

 まあ、全員潰すかもしれませんがね」

 と不敵に笑った。

「潰れませんよ、うちの子たちは」

 プロデューサーもニヤつきながら言い返す。


 そして黙って乾杯する2人。

 遅れて乾杯に加わった晴山も、

「私だけ緩いわけにもいきませんね。

 恨まれるかもしれませんが、厳しくいきます。

 本来厳しく指導してるので、いつも通りですがね。

 アイドルにも容赦はしませんから」

 と告げた。


 かくしてスケルツォは一段、いや二段レベルが高い楽曲に向けて皆を鍛えていく、そのように運営サイドの方針は決まったのである。


……まあ、天出優子が本契約になり、正規メンバーに昇格するのを待つような部分もあり、2年越しの悠長な計画なのだが。

 

おまけ:

あえてアイドルとかオーディションメンバーに厳しくし、泣かせるのはASA◯AN式かも。

パワハラになるから、今はもしかしたら出来ないかもしれませんな。

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